「理解不能。戮、説明しろ」

森を抜けたところで蛇が肩から飛び降り、人の姿へと変わった。

黒に近い紺の簡易な鬼裝束おにそうぞくをに纏い、足には草履。

髪は黒の短髪。背は小柄で150センチ程。年は10歳前後に見える。涼やかな印象をける目でこちらを睨み付けている。全として整った容姿ではあるが、笑った表を滅多に見せない為、蛇にたいして見た目の年相応に可いという印象を持ったことは一度もない。

「貓の契約者を殺さなかったことについてかネ？」

「そうだ。あれは危険。今のに芽を摘むべき」

「うふふふ。いくらワタクシでも赤ン坊を殺す趣味は無い」

「興味無し。お前の趣味はどうでもいい。彼かの存在が呉ごにとって良いか否かが重要だ」

ぶれないな蛇こいつは。

12干支達にとっては國に対して忠誠を誓うのは當然。そういう風に出來ている・のだ。まあ、もちろん例外はあるが。

そのなかでも蛇は國に対するーー呉ごに対する忠誠が高いように思われる。

「呉からけた命令は『東に現れた貓の契約者の偵察』だ。ヤれとは言われていない」

「笑止しょうし。今回の報告で暗殺命令が出るのは確実。ならば先んじて殺しておくべき」

「たらればで事を語るべきではない。それに何度も言っている話だが、ワタクシは蛇のように呉に忠誠を誓っているわけではない。ワタクシは心踴る戦いがしたい、只それだけだ。暗殺なんて詰まらん命令はけるつもり無いネ」

「……あの赤子の能力は異常。６年後となれば、その力がどうなっているか想像不能。……本當に６年後戦うつもりか？」

「勿論。俺が何のために呉に助力していると思っている？　呉の計畫は滯りなく進んでいる。今のまま行けば、まず間違いなく６年後にワタクシと巧魔クンは必ず合間見える事になる。ワタクシがそうするのではない、周りがそうさせるのだ」

「阿呆。だからこそ今殺せば良いものを」

そう言うと蛇はタメ息をついてそっぽを向いてしまった。今日の蛇はえらく不機嫌なようだ。

「なんだお前らしくもない。……まさか心配しているのか？」

笑止。おそらくそんな返答が返って來るだろう。蛇にとって興味があるのは己が忠誠を誓う呉に対してのみ。それ以外は路傍の石も同然だ。

「笑止」

それ來た。予想を裏切らない反応だ。

「……戮は退屈しない。無茶をして死なれてはつまらない」

……否、予想外の反応だ。どうやら本當に心配していたらしい。

「……まあ、無茶はしないさ」

「なら良い」

蛇はしふてくされたようにそう言うと、直ぐに蛇に戻り、俺の背中に潛り込んだ。

……くふふふ。俺が人並みにをじているのか？

恐らく違うだろう。蛇の意外な反応に々驚いただけだ。

俺の人生、殺して殺して、そしていつか殺される。

只、それだけ。そして、それで良いのだ。それこそが、この剎那の人生という船旅を逝く唯一の羅針盤よ。

俺は月の位置を確認する。夜が明けるまでし寢れる時間が取れそうだ。程度の良い寢床を探すとしよう。

俺は未だ明ける兆しの無い闇に潛り込むようにして進み出す。

先ほど中に生まれた微かな違和は既に無い。

今の俺の中には只、６年後の會瀬を、夢見るのように想うばかりであった。