《聲の神に顔はいらない。》28 天啓2

(死ぬかと思った)

いや実際靜川秋華が來なかったら死んでたかもしれない。自分は……とんでもない奴に途方もない借りを作ってしまったのではないだろうか?

「もうーびっくりしちゃいましたよ。先生何も食べてなかったんですか?」

自分を介抱して靜川秋華は今キッチンに立ってる。あの時は本當に死ぬかと思ってたから、救急車を呼んでしかったんだが、口からついた言葉は「水」だった。だから靜川秋華は急いで水を持ってきてたくれた。コップにった水を浴びる様に飲むと何とか危機はした様に思えた。

たった一杯の水であれほど生き返るんだ。やはり人は半分以上が水で出來てるんだなって思った。まあだけど、とりあえず沢山飲んだが、そうなると今度はが栄養を求めだした。的にはお腹が鳴った。この歳になってなかなかに恥ずかしい思いをしてしまった。

しかもそれを聞かせたのが靜川秋華だ。気心の知れた相手ならまだしも自分よりも年下のに弱ってる所を見せるって相當恥ずかしい。だけど何故か靜川秋華はとても全うだった。いつもなら直ぐにでも茶化してきそうな所を悉くスルー。

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とりあえず何か作るからその間にお風呂にでもってさっぱりしてくれという事で風呂も用意してくれた。何で家の部屋の機能を大把握してるのかは、これまで何度も上げてしまったせいだろう。風呂にってる間、いつ靜川秋華が「お背中流しまーす」とか言ってしてくるか気が気じゃなかったんだが……そんな事もなかった。

ハッキリ言おう――

「信じられない」

――いやマジで。いつもの靜川秋華なら確実に突貫してくる筈だろう。それが自分の中での靜川秋華だ。にどんな印象持ってんだって思われるかもだが、そういう印象を植え付けてきたのが靜川秋華だからしかたない。そしてさっぱりしてリビングに戻ってくれば、靜川秋華はキッチンに立って料理をしてた。

なんだろう……今日の靜川秋華はとてつもなくいいに見える。一回上を仰ぎ、瞼を抑えてぐーりぐり。そして改めてみてもやっぱりなんかいいに見える。今までは外見だけで中厄介な奴と思ってたが、まさかいいだったのか?

事実、今日の靜川秋華は一切ふざけてない。そのおかげで自分はこうやって生きてられてる。水飲んで風呂にってかなりさっぱりした。の固さも取れたしな。風呂にる時は大変だった。もうマジで老人の様だった。所までは靜川秋華はついてきたが、服とかは自分でいだ。

その時もいつもなら理が壊れて襲ってくるか、自分でがせようとしてくるか……だとおもってたが、靜川秋華の目には自分を案じるしかなかった。その時は流石に罪悪が出た。なんかあまりにも靜川秋華が常識的行をとり過ぎで自分が間違ってるんじゃないと思えてしまったんだ。

今もそうだ。自分のを案じて靜川秋華は料理をしてくれてる。いつの間に用意してたのかなんかエプロンまでしてまるで……

(まるで新妻みたいだ……な)

自分の思考が今の心の聲を微笑ましく思っててびっくりした。いつもなら靜川秋華とはあり得ないと常々言い聞かせてるのに――だ。ちょっと優しくされたくらいで靡いてしまって、自分はチョロインか。これはきっと映畫ジャイアン現象も起こってるな。

普段は警戒してる奴が突如優しくなったからそのギャップを脳が処理できてなくて、その収まりの悪さをなんかと勘違いしてる奴だきっと。ジャイアンにはしないが、自分の場合はジャイアン=靜川秋華だ。

「先生、顔良くなりましたね」

鍋を見ながら笑顔を向ける靜川秋華。ヤバイ……靜川秋華がなんか輝いてみえる。その笑顔に落ちそうだ。まずい、直視できない。自分は興味を反らす為に鍋に視線を向けた。

「何作って……」

鍋の中にはコンビニに売ってそうな湯煎するタイプのおかゆが浮いてた。

「こ、これはそう! 先生のお腹の事を思ってコンビニまでちょっと走ってきたんです! 決して何も作れる料理がなかった訳じゃないですよ。今からお米炊くまで待ってられないでしょ? だからこれが一番早くて、お腹に優しいんです」

「……ああ、ありがとう」

必死に言い訳をする靜川秋華はいつもの靜川秋華だ。実は中別人とか、雙子の姉か妹? とか思ってたが、やっぱりこれは靜川秋華のようだ。けど……いつもよりも魅力的に見える靜川秋華だ。

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