《聲の神に顔はいらない。》19 グイグイ來る
「うーんそれじゃあ、私の後釜を見つけないとですね~。ファンがそっちに行ってくれるように」
「そういう自分と同等の存在とか、お前嫌いそうだと思ってたが?」
「そうですねー、私は同等の存在なんかいないと思ってますからね~。私ほど才能あふれてて可い娘なんてそうそういないですし」
自分で言うなよ……まあこいつはそれを言う資格があるのかもしれないが。
「でも先生のお嫁さんになる為に必要なら作る事くらいしますよ」
「作るって……」
なにその人造人間みたいな発想。そもそもんな簡単に同等の奴を作れるのなら、こんなに聲優もアイドルも溢れてないと思うんだ。多様といえばそれまでだが、でもそれをプロデュースしてる人たちはヒットを出したい訳で、ヒットしてる奴を真似るだけで同じような存在に出來るのなら、誰も苦労何てしないんだ。
それをわかっててこいつは言ってるのか?
「目ぼしいのは居ます。丁度今同じ現場なんですよ。先生のアニメにも出てますよ」
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「え?」
まさかそれってあいつの事か? 確かに聲優としてはピカイチの才能があると思う。でもこの靜川秋華の後釜となると……たしかあいつの方が年上だし厳しいのでは? 華もないしな。
「確か篠塚宮とかいう……」
「そっちか」
そういえばあいつは仕事全然決まってないとか聞いたや。篠塚宮とういう子は新人だった筈だが、既に売れそうな気配がある子だな。現場では確か匙川ととのと一番親しかった筈。落ち込んでると聞いた事もあったが、きっとそれが原因だろう。
篠塚宮は俺のアニメの制作中にも仕事を決めてたようだったからな。実際アニメが始まってからはプチブレイク狀態といえる。忙しくしてるらしい事を、ちょくちょく現場に行ってた時には聞いた。確かに彼は容姿もいいし、誰にでも隔てなく優しくて明るい雰囲気が滲み出てた。
 人気が出る素養があったと思う。
「まああれなら及第點かな?」
「どんだけ上から目線なんだよお前」
「だって実際私、今トップじゃないですか。頂點ですよ?」
そういわれると否定できない所が悔しい。確かに今のこいつは……聲優界でトップといっても過言ではないだろう。
「あの子はそんなお前に迫れるって思ってる訳だ」
「今のままじゃ弱いですけどね。私が刺激を與えていきますよ。のし上がってこれたら、近くまでこれるんじゃないですか? そしたら私は先生と結婚して引退です」
あれ? これってプロポーズじゃね? 今、俺年下からプロポーズされてるの? 何も言ってないのに、そうなったら結婚確定みたいなじだなこいつ。ほんと、俺は何一つ返事してないんだけどな。
「じゃあ……匙川ととのはお前にはどう映る?」
「…………誰?」
いや、そうだよな。こいつは現場でいっしょになったことは無いだろうし、匙川ととのなんて知らないよな。なのでさっきのアニメの役を教えてやった。
「ああ、そんなに印象に殘らないじの役の――」
「も蓋もない事いうなよ」
確かにそんな目立つ役ではない。けどある意味レギュラーなんだよ。日常を象徴するっていうかさ。だからこそ、その自然さが大切で……とかいろいろと靜川秋華に熱弁してみたが、彼の琴線にれたのは違う所だった。
「隨分と気にかけてるんですね」
「いや、そんな気にしてる訳じゃ……」
「先生が聲優の名前を言うなんて今までなかった……」
何やら靜川秋華の目が厳しい。何故か責められてる様な空気……どうして? 俺は何も悪くないハズなんだが……
「うん、この味噌なかなかだな」
「さっき普通って言いましたよね?」
手作り味噌を出しにしてもダメか。はっきりと普通と言ってたからな。
「先生が気に掛けるって事はそんなに可い?」
「お前な、俺が顔さえよければどんなにも手を出す奴みたいな言い方やめろよ」
失禮な奴だな。そもそもこいつが失禮じゃなかったことの方がないが。
「別に可くは……ないっていうか……そもそも聲優に顔なんて必要ないと俺は思ってるし」
「それはそれで失禮じゃないですかね?」
「けど、聲優は聲だろ?」
「可い子がやってる方がお得じゃないですか? 求められてるからアイドル聲優がいるんですよ」
くっ……こういう奴がキャラを食うんだよ。聲優は今やキャラの影じゃなく、キャラが聲優の屬みたいになってる。
「でもそうですか……先生はその子の聲がお気にりなんですね。としてじゃなくてよかったです」
なんか安心してるが、こいつをとして好きなんて言った事ないがな。確かに、んなしがらみや立場がなくて見た目だけなら好みではあるが。でもこいつ格にも問題あるからな……つきあったりするかといったら……わからん。
「匙川ととの――ですか」
何やらメモってる靜川秋華。怖いんだけど……なにする気だ?
「お前、変な事するなよ」
まあこいつはいじめとかはしそうにないが……
「なんですか変な事って? 大丈夫ですよ、ちょっと調べてみるだけです」
「調べてどうするんだ?」
「それは私の興味次第ですね。先生が気にってる聲は気になりますし。もしかして最近の先生の出版作ってその匙川ととのをイメージして書いてます?」
むむ……こいつはアホな癖に妙な所で鋭い。こういう所がって怖いよな。普段適當な事ばっかり喋ってる癖に妙に鋭い局所的勘だけ持ってるとか嫌だよ。
「別に、そんな意識してはないが?」
とりあえずそんな事を言ってみる。
「なるほど、やっぱりそうなんですね」
なんで斷定してるのこいつ? 認めてないだろ。
「先生噓を吐くの下手じゃないですか。そんなんじゃは騙せませんよ。特に私の様な先生の事ばっかり考えてるは」
そういって向かいでほほ笑む靜川秋華。見惚れる笑顔作りやがって。ムカつくから絶対に見惚れてやらんがな。
「さて、そろそろベッドに行きましょうか先生?」
「は?」
なにぶっこんで來てるんだこいつ? いや、にやにやしてる當たり、絶対に斷られてるとわかって言ってるんだよな。
ここは……
「いや、お前はソファーに寢ろよ」
「の子にそれはないですよ先生!」
立ち上がって抗議してくる靜川秋華を無視して使った食を洗面臺の方へ持っていく。ここで気が利かないのが、普段こういう事をしない事を語ってる。やっぱどこか殘念あるよなこいつって。
「ねえねえ噓ですよね? 私先生のベッドでクンカクンカしたいが為に來てるんですよ?」
「お前何言ってんだ?」
よくそんな事本人の前で言えるな。こいつには恥心ってやつがないのか?
「またまた~、先生だって私が使ったベッドクンカクンカしてる癖に~」
なに當たり前でしょ――的にけらけら笑って言ってるんだ? そんな事して……して……あからさまにはしてない。ただ次の日、なんか良い匂いがするな~ってじるくらいだ。こいつが使った枕とかに顔をうずめたりなんかはしてない。斷じて。
「とりあえず私がベッドです。これは譲れません。なんなら一緒に寢てもいいんですよ? けど先生それはしてくれないでしょ?」
「當たり前だ」
「じゃあ、私がベッドです! 譲りませんよ!」
そういって靜川秋華は突如走り出す。目的地はきっと寢室だろう。先にベッドを抑える気だ。実際、言ってみただけだし、追う必要もないんだが、とりあえず追ってみる。
「おりゃああああ」
そんな事を言って他人のベッドにダイブする靜川秋華。更に自分の匂いをこすりつけるかの様に俺のベッドの上でゴロゴロしまくってる。ヤバいな……白い太ももの先がめっちゃわになってる。シャツ一枚なのわかっててやってるだろ?
履いてなかったらどうしようかと思ったが、ちゃんと履いてはいるようで安心――
(何見てんだ俺)
くそ、目を離しても、靜川秋華がベッドでゴロゴロしてると自然と目が行ってしまう。これはきっと男の本なんだ。男がのあそこを目で追ってしまうのは生本能として仕方ないんだろう。
そう思うとなんかムラムラしてきて腳が勝手にベッドへと近づく。
「せんせっいいですよ? ほら、ガバッと來てください」
「……」
そんな靜川秋華の言葉でなんか我に返った。んな事を言わなければ襲ってたかもしれないのに……こいつの殘念さにすくわれたよ。俺は靜かに寢室を後にした。なんか靜川秋華が扉越しに言ってたが、聞き取る事はしなかった。
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