《聲の神に顔はいらない。》06 燻り

バイトも終わり、家に帰る。実家から出てのアパート暮らし。部屋は勿論ワンルームだ。一人暮らしなら十分ではある。家にはあまりはない。小さなテレビと、ちゃぶ臺とベッドくらい。お金がないってのもあるが、私はあまりに執著しないのだ。オタグッズは実家に置いてきた。まあ細々とは買ってるが、それらは押れである。簡単な料理を作って、中古のレコーダーに撮りだめたアニメを見る。そして寢るってのがサイクルだ。大はバイトと家を往復する日々。

時々聲優だかフリーターかわからなくなる。アニメを見ながらiPadで電子書籍をチェック。本は全部こっちに移行した。便利だし、これだけ持ってれば何千冊と持ち歩けるのだ。後は臺本もカメラで撮影して――とかでも十分読める。PDF化してれば書き込みも出來るので紙と変わらない。寧ろ臺本は電子化してメールで送ってほしいくらいだ。まあ業界の慣例に文句言える立場でもないからどうにもできないけど。

「何かいい新作ないかな~?」

そういってストアを眺める。私は青田買いが好きだ。自分が目を付けてた作品がアニメ化したりするのは結構よくある。まあだけど、その作品に出た事はないんだけど……聲優なのに。いや、オーディションはけたのもあった。けど、連絡が來たことは一度もない。才能がないのかなって思い悩む。寧ろそれならもっと簡単に諦めがついたかもしれない。けど違うんだ。私の自信過剰なんかじゃなく、実際養所でも、オーディションでも結構はいい。

予定の役とは違う役をやらせられるなんてよくある。あっ、これ勝ちパターンじゃん――とか思う事もしばしばあった。けど現実は……

「一回も通ったことないだよね~」

私はそういってちゃぶ臺に突っ伏す。暗くなったiPadに自分の顔が映る。その顔は間違いなくブスだ。

「やっぱりこれかな~」

整形とかしたら変わるだろうか? と本気で考えたりもする。けど、きっとそれで人気が出たら、その昔の寫真が流出して整形聲優とか言われるのは眼に見えてる。そして炎上まで言って私の聲優人生は終了だ。

「けど、このままだと、どのみちその……」

消える。ナレーションの仕事は細々とは來るけど、それだけではやってけない。寧ろ完全にそっちに舵を切ればもっと違うのかもしれない。けどアニメに一回は出たい。その思いが私にあるんだ。ナレーションや洋畫の吹き替えとか、後は最近は大聲がつくゲームの聲當てなんかも実はそっちの方が実りがいいとは聞く。けどどれもやっぱり今の私には微妙だ。吹き替えなんて二回くらいしかしたことないし、ゲームはまだやったことない。

その三つならゲームのは大変興味ある訳だけどね。なんかやりたい事とは別の事しか出來ないというのはこの社會の世知辛さを思い知る。そんな事を思ってるとスマホが震えた。あんまり友達と呼べる人がいない私のスマホが震える事はあまりない。もしかして仕事かな? ってそんな期待をしつつ通知を見るとそれは今度開かれるオーディションへの參加要請だった。

「え? マジ?」

一瞬信じられなかったが、間違いではないようだ。とりあえず明日早速事務所に行って臺本をけ取ろう。私はそう決意してベッドに潛る。

「どんな作品かな~」

そんな事を思いつつ睡魔にを任せる。

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