《聲の神に顔はいらない。》14 時代と過去

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私の名前は『此花 壽々子(このはな すすこ)』大手出版社に勤める編集者だ。現在二十四歳獨である。沢山の男に求められる程に、私は容姿が良いと自覚してる。けど今は結婚とかは考えてない。なぜなら、仕事が楽しいからだ。

私は高校の時に先生の作品と出會った。それからだ、前向きに生きれるようになったのは。められてた訳じゃないが、クールビューティーとか呼ばれて遠巻きにされてた私は、仲が良いと呼べる友達なんかいなかった。毎日毎日本を読む日々。

けど、それが嫌だった訳じゃない。周りの子達は煩いだけだと思ってたし、正直見下してた。けど先生の作品にれて、私は青春に憧れた。輝かしいがここにもあるんだって……確かにそれまでの私は嫌だった訳じゃないが、満足してたわけでもなかった。

キラキラなんかしてなかった。青春は一生ので一回だけ。私は今、とても勿ないことをしてるんじゃないかと思った。それから私はただばしてた髪をアップにして纏め、メガネをコンタクトにして、部活にって、友達を作った。最初は勿論上手くいかなかったが、んな本を參考にしてたら、そこそこ上手くいって、彼氏も出來た。

大學でも、キャンパスライフなんてのをエンジョイした。けどやっぱりずっと本は好きだった。だから、出版社への就職を希した。なんだってそつなく出來た私だけど、小説とかを創造することは出來なかったのだ。

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何作か小説投稿サイトにあげた事もあったけど、観覧數は三桁くらいで、お気にりは片手で數える程度から増える事はなかった。私にはどうやら語を創作する才能がないのだと……沢山の本を読んできたからといって、それが全て引き出しになる訳じゃないと……私はしった。

私が選んだ出版社は勿論、先生の本を出版してる會社だった。運よく私はそこにる事が出來た。そして何年か頑張ってると、ついに私は先生と対面を果たした。擔當編集である。先生は殆ど、その姿を表に出さない作家だ。サイン會があったのも、デビュー當時のほんの數回だけ。

そんな先生に直接會える。けどこれは仕事だと割り切って私は先生と接した。先生は作品だけでなく、その人柄もなかなかに素晴らしい人だった。編集者という職業柄、沢山の作家と接してきたが、おかしな人は多い。コミュニケーションに難があるのは初歩的な事だ。

おかしな言をしたり、脈絡ない事で暴れたり、碌なではない。けど先生はとても常識的だった。まあ最近はちゃんと社會に出てる人が、ネット小説で人気出て作家になるパターンは増えてるから、昔よりは常識的な人が増えてるとは聞いてる。

でもその中でも、先生はとても接しやすい。清潔だし、言葉遣いも丁寧だし、変にビクビクしてないし。仕事は早いし、義務も強い。そしてきちんと私にも意見を言える意思もある。コミュニケーションに難がある作家さんは、ただこちらの言葉に頷くだけとか多い。

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打ち合わせのはずなのに、打ち合わせになってない事は多々ある。けど先生の場合はそうではない。寧ろ、會わなくても打ち合わせ出來るほどだ。そしてなんといってもあの格。普通あれだけ、売れてれば天狗になったり、威張ったりとしたりするものだろう。

だけど先生はとても腰が低い。誰に対しても丁寧だ。それが先生にとっての処世なんだろう。実際、業界で先生の事を悪く言う人はそうそういない。同じ作家くらいだろう。妬みや嫉みはどうしようもない。

だって先生の作品は、出せばヒットしてしまうのだから。私はそんな先生の作品の最初の読者になれる権利を得てる。職権濫用? いえいえ、仕事ですから。

「ふあ……」

ハンドルから片手を外して口元に持っていき欠をした。眠た気な目をこするのも全部先生のせいだ。昨日先生からけ取った原稿を一夜にして三回は読んだ。そのせいで寢不足だ。今日に影響が出ない様に……なんて想いは直ぐに消えた。というか忘れた。

気づいたら朝だった。それほどに私は先生の渾の作品に心奪われてた。これを早く世に屆けなくては……とおもったが、約束を思い出してそれはやめた。けど迷ってる。今私の手元にはこの傑作と、先生が無難にまとめた秀作がある。

この傑作なら、間違いなくハリウッドでも通用するだろう。まあ原作がよくても、必ずヒットするとは言えないが、そこは監督や俳優とかどれだけ作品に関わる人たちに同じ熱を伝えられるかにかかってくると思う。

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だからこれなら絶対とはいえない。でも可能はきっと違ってくる。

「だけど、こっちも悪くない。こっちの方がハリウッド的にはあってる気はします」

秀作の方の二作はとにかく派手なじになってる。バトルありの宇宙戦記ものに、カニをモデルにしたヒーローものだ。カニって……と思うかもだが、十分面白い。そもそも蜘蛛が居るんならカニが居てもいいだろう。

まだ期限に余裕はある。なのでもっといい何かがあるかもしれない。とりあえず今日の仕事を頑張らなければ。私は先生専屬だ。先生は超売れっ子だから、仕事が途切れる事はない。それに々と先生がやる価値ある仕事を餞別するのも私の仕事。今はあるテレビ局に向かってる。

駐車場に車を止めると、迎えのスタッフさんが居た。

「此花さん、プロデューサーがお待ちです」

「ええ」

別段迎えなんていらないんだけど、何回斷っても変わらないから諦めた。案されて部屋に通される。殺風景な會議室に通されて待つこと十分近く。その間も仕事を進めておく。必要なメールを返したり、先生の作品に添削したり。

添削って恐れ多いと思う。けど、一人では絶対に誤字字は起きるのだ。それにきちんとした言葉を用いる事も作家には大切だ。勿論創作した言葉なんて本の中にはそれこそ星の數ほどあるだろう。けどそういうのが一面に散りばめられてたら、そんなの煩わしいだけで読みじゃない。

先生は極力変な當て字なんて使わないからそういうのはないが、やっぱり言葉というのは何となく普段使ってると文字に起こすものとでは違うんだ。普段は適當に発音してるベッドやベット……こういうのはふとどっちだっけ? となる。

こういうのを見つけて直すのは編集の仕事だ。編集は作家が生み出した創作を完させるお手伝いしか出來ない。でも、それだけで完度というは変わってくる。

文字をパッと見た時のしさ。流れるせせらぎの様にとめどなくってくる文字の羅列。そこに淀みを殘さない様にするのが私達の仕事でもあるんだ。

「やあやあ此花さん。お待たせしました」

「ご無沙汰しております」

私は椅子から立ち上がり頭を下げる。

「それで、先生の腳本のドラマを作りたいという事ですか……」

「勿論、先生がお忙しいのはわかってるのですが、そこをどうにか出來ませんかな?」

み手しながらそういうプロデューサーさん。最近はテレビも厳しい。ネットに押されてるからでしょう。だからテレビは話題を求めてる。出演する俳優陣とか、原作とか。けど今は先生の作品は別の所で映像化されてる。

「原作とかではなく、腳本を書いてしいというのは?」

「それは勿論、先生の才能ならドラマの腳本もきっと素晴らしいが書いて貰えると思いましてですね」

「自由にですか?」

「勿論、先生には自由に書いてもらいますよ。ドラマに落とし込むうえでこちらがし手を加えることあるかもですが」

そういってニコニコとしてるプロデューサー。なるほど……今のでこの人の狙いがわかった。先生は大だ。その腳本に文句何てつけようがない。だがドラマにする上で出る弊害とかは仕方ないですよね? とこの人は言ってる。その仕方ないがどこまで行くか……明確でないその定義はつけようがなく、最終的には出來上がったものは先生が書いたものとは全然別になる可能がある。

そもそも腳本なんて渡してしまえばそれまで……いままでの実寫は先生が納得する形だったから実現したものだ。書いた作品をされてる先生がこんな自分の作品がどうなるかも分からない事に首を縦に振る訳がない。

そもそも、こんなのは私が通さない。

「そういう事でしたら、お斷りします。先生もきっと納得しないでしょうし」

「で、ですがこれは既に企畫として通ってる事でして……」

「それは、こちらには関係ない事ではないですか?」

先に予算を組んで斷りづらくしようという事なんだろうけど、時代が古い。今はもうそんな手は通用しない。確かに業界での橫のつながりは大切だ。けどそれにかこつけた要求はいただけない。作家を守るのも編集の役目。私はそう思ってる。

「先生のお力がしいのなら、誠意を見せてください。先生はいい方ですから、そういう態度が大切です。貴方がしいのは先生の作品ではなくて、先生の名前ですよね? そんな仕事を先生にけさせるわけにはいきません」

「つっ、私は昔はヒット作も多數作ったプロデューサーだぞ。一作家にとってテレビがどれだけ大きい影響なのかわかってるのか? もっと有名になれるんだぞ」

はあ~……おもわずため息がれそうだ。時代錯誤も甚だしいとはこの事か。確かに昔はテレビの影響力はどんなメディアよりも大きかった。だからこそ、そういう態度になるのもわかる。けど今は違う。

確かにテレビの影響力は今でも大きい。だがそれと同じくらい、今はネットの影響力も大きい。一強だった時代では既にないのに……この人はまだ昔のままの覚でいるらしい。まあテレビ業界の人は結構こういう人が多いが……だからこそ先生のドラマはネットの大手畫配信サイトと提攜しオリジナルとして作ったんだ。

そちらの方が融通聞くし、意的な制作陣があった。テレビはどちらかというと保守的だ。視聴率の為に、今までの経験に基づいたものを作ろうとする。それもある程度は良いと思うけど、ずっとそのままではいけない。

「もう先生は十分有名ですから」

「ただの書きの分際で……」

「その書きを必要としてるのはそちらじゃないですか。それなのに見下すのはどうかと。先生にはリスペクトしあえる相手と仕事して貰いたいと思ってます」

この人はちょっと短気すぎる。これでは今の時代腳本を引きけてくれる人なんかいないでしょう。そもそもなんで先生を前提として企畫をかせたのか謎だ。多分、上への接待が上手いんだろう。取りったりして上に來たタイプだろう。

だからこそ、別に仕事が出來る訳じゃない。とりあえずこれはダメだ。私は席を立つ。

「この話はなかったという事で」

「ふふふざけるな。それでは私の立場が!」

そういってすれ違う私の肩を摑んできたプロデューサー。私は強く睨み返す。すると彼はビビった。私は結構きつい顔をしてるらしい。なので、睨むと男の人でも怯んでくれる。

「私が守るのは貴方の立場でなく先生の立場なので」

「ぬぬぬ、なら名前だけでも。こちらとしてはそれでも全然」

「先生の名を汚すようなことを許可できるわけないでしょう!」

私はそう強く言い放ち部屋を後にする。全く、作家の才能をわかってない奴が世間にはいっぱいいる。売れてない作家にあの態度ならまだわかるが、先生は超売れっ子だ。どうやったら自分の方が立場が上とか思えるのか……不思議でならない。

ああいう輩は會社での立場を外側にも持ち込んでるんだろう。きっとあの人の部下は大変だ。同してしまう。そう思いつつ、局の廊下を歩いてると、何やらスラっとした形の奴が壁に背を預けてスマホを弄ってた。

そんな男の前を通り過ぎる私。すると聲を掛けられた。

「その様子だとやっぱり斷ったか」

「……」

私は無視して歩き続ける。すると後ろからついてきた。

「おいおい、無視するなよ。俺とお前の仲だろ?」

「さあ、どなたか存じませんが?」

そういうと、前に回り込んできて手を壁について私の進路を防いできた。ついでに耳元まで顔を寄せる。

「俺の事を忘れることなんて出來る訳ないだろ?」

なにその自信過剰な発言。とりあえず私は進行方向を邪魔してる奴の足の甲をヒールで踏みつけてやる。

「いっ!?」

そんな聲をだして蹲る奴を無視して歩き出す。すると今度は足首を摑まれた。これはもうセクハラで訴えても勝てるだろう。

「こんな事して許すのは君くらいだよ」

「あら、案外寛大なんですね。さっさと視界から消えてくれてよろしいのですけど……」

本當にこいつは……不快がどんどん増してく。

「そういうなよ。こうやってまた會えたんだし」

「やっぱり、あの仕事は貴方の差し金でしたか」

「まあ、當然君は斷るとは思ってたけどね。でも上手くいけば僕の手柄にもなる。失敗しても僕のキャリアに傷はつかない。そして本當の目的はどっち道達できるって訳さ」

「貴方が私に拘る理由がわかりませんが?」

本當に無駄にキャリアあるんだから子アナとかと結婚でもしてろ。いや、してたっけ? 一年もたたずに離婚したとか聞いたような? なら今度は優とかアイドルとかそっちに行ってほしい。

なんでただの編集者に拘る?

「何言ってるんだよ。お前は最高だよ。最高のだ。な?」

な? の意味が分からないが、とりあえず頬にれようとしてきた手を払いのける。私の人生で二度とこいつにらせることは……そういえばさっき足首摑まれたな。もうこのタイツは使えないかもしれない。

「またあの頃に戻る気ないか?」

「まさか……私達はもう大人なんですよ」

そもそもが私を捨てたのはそっちでしょう。くそ真面目で面白味がないとか言って。私は頑張って友達も作ってんなことにも挑戦した。けどそれは今まで読書しかやってなかった奴が頑張ってやった程度であって、元々元気で活発な奴からしたら私がやった頑張ったことなんか、実は普通らしかった。

それに元々の真面目な格はそのままだから仕方ない。それが私なのだから。なのにそんな私が嫌になって捨てた癖に、何を言ってるのか。

「やっぱりその先生とやらにご執心って事か?」

「まさか、私と先生はそんな関係ではありません」

「もったいないな、こんな良いなのに」

そういって私のを上から下へとみる奴。私は案外スタイルいい。は標準よりも大きいし、の線は細い方だ。別段ダイエットとかしなくても、私はこの形から変わった事がない。

「まあおかげで、まだ俺のって訳だが」

「誰があなたのですか。私は私自です」

「それはどうかな?」

「どういう事ですか?」

私のその言葉に含み笑いだけを返す奴。目つぶしでもしてやりたい。

「そのわかるさ。君にとって何が一番なのか。相よかっただろ?」

「最悪でしたけど?」

なにいってるのこいつ? どこが相よかったと思ってるの? まあこいつは自己中で私の事ひっかき回すだけだったからそんな印象なのかもですけど……そうおもったけど、どうやらもっと最低な事だった。

格とかはほらまだお互い若かったし。それよりものだよ。よかったろ?」

これはセクハラですよね? まるで絶対に満足してるだろ? と言いたげな顔が腹立たしい。

「はあ」

私はそうため息を吐き捨ててこいつの言葉を完全に無視した。最後まで何やら言ってたが、もうそれは私の脳まで屆いてなかった。

「無駄な時間だったわね。次は――と」

私はスマホで次の予定を確認する。今度は畫配信サイトでの今後の打ち合わせだ。先生の原作ドラマはこちらで放送されてる。

「比べてはいけないけど……どうしても……ね」

さっきの出來事は忘れたいくらいだ。とりあえず気持ちを切り替えて道路を進む。

        

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