《聲の神に顔はいらない。》43 運命という言葉は詐欺師が作ったに違いない

世界は暗く、足元がふらついてた。例のアニメの収録の後はいつもこうだ。心が削られる。自分を否定される。私の足は自然と癒しを求めて映畫館へと來てた。丁度見たい作品がやってたんだ。でも仕事もここ最近はあったし、忙しさと神的な余裕のなさで後回しにしてた。

でも自然とここに來たって事はきっと、私の心が悲鳴を上げてるんだろう。

『癒しを求めて!!』

と、きっといってるんだ。一応チケットは買ってる。勿論、カウンターでけ付けの人と話して買ったわけじゃない。なにせ今の時代はスマホさえあれば、映畫のチケットを取るなんて簡単だ。スマホで買って店の機會にピッとやれば、あら不思議、チケットが発見される。

せど問題は公開までまだちょっと時間がある事だった。でもこれはしょうがない。普段なら、なるべく人がいない時間帯を選んで、ギリギリに行って、ひっそりと見て帰るというのがスタイルだ。でも今回はそんな計畫は全くなかった。

突然來ても丁度公開時間に合ってる訳がない。こういう所はやっぱりネットが便利だなって思う。ちょっと待てば、どうせ配信されるんた。けど既にチケットは買ってる。見ない訳にはいかないから、隅っこで映畫館の染みの様にしてたんだけど、そもそもテンション下がってた事に加えて、人に酔った。

今日は平日の筈だけど、流石に東京都心の映畫館ともなると、日中なら人で溢れてる。だからこそ、嫌なじになる。自分を見る好機の目。不確かで無遠慮な視線。どうして世界とはブスにこんなに厳しいんだろうって世界を呪いたくなる。

誰にも迷かけない様に、端っこの方で大人しくしてるというのに、それさえも許されないというのだろうか。元々調がよくなかったせいだろう。私は立ってるのも辛くなった。ふらつく足元、心が折れると地面が安定しなくて、私はフラフラと膝をおった。

けど誰も気になんて留めない。當たり前だ。そもそも変にスペース空いてたし……皆が私を拒絶してるんだ。こんな私が存在を許されるのは聲優という仕事だけ。なのにそれでもボロボロで……ヤバい、上映時間まで持たないかもしれない。

前髪のせいで視界が悪いんじゃない。目にたまる何かのせいで視界が悪くなってる。

「大丈夫ですか? 匙川ととのさん」

そんな聲が聞こえてきた。まさか……だ。幻聴に違いない。こんな不細工な私に聲を掛ける奴がいる筈がないし、よしんばいたとしても名前を呼ばれるなんて事がある筈がない。こんな広い東京という場所で、ただでさえ知り合いない私が知り合いにこんな所で會う?

そんな確率を考えてると、これが幻聴だと思う方がよっぽど現実的……なのに――

「どこか怪我でも? 立てますか?」

「せ……せ――んせ――い?」

私の視界にはお世話になった原作者の大人気作家様がいた。これはきっと夢だ……それかやっぱり質の悪い運命が詐欺師を連れてやってきたんだと私は思った。ピンチで弱った所に現れる素敵な人。けど、そんなのにキュンキュンしたって裏切られるって私は知ってる。

だってこれまでもずっとそうだったんだから。だから私は、こんな所で先生と出會ったことを運命だなんて……絶対に思わない。

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