《転生プログラマのゴーレム王朝建國日誌~自重せずにゴーレムを量産していたら大変なことになりました~》34 Re:play
豚助氏は刃を出したものの、顔はすっかり青ざめていた。
豚助氏にはその刃を人に向けて使う気も度も無いだろう。
私にはそれが解る。
だが、あの子達にそれは解るまい。
「な、なんだ?  どうしたんだこいつらは?」
魔邸にいた3のミニゴーレム達。彼らの目が蒼白いを放ち、豚助氏へじっと視線を送っていた。
この子達は部外者の危険な敵対行為を見かけると、その視界を近くの見廻組ゴーレムと巧魔氏へ送るように出來ているのだ。既に一番近くにいる見廻組がこちらへ向かって走ってきているだろう。
宿泊客達がざわつき始める。
「おい、今日の見回り組はどっちだ?」「『農業組』だよ。ついてないなアイツ。下手したら死ぬぜ」
見廻組には2パターンある。『武組』と『農業組』だ。武組の場合は拘束されるだけで怪我をせずに済むが、農業組の場合はそうはいかない。下手に逆らえば死ぬ事もある。
以前、龍都からやって來た奴隷商人が村へ忍び込み、暗くなったのを見計らって子供達を連れ去る事件が起きた。
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危うく龍都の奴隷市場へ連れてかれるところであったが、真夜中になると子供達は何事も無かったように全員無事に家へ帰ってきた。夜が明けて辺りを捜索してみると、村の外れに転がる死が一。額に鎌を深々と埋めた奴隷商人であった。
それ以來、『國王を暗殺するよりも森谷村でパン一個を盜む方が尚難しい』とまことしやかに噂されるようになった。
ギィ、と宿の大扉が開かれる。
青白いが室を見渡す。
彼の手には鋭い鎌が一つ。蒼白いに照らされてキラリとっている。
豚助氏がぎょっとして一歩下がった。
「な、なんだこの奇妙なゴーレムは? 鎌なんて持ちやがって」「ももも、持ちやがって」
現れたのは農を裝備した見回組のミドル・ゴーレム。敵を認識したのか、豚助氏を靜かに見據えている。
豚助氏は強がりを言っているが、小夏氏は余程怖いのか、豚助氏の後ろへ隠れて出てこようとしない。
「豚助氏、悪いことは言わないです。刃を納めなさい」
「俺様に命令するな!」
ひゅん、と音をたてて何かが豚助氏の頬を掠めた。確認するまでもない、ゴーレムが放った鎌である。
豚助氏の頬に赤い筋が走った。
「……今のは外れたのではありません。一回目はそうなるようになっている・のです。私には豚助氏が刃を振るう気が無いのは分かっています。つい、抜いてしまったんですよね? でも、そのゴーレムにそれは通用しません。次の一撃は必ず命中します。……悪いことは言わないです。刃を、納めて下さい」
「…………」
豚助氏は項垂れて下を向く。良かった、どうやら矛を納めてくれそうである。
「………………し」
「? 何です?」
「知ったような口を聞くな! 俺様は豚狩村の英雄豚助様だ! 一度出した刃やいばを納められるか!」
豚助氏は刀を振り上げる。
「っ?! 馬鹿!!」
が、時既に遅し。
ゴーレムから無慈悲な一投は既に放たれた。
放たれた鎌は一分の狂いもなく豚助氏の額に吸い込まれていきーーーー
…………ボーン――――――ボーン――――――ボーン………………。
あたしが目を覚ましたとき、柱時計の低くくような音は、どこまでも伝わって行く波紋のような余韻を、耳の中にまとわりつくように、いつまでも殘していった。
(あれ?  あたしいつの間にか寢ちゃったです?)
どうやらカウンターに突っ伏して居眠りしといたようだ。
大きな柱時計は午後4時丁度になったことをお知らせしていた。付開始時間だ。そろそろお客さんがやって來る頃だろう。
(何だろう。何か大事なことを忘れているような……)
あたしはその何かを思い出そうと柱時計をじっと見つめる。
だが、柱時計はその振り子の魅力でミニゴーレムの首を右に左に傾けさせるだけで、私には何の答えも與えようとはしない。
(忘れてるってことは大したことじゃ無いのかもしれないな)
あたしはそう思って自分を納得させると、今から始まる退屈な付業務を想像し、憂鬱な気分に浸るのであった。
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