《聲の神に顔はいらない。》23 ここに再び

「ありがとうございます。よかったです。とても」

それは靜川秋華の言葉だ。どうやら認められたらしい。私も靜川秋華を事を実は見直した。一つの聲しか出せないなんて……とし見下してたが、靜川秋華は上手かった。私とは違う技があるとじた。間の取り方とか、聲の出し方……抑揚とかが上手い。

私はどちらかというと、聲質を変えるのが上手いと思ってる。地聲がフラットだから々と付けが出來る。対する靜川秋華は基本自分の聲を変えない。地聲がとても綺麗で耳に殘るから、その特徴を生かしてるんだ。

そして靜川秋華は抑揚が上手いんだと思う。抑揚を変える事で、キャラの違いからテンションの違いまでを巧みに表現してる。一つの聲でもやれることは沢山あるんだと私は知った。

「こちらこそ、勉強になりました」

「それは……よかったです」

なにやら変な間があった気がしなくもないが、気のせいだろうとスルーした。結局靜川秋華が自分に聲を掛けてきた理由とかはわからなかった。けど最初の時のような敵対心というのは薄らいでた。今までは売れっ子でという所しか見てなかったが……今回の事で彼も聲優なんだとわかったからかもしれない。

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何言ってるんだと思われるかもしれないが、売れっ子だから適當に仕事やっても仕事が貰えてるんだと……あの容姿がズルいんだと思ってた。けど一緒にセリフを言い合ってそれは違うんだと気づいた。あれは適當にやって出來る事じゃない。きっと彼なりに努力をしてるんだと……そう思うと、仲間意識も芽生えるだ。

そう、私達は同じ聲優仲間なんだ。

「あはは、そんな事ないですよ。わたしなんて~」

(…………)

最初のレコーディングでは多分恒例なんだろうメインメンバーとメインスタッフと思われる者同士での挨拶の場。私は二度目だしガチガチだった。二度くらいでは張なんてとれない。けど靜川秋華はとういうと……中心だった。

監督とかプロデューサーとか押しのけて、さも當然といわんばかりに彼はこの場の中心だった。

(私と彼が同じ? 仲間?)

どうやらそんな事は幻想だったようだ。だって靜川秋華の周囲は既にキラッキラだ。対して私は一人。なんか隣の人にも微妙に距離を開けられてる気がする。そんなに私の隣は嫌ですか?

(あーあ、早く収録にらないかな?)

そんな事を思ってこませてる。だけど靜川秋華たちは盛り上がってる様だ。そんな周りにはどうにかっていこうと機會を伺ってる他の聲優もみえる。ああいう事も自分もした方かいいんだろうと思う。

昔ならそんな尾を振るような事、見下してた。けど実際には、何もしない私よりもああいう事をしようとする子が生き延びるのだ。それくらいこの數年でわかるようになった。分かるようになったからといって出來る様になる事とは違うのだ。

、私が近づくと明らかに嫌そうな顔しますしね。……偉い人たちに悪い印象を與えるくらいなら、何もしない方が……

(いや、それじゃあ駄目だ。ダメだったじゃない)

私はこれまでの事を思い出す。何もしなかったから、今私はここにいる。この位置にいる。私はブサイクを言い訳に、何もしなかったんだ。なので、とりあえず近づいてみる。眩しい……消えそうだ。靜川秋華のに消し炭になりそう。

「あ……う……」

近づいたはいいものの……なんと聲を掛ければいいか……やっぱり私なんかがあの中にるとシミになるんじゃないかと心配になる。それに嫌な顔をされると単純に怖い。馴れてるが怖いものは怖い。

「あっ匙川さん」

「へ?」

そんな事を思ってると、靜川秋華がいきなりこっちを見て口を開いた。靜川秋華の言葉で周囲の人たちの視線もこちらに向く。誰もが「誰?」な目をしてる。それは當然だから仕方ない。私には靜川秋華の様な知名度は皆無だからだ。いやさっき挨拶したはずなんだけどね。悲しい。

けど明らかに靜川秋華と私を見て何か言いたそうな顔をしてる人もいる。すみませんねブサイクで。

「監督、匙川さんは凄いんですよ。んな聲を出せます」

「ああ、そういえばオーディションの時も何役かやってもらった――」

どうやら印象には殘ってたようだ。それはありがたい。印象にも殘ってないよりはのこってた方がいい。

「が……がんばります」

「靜川さんが誰かを褒めるとは相當ですかね?」

「ふふ、私だってんな人褒めてますよ~ね?」

「が……がんばります」

私は振られる度に「がんばります」だけをいう機械になった。だって他に言葉がでてこない。がんばりますなら、誰も傷つかない。萬能である。

「あはははーなんですかそれ~?」

「がんばります!」

私はがんばりますしか言ってないが、靜川秋華のおかげでなんか盛り上がってる。これなら悪い印象で殘る事もないだろう。なんで靜川秋華がこんなに私を気に掛けるか謎だが、人気にあやかるのも悪くないと思った。

まあ靜川秋華の人気にあやかった所で私の評価が上がる訳ではないんだけどね。寧ろ、靜川秋華の評価が上がるだろう。こんなブサイクにも分け隔てなく笑顔を向ける天使……とかね。

(そうか、それが狙いか)

納得出來た。私は人は打算的な生きだと思ってる。そう思ってた方が納得出來るからだ。周りを使って自分の評価を高める……賢いやり方だと思う。誰も敵を作らないやり方だ。

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