《転生プログラマのゴーレム王朝建國日誌~自重せずにゴーレムを量産していたら大変なことになりました~》68 二百年前の追憶六(鈴音視點)

馬車を使い王都から南へ三時間。そこから三十分程森へ踏みった所に、その窟はあった。

「まさかそちらから來るとはな。探す手間が省けた」

包帯の男は意外そうにそう言った。……いや、表が読めんから想像じゃが。距離を取られている為、心を読むことが出來ないのだ。

(な、なあ。今からでも遅くないぜ。引き返した方が)

エマニエルがワシの袖を引きながら小さい聲で話しかける。

(お主はここまで來ておいて往生際の悪い奴じゃ。だから宿屋で待ってろと言ったじゃろうに)

(だ、だってあたいの問題なんだから來ない訳にはいかないじゃないか)

風呂を出た後で話し合った結果、いつ來るとも分からない人さらい共に怯えるくらいならこちらから行ってやろうとの結論に至った。――至ったというか、殆どワシの獨斷じゃが。

「さて、包帯の男。大人しく捕まれば命は保証するが」

「何か勘違いしているようだが……俺はただの客人だ。――おい、頭かしらを呼んでこい」

決して低くはない窟を窮屈そうに潛って現れた男は、一目で腕が立つと分かった。

に筋骨隆々の軀。顔には大きな傷があり、傷が通る右目は眼帯で覆われている。

手に持つ黒々とした刀を持つ大剣はその長と見合わせても、冗談かと思うほどに大きなだ。

「……強いのう」

「強いよねえ、あれ。……今日があたいの命日か」

「勝手に死ぬな。勝てんとは言っておらん」

「包帯の客人よ。本當にあれが俺の部下をやったのか? ただの娘にしか見えんな」

「侮らない方が良い」

「お前がそこまで言うのは珍しい。……お前らは手を出すな。俺一人で殺やる」

大男が剣を肩に擔ぐ。だらりと構えているにも関わらず、隙が無い。不要に近づけばあっという間に真っ二つだろう。

「オヤビン待って待って! 小夏の一生のお願い!」

大男の背から、小さな影がそうんだ。

(聞き覚えのある名じゃのう。それにあの服裝)

自らを小夏と呼ぶの白を基調とした服には特徴があった。

ワシの服と同じような特徴、即ち、鬼裝束だ。

(十中八九、干支。ならばこの大男、異能者か。これはいよいよ不味い)

「……小夏よ、お前は一生のお願いを何個持ってるんだ」

「殺しちゃ駄目! 殺すのは止めてよ! オヤビンはそんなことしないんだよ!――ふぎゃ?!」

大男は小夏の襟首を摑むと手下がいる方へ放り投げた。

「小夏を窟の奧に押し込んでおけ。――さて、待たせたな。一応言っておくが、命乞いは卻下だ。理由はそこの黒髪。どんな手品か知らないが、剣を何もないところから取り出せるようだな。そんな奴を捕まえたところで、目を離した隙に寢首を掻かれるのが関の山だ。恨むならこんな所まで來ちまった自分を恨むんだな」

「ふん。それがお主の最後の言葉か。屑の親玉らしい、なんとも品の無い言葉じゃの」

「はっ。違えねえ。 さて、お喋りの時間は終わりだ」

ちっ。挑発にものらんか。なんでこんな男が人さらいなんぞの親玉なのか。……もしかしたら、軍人崩れなのかもしれない。

(だとしたら、ワシのせいなのか。大和を失い、自暴自棄になって逃げ出したワシの)

なれば、拭いは自らせねばなるまいな。

地面に手を置き、錬する。それはかつて錬の覇者と呼ばれた者が持つ能力と同質のもの。

剣を手にした時、一陣の風が吹き上がる。それはまるで誰かが応援してくれているかのようであった。

(大和、ワシに力を貸せ。お主はワシに借りがあるじゃろ?)

風が、笑った気がした。

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