《転生プログラマのゴーレム王朝建國日誌~自重せずにゴーレムを量産していたら大変なことになりました~》69 二百年前の追憶七(鈴音視點)

男の気が大きく膨らむ。それに呼応するように、肩にかついだ剣が巨大化し、間合いが大幅に広がった……いや、魔力の殘滓はじ無いないので、本當に巨大化したわけではない。そうじられただけだ。

(だが恐ろしいことに、間合いだけは確実にびておる。……これだから剣士というのは厄介だ。極めた者の業わざは時に魔法を越えてくる)

男の目が異様なほどつり上がっていった。目は窪み落ち、まるで悪鬼羅剎がそこに乗り移ったようだ。

男がコォォ、と小さく息を吐く。剎那、全が粟立つ程の寒気が走り、本能的に一歩後退する。

男はし意外そうに片方の目を見開き、次に口もとをグニャリと歪めた。

――嗤っているのだ。殺りがいのある獲を見つけた事に対する狂喜。男の気がますます膨れ上がってゆく。背筋に嫌な汗が流れ落ちた。

一つ間違いなく言えることは、今下がらなかったならば、次の瞬間には首が飛んでいたと言うことだ。先ほどの後退で、ワシが間合いを見切っいると勘違いしてくれれば良いが、それも一時の時間稼ぎにしか過ぎない。

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(次の一合で決まる。それも、ワシの死という決著で)

ワシは心の揺を隠し、平靜を裝いながら、男の弱點スキを探るべく視線を向ける――

男は業も得も、ワシより一枚上手――しかし、大きな得はどうしても懐に隙きが出來る。

ならば勝ちを得るにはどうすればよいか……?

簡単な事だ。何とか彼ヤツ(あやつ)の懐に潛り込ばいい。

接近戦に持ち込めば、軀の小さいワシの方に分ぶがある。問題はどうすれば懐にれるか、ということだ。

が、どうすればよいかなど、とうに答えは出ていた。

――わざと隙を作り、不意討ちを狙う。そうすれば萬に一つ、勝ちが見える。死ねばそれまで。が、死なねば……もし、死なねばそれは……。

(天命か。今一度國を建て直せとの。――死んでる所悪いがの…………今一度力を貸せ、阿呆大和!)

ワシは意を決し、剣先をゆっくりと下げていく。

男はその行をどう捉えただろうか。初めは思いがけぬ行に戸いを見せていたが、やがて意を決したように気が膨れがり――

瞬間、正に地がんだ――

世の理ことわりを超越した悪鬼が眼前に迫る。

降り下ろされる大剣。大剣の鈍く、だが確実に命を刈り取る重みを乗せた切っ先が網に焼き付く。そして、勝利を確信する一つの眼――――

――逃れられん……普通ならば。

ワシは下げた剣を止めるどころか、更に力を込めて地面へ差し込み、そこへ魔力を込めていく。

その魔力に呼応して地面から鉄が生え上がり、迫り來る男の首元へとびる。

――錬『竹林』

東國初代國王、最初にして最強の錬者。奴が得意としたのは、錬と剣をミックスし、昇華させた錬。その中でも、良く好んで使われた業がこの竹林だ。

迫る男の大剣。延び上がる錬剣。差は紙一重だが、僅かにワシの剣が速い。錬された剣が男の皮を突き破り――――――

……男が一歩踏み込み、ワシは一歩下がった。

(…………?)

違和だ。同じことが過去にもあったような。

(ふん、こんなときに何を考えておる。隨分と錆び付いたな、ワシも)

ワシは違和を振り払い、戦いに集中していく。……それが振り払ってはいけない疑念であったことなど、ついぞ気づくことは無かった。

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