ゴーレム。立ち回りを考えれば、そこまで厄介な敵ではない。

巨大なに鈍重なき。レベル10の敏捷値でも攻撃が避けられるほどだ。

刀を腰だめに俺は地面を駆ける。ゴレームが腕を振り上げる。

――遅い。

振り上げ切った時には、すでに足元へ潛り込んでいる。

石柱の一つへ、白刃を振るう。叩き付けられた刃は、しかしその巖壁に弾かれた。

次いで発生する紅いエフェクトでも、傷一つ付けることはできない。

――緋桜でもダメか。

直上から、生暖かい風。俺は後ろに跳び、振り下ろされた拳をかわす。

砂埃が舞い上がる。下に隠れていた石床が割れ、刃となって襲い掛かる。

刀で斬り落とすが、逃した破片がを薄く裂いた。

――ッ！

“鋭い痛み”に、俺は顔をしかめた。

頭の片隅に引っかかるものをじつつも、無視して著地。制を整える。

「ヒールっ！」

背後から響く聲。

俺のが緑の淡い輝きに包まれ、傷が瞬く間に塞がっていく。痛みが消える。

「大丈夫ですか？」

聲に遅れ、ナツメが隣に現れる。

彼のクラスは神。ヒールはその初期スキルで、効果は対象者のHPを小回復させるというものだった。

こちらへ鈍重なきで向かってきているゴーレムを視界に収めたまま、俺は彼に問いかけた。

「ユニークスキルのじはどうだ？」

「タブレットを開いていないのでわかりませんが、恐らく過去最高の狀態だと思います」

それを聞き、俺は頷いた。

「なら、ゴーレムの相手をしばらくお前に任せる」

「な、なんでですか⁉」

「……元々の目的を忘れたのか？」

そもそも。彼を目立たせるのがこの闘技場に參加した理由なのだ。

レベル50のステータスでクリムゾンブレイズを使用すれば、確実にゴーレムは沈む。

だが、それで目立つのは俺だけ。本末転倒なのだ。

ナツメは戸ったように。

「ですが私、今は何の武も裝備してないのですが」

「は？」

は？

「すみません、今日のコーディネートに武は似合わないかと思って」

ゴスロリ姿のが、誤魔化すように笑みを浮かべる。

おいおいおいっ。

「どうも得を取り出さないからおかしいと思ったら……っ！

お前、一何しに闘技場に來たんだ！」

「ゲームのアイドルと言えば、応援とかサポートがテンプレだとサイトに書いてあったので……」

「武も持ってなかったらただの痛い地雷プレイヤーだろ！」

そんなやり取りをしている間に、ゴーレムの攻撃範囲にっていた。

巨腕が、地面に弧を描くように振るわれる。

――やば、ナツメは避けられ……あれ？

心配したがその場から忽然と姿を消していた。

直後にズドンッという、腹に響く打撃音。

ゴーレムの攻撃が逸れ、俺の上空を過ぎ去っていく。

何が起きたのか。その答えはゴーレムの前に立っていた。

「えーと。ここから先は、あたしが相手だ……なんちゃって？」

拳を構えるわけでもなく。

ナツメは目元にVサインを當て、そうおどけてみせた。

――おいおい、マジかよ。

俺の考えが正しいとするとこれから起きるのは、

『おーっと、無謀にもナツメ選手が前に――』

実況の聲の途中、地面がぜる。

一どれだけの敏捷値になっているのか。

なくとも、人間の目に捉えられる速度ではない。

気づけば、數十に渡る打撃音。

ゴーレムの巨が大きく傾き、地面に背後から倒れる。

一どれだけの攻撃力を有しているのか。

のコアが砕け、そこを中心に蜘蛛の巣のようにヒビが走る。

HPバーは、気付けば一割ほど削れている。

なおも姿なき攻撃は続き、凄まじい連撃にゴーレムが地面へ陥沒していく。

とんでもないステータスの暴力による、ワンサイドゲームだった。

『なんだなんだなんだ⁉　一、今私たちの目の前で何が起こってるのでしょうか！

これが、ユウト選手の切り札⁉　その場から全くいているようには見せませんが』

いや、いてないし。

エモーションハート、恐ろしいスキルだ。

クリムゾンブレイズどころじゃないじゃん、多の條件でこれが常時とかもうゲームバランス完全崩壊だよ。

これで現バージョンでゴーレムが倒せないとか、かなりのデバック不足なんじゃないだろうか。

まあ、リアナがイタズラしまくったせいで時間がなかったのかもしれないが。

運営のスタッフらしき壯年の男が今一どんな顔をしているのか気になって、そちらに目をやる。

彼は、醒めた瞳をしてフィールドを見下ろしていた。

直後、俺は嫌な予を覚える。

それを司會者のは形にした。

『凄い凄い凄い！　凄いラッシュだぁ！　しかし、いいのでしょうか⁉

ゴーレムは一定回數の攻撃で、殲滅モードに切り替わってしまいます！

まさか、それすらも完封して見せるというユウト選手の余裕なのでしょうか⁉』

――え？

構える暇もなく。

ゴーレムのが烈と共に弾けた。

外からではなく、部から。