《聲の神に顔はいらない。》34 プレゼン1
自分はただいま家を出て、棒出版社へと來てる。かなり大手の出版社で……まあ自分の作品を出してる所だね。今日は此花さんはいない。いや、確かネットを使って出席するって言ってたな。でも時差が……とかいうと
『私が先生の本のかかわる場にいなくてどうするんですか!! 時差なんて些細な問題です! 絶対に出ますので!!』
――っていってたから多分こっちが晝で向こうが深夜とかでも死ぬ気で出るんだろう。ちょっと昔ならそんな事できる筈もなかったのに、今やこうやって海の向こう、果ては地球の裏側にいたってネットで會議に參加できるんだから凄い時代になっただと思う。
まあだが、此花さんがいてくれると心強い。年下のに頼るのもどうかと思うんだが、いかんせん自分の戦場はこういうところではないのだ。自分は作家だ。自分の仲のイマジネーションを本というに落とし込んで読者を虜にするのが仕事であって戦いだ。
だからこんなお偉いさん方が勢ぞろいして話し合う場なんて本當は來たくない。けどここで話す事は自分の作品のことである。変な風にされるのも嫌な訳だ。此花さんがいてくれれば全て任せて全然大丈夫なんだが、彼も參加するとは言っても畫面越しではいつもの迫力とか、強気な所とかどうしても不足するだろう。
だからこそちゃんと自分も來たのだ。
「先生、そろそろ」
「ええ、良いですよ」
この場ではちょっとだけ立場が低いのか、なんかおどおどした人がそういってきた。てかこっち的には早く初めてほしい。既に自分が來て三十分は経ってる。実をいうと此花さんもまだなんだか、ここにいる人たちが彼を待ってるとは思えない。
まだ空いてる椅子があるから、その人たちを待ってるのだろう。てか確か集合は十一時とかだった筈。もう晝の鐘が近づいてるぞ。つうか自分は大人気作家なんだが? 普段からそんな鼻にかけてはないが、その立場は確かなはずだ。
この場で一番目上の位置に自分は座ってる。なにせ自分は作者だからだ。そしてこの場は自分の作品のドラマやらアニメやら映畫化やらを狙ったプレゼンテーションの場である。
普通はこんな事しない。こんな事をするのは自分の時だけだ。何せ映像化すればもれなく大ヒットだからな。原作も大ヒットしてるが、映像化したら微妙な売り上げだった……なんて作品はごまんとある。けど自分の作品には今の所そんなのはない。
まあ最初の方はただ運がよかっただけだろう。けど、どんどん売り上げがびるにつれて、この出版社の看板みたいになって、ついには各社立候補した會社の人達を呼んでのプレゼン方式になったのである。
皆さん目がぎらぎらしてる。まあだけどこれには自分も真剣だ。なにせ映像化は一気に認知度を広げるだからな。真剣にならざる得ない。なのにこの場に遅刻とは……そんな所は落としていいんでは? と思う。そう思ってると、ようやく最後の會社の人達がきたらしい。
何やらぼさぼさの頭に無ひげを生やした人と、がちがちに張してそうな眼鏡の人だった。どちらもなんかスーツを著てるが、なんか今日用意しましたみたいな……そんなじがする。それに無ひげの人は欠までしてるし……
(あれはないな)
と取り合えず心の中でバツをつけておいた。
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