《聲の神に顔はいらない。》16 プレッシャーと雛だった筈の才能
「うう……胃が痛い」
私はそんな事を言ってお腹を押さえる。今はレコーディングに向かう途中だ。今回で十話である。もう後半戦。あとしで私の仕事は終わる。けどそれは聲優の仕事が終わるだけで、アニメの制作はまだまだ続く。
こうやって考えると、私達聲優は味しい所にいると思う。絵を描く人たちとか一番大変なのに、それが知られる事はあまりなく、そしてちやほやされる事もそうそうない。個人となればなおさらだ。
けど、私達聲優は違う。私は対象外として、今や人気聲優はアイドルと同じだ。アニメの一部にしか貢獻してないのに、顔みたいに前に出れるのである。申し訳ない。まあ私が思う事でもないが。
実際私の様な端役はイベントにだって呼ばれないだろう。そもそも行きたくないし。私は収録が終わると同時にお役免だろう。顔出しでなければインタビューとかもけてみたい気はする。
でもそういうのは主役級のキャラの聲優でないとないだろう。この數か月、私はを張って聲優といえた。けどこの仕事が終わると、私はまた聲優なのか怪しくなる。殘念ながら他の仕事は決まってない。
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けどまだ希はある。何個かオーディションはいってるんだ。マネージャーも今が推し時と判斷してくれてるらしい。まあ実際には放送が始まって終わるまでにもまだチャンス期間といえるかもしれない。放送中に私の演技が話題になれば……オーディションでも有利に働くかも……そんな淡い期待がある。まあそれはまだ先だし、そんな事に期待してるから今のオーディションがボロボロなのかもしれないけど……
「何故だろう……それなりに収録も重ねてきた筈でスタジオにだってそれなりに來てるのに、今まで以上に張する気がする」
そもそもそれがこの腹痛の原因である。私はきっとめられてる。同じ聲優とかから……とかではない。むしろ他の聲優から同されるレベルだ。なら一誰が私をめて腹痛の原因を作ってのか……それは音響監督だ。
作品自の監督さん、それに原作者の先生とかもその枠にってる気がする。一度だけ話した事があって、その時は嫌われてるってそれほど思わなかった。寧ろなんか期待されてる!? って思った。けどそれはどうやら社辭令というか、大人社會の禮儀でしかなかったようだ。
だって実際、私はいつも最後まで収録現場に殘される。それこそ最近は篠塚宮ちゃんよりも居殘るくらいだ。もう……居たたまれないよ。彼はとても優しいから、待ってようとしたりしてくれるが、篠塚宮ちゃんは高校生。
結構遅くまで殘される私を待ってたら、彼が家に帰るのが遅れるから、最近はもう待ってもらってない。彼の実家は東京でも郊外で、結構遠い。東京都というと、どこでも都會なんてイメージがあるが、橫に長い東京都の左側は結構田舎だったりする。
篠塚宮ちゃんは東京なのに田舎という場所出なのだ。それを微妙な顔して語ってくれた。「東京はいいよねー」とか言われるらしいが、本人はその東京の良さとは遠い所にいた印象らしい。だからこそあんな純粋なんだろうとは思う。
東京の子高生なんてれてるイメージが勝手にあったが、篠塚宮ちゃんにはそんな印象欠片もない。よくあんな純粋培養みたいな子が出てきたな……とおもうくらいだ。この業界にって來て大丈夫だろうか?
だって聲優業界も末端といっても蕓能界。ヤバい話はいくらでもある。そういうのに巻き込まれないといいなって思う。だって私ではどうにもできないからね。私は売れない聲優なのだ。そしていつの間にか篠塚宮ちゃんはいくつかの仕事を決めていた。
何回もそれはあった事だ。私の後ろから誰もが追い越していく。それを今まては見なかったことにしてた。そんなりにかかわりもなかったから、無視することが出來た。けど、篠塚宮ちゃんは違う。この初めてのアニメの現場で、初めて出來た同じ聲優の友達。
無視なんて出來る存在ではない。
「でも……超えられるの早すぎじゃない?」
売れてほしいと思った。思ってたよ。けど、理想的には一緒に……とかね。現実は殘酷である。どんどんうまくなる篠塚宮ちゃんと違って私は回が増すごとにダメ出しが増える始末。はっきり言って降板させられてないのが不思議なくらいだ。
私はこれまで自分の聲に自信があった。確かに売れてないけど、それは私のせいではなくて、需要の問題だっていって一応のプライドを保ってきたんだ。けど今回の作品の収録で私の自信はほぼなくなってしまった。
別に「この下手くそ」とか直接的な事を言われる訳ではない。「もう一回やってみうよか?」とか「もうしこんなじで――」とか「それって出來る?」てなじだ。私に対する注文が多すぎる! そして今日もきっとそうなると思うと……こうやって腹痛がね。
前はどんな仕事でも楽しくはあった。張もあったけどさ……やっぱりこの仕事好きだし……そもそもナレーションってきちんと淡々と言えばダメだしなんてされなかったし。けどやっぱりアニメは違うのだ。
聲にを乗せなくちゃいけない。それが私達聲優の本來の仕事。楽しくやれると思ってた。とりあえず近くの公園のブランコに座った。いくよ……いくけど、ちょっと待ってってじ。この公園にはなかなかお世話になってる。
住宅街とかでもないから、あんまり利用されてない小さな公園。遊なんてブランコと鉄棒と半分埋まったタイヤが三つくらいしかない。もうほぼ空き地だよねって公園だ。けどこのぽっかり空いた空間がなんかいい。
小さくブランコを揺らして空をみる。
「私って才能ないのかな?」
実は実力だけはあるって勝手に思ってたんだ。私が売れないのは時代が悪いってさ。今の聲優業界は容姿も重視されるから……そうじゃなければって勝手に思ってた。
「これが私の天井なら諦めもつくかも……」
必死にしがみついてきた聲優業界。それは私が勝手に才能あるとか思ってたからだ。きちんと評価されればきっと私の聲は皆が求めてくれる……そうおもってた。でもこの作品の収録でわかってしまったのだ。
それは私の願であり夢でしかなかったのだと。私は全然特別なんかじゃなかった。寧ろ特別なのは篠塚宮ちゃんの方だった。あんな子がきっと語でヒロインに選ばれるんだろう。私はそんな彼のモブでしかない。まあ一応友達認定はしてもらってるし、友人Aとはいえるかもしれないけどね。
私はバックから取り出した臺本をめくる。いつもの如く、使用込み込み加工を施した臺本だ。キャスト欄にある自分の名前。話數ごとの臺本はどれも大事に取ってる。実際こんな加工せずに保存しておきたいところだ。
けど私はブースでiPadを持ち出す勇気はないのである。本當にここまで使い込んでたら味となって著も沸くんだろうけど……加工だからね。殘念しかないよ。私の小心者が滲み出てる。
「それでも……ここに名前があるだけで嬉しい……」
臺本に印刷された自分の名前。実際そんな好きだと思ったこともない名前だ。けど、これは私がこの作品に関わってる証。的証拠である。
「頑張ろう」
私はそういって頬を叩く。これからの事は正直まだわからない。こんな自信もなにもなくなってやってける程、私の神は強くなんてない。けど、この仕事は……この役は既に私なんだ。キャラと私は一つになってると勝手におもってる。
もう他の誰かに譲り渡す気なんかさらさらない。だから、私はブランコから立ち上がって歩き出した。
「腹痛なんかに私は負けない!」
そしてその夜、私は布団の中で「もうやだー!」と泣いた。
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