《聲の神に顔はいらない。》24 存在

いいじの雰囲気で収録は始まった。最初の収録は大探り探りになるものだが、靜川秋華のおかげで雰囲気がらかい。最初だからとピリピリするじがない。大五話くらいまでは続くんだけど……私みたいな知り合いがいない奴は特にね。

けど今は違う。私はいつものごとく端に座ろうとしたんだが……

「何やってるんですか匙川さん。メインなんですから中央に座らないと」

「え? ちょ、私はメインじゃなくマスコット――」

「出ずっぱりなんですからメインですよ」

そういって腕を引っ張られて私は中央の席の一角に座らされた。てか普通に靜川秋華の隣だ。何これ……収録ブースの中心じゃん。隣の部屋でこちらをうかがってる監督さんや々な人達がこっちを見てるのがよくわかる。こんなん張度合いがいつもの非じゃないんだけど!?

そんな事を思いながらも、私の張とは裏腹に収録は始まった。最初は大宇宙から始まり、宇宙船に暮らす人々。そんな街中を急いで走るヒロインと小言を言いながら追従するマスコット。ここから語は始まるのだ。使い古されたシーン、けどワクワクはある。これから何が始まるのか、この船がどうなって彼たちが何を選択していくのか……上手い導だと思う。

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そしてこのシーンで視聴者の興味を引くのは作畫と世界観と共に、私と靜川秋華の演技だろう。いわば私達は摑みなんだ。失敗する訳にはいかない。私はマイクの前に立ち、ハッとした。なんと臺本を置き忘れてきた。加工済み臺本が椅子の上で沈痛なびを上げてる気がする。

(どうする?)

既に靜川秋華がセリフを口にしてる。すぐに私のセリフがくる。取りに戻ってる暇はない。周りが私が臺本を持ってないことに気づいたのか、ちょっとざわついてる気がする。そんな時、私の視線は自然とこの私達を見守ってるブースの方へと向いた。そこには監督や音響監督さんがいる。

この事態に気づいてるのなら、彼らが止めてくれるかも……とおもったからだ。けど音響監督さんは私を見て何やら頷いた。

(え? 何ですかそれ?)

ちょっと何かわからない。けど向こうは確信めいた目で私を見てる。何故だろう……きこえる。私なら出來るという聲が聞こえる。幻聴? いや、あの目から聞こえてくるんだ。ヤバイ……これは逃げられない。もう後數秒で私のセリフだ。

(やるしかない)

セリフは……靜川秋華よりは私はない。それに沢山練習した。それこそ毎日毎日臺本とむきあった。正確にはiPadにいれた臺本に向き合ったんだけど……けど同じことだ。大丈夫……私は出來る。なんか張で全然セリフが思いだせないが、大丈夫大丈夫。

いつも自分がどうやってたかを思いだすんだ。その瞬間は刻一刻……いや既に剎那に迫ってる。時間的にはそれこそ瞬きする間。思考が加速する。心拍數が急速に上がり、が沸騰するかの如く流れていってるのがわかる。

私はどう頑張っても天才ではない。私が誇れるのはこの聲だけだ。そして何回も何回もセリフを繰り返し読む事でようやく私はそのキャラと繋がれる。それでも自分の中で確固としたキャラを摑んでるかといえば、一話時點ではそうでもないのも事実だ。

それにこれはオリジナルアニメ。原作がないオリジナルアニメは私達聲優に提供される設定もすくない。一緒に長してくじだ。だから私もこの一話分だけの臺本でしかこのキャラを知らない。それで良いのかわからない。

でもベストは盡くしてきたはずだ。私はり込むタイプの聲優ではない。技型の聲優だ。この七の聲と技……それを使って絵に命を吹き込むんだ。自分を信じろ私! ここで失敗すれば、不細工な癖に何も出來ない奴だ。

練習を思い出し、私は呼吸を整える。頭の中には臺本を浮かび上がらせる。何回も何回も見てたから、それは映像の様に頭に浮かぶ。そしてありがたい事に完璧に出來あがってる映像。こんな事はすくない。いや、一話はまだあるのかな? そんなにアニメの現場に來た事ない私には正直ネットとかで見た知識しかないし、現場とかで他の聲優が話してるのを盜み聞きしたのしかしらない。

だから実際、これが普通かそうじゃないかはちょっとわからないが、ネットを參考にするなら、これは貴重な筈だ。私達の収録時點で完全な絵がある。これなら私のイメージを更に補完出來る。相変わらず、セリフは思いだせないが、あと數コンマで私の発聲の時は來る。

練習は本番の如く、そして本番は練習の如く……そんな一般的な格言が頭を過る。そう、私はいつも本番のつもりで練習してた。だからもうこのは覚えてる筈だ。何も浮かばなくたって、私の脳はちゃんと知ってる。目の前のモニターに私の演じるキャラが映る。

綺麗な映像だ。気合をって製作してるのがじれる。この絵に負ける訳にはいかない。いつの間にか私の視界にはモニターとマイクと臺本しかってなかった。

その時になるとらかに口がき、舌が回りだした。まさに本番は練習かの様に張っていた肩の力抜けていて、ただただ気持ちよく紡げる言葉に私はきっと酔っていた。こんな事は私にも初めてだった。

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