突然の訪問者が現れたことによって、ほとんどの者が呆気に取られて何も出來ずにいた。

違う反応を見せたのは二人。

一人は龍一郎じいさん。普段絶やすことのない笑みは消え、腰に下げた剣へ手をかけつつ臨戦態勢となり、戮に対して強い警戒心をあらわにしている。

もう一人は鈴音だ。

「……こうして森から出てきた以上、いつかは他の契約者とかちあうこともあろうかとは思っていたが、ちょいと早すぎるのう。しかもよりにもよって蛇の契約者とはな。……また面倒な奴が表れたものだ。皆、不用意にくでないぞ」

口調はいつもの調子だが、抱かれている俺には、鈴音がじっとりと汗をかいているのが分かった。

「うふふふ。かの『東の隠し干支』にお褒めに預り、栄の至りで座いますネ。さて、この度鈴音様と契約をした果報者のお名前をお聞きしても宜しいですかな？」

「慇懃無禮な小僧だな。……嫌だと言ったら？」

「これはこれは鈴音様！　若輩者のワタクシがこんな事を申し上げるのは甚だ僭越では座いますがネ――」

――拒否権は座いません

闇が、戮を飲み込んだ。

「キャッ？！」

「おっと、いてはいけません。手元が狂ってしまいますからネ」

一どうやって移したのか。闇から現れた戮のスーツの袖からは薄い刃が突き出ており、千春さんの首元に當てられていた。

「てめえ！　アタイの弟子を離しやがれ！」

「落ち著けエマニエル。……殺すなよ小僧。殺せばお前も死ぬ事になる」

「これは異なことを仰る。『干支は人を殺せない』。そう蛇に聞いておりますが？」

「何事にも例外はある。試してみるか？」

戮の肩に乗っている蛇が鈴音の殺気を警戒するように鎌首を持ち上げ「シー！」と牙を剝き出しにする。

「蛇、下がって良いですよ。……うふふふ。どうやら冗談が過ぎたようで座いますネ。ワタクシも鈴音様と事を構えるつもりは座いませんよ。ただ、鈴音様の契約者様と同じのムジナとして、近づきになりたいと思っているだけで座います。――それで、改めてお名前を伺っても？」

「……まあ良い。主の名は巧魔だ。これで満足か？　小僧。満足したならその刃を納めてさっさと立ち去れ」

「うふふふ、どうやら嫌われてしまったようで座いますネ。良いでしょう」

戮が刃を納めた剎那、龍一郎が瞬時に距離を詰め、袈裟けさに斬り捨てる。

が、もうそこに戮はいない。既に龍一郎が斬りかかった場所から離れたところで歩き出している。

あれは、俺が『創造』の力を持つように、何らかの異能なのだろうか。

「本日こちらに參りましたのは、僭越ながら巧魔クンに忠告をと思いましてネ。――それっと！」

戮が急に片手を振り挙げる。

一何だ？　と思っていると、額に強い衝撃と痛みが走った。