オーディションの日が……運命の日がやってきた。その日は雪が降っていた。春先にりそうで、ちょっとだけ暖かくなってきた……とか思ってた時に季節帰りを起こして、冬が戻ってきた――そんなじの日。

ワンルームの部屋からコートを羽織って出ると、冷たい空気が肺に刺さってきた。白く濁る息。扉を締める為にノブを引くと、パチっと靜電気がきた。うう……私はなぜか靜電気が起きやすい質なんだよね。

多分末端が乾燥してるんだろう。すぐにとか指先とかカサカサになるからね。

「むむ……」

私は警戒しながら、再びドアノブに手をばす。そして今度こそ――ガチャ――と鍵を掛けた。溫を奪っていく鍵をかばんにしまって、一度はぁーと手に息をかける。そしてカタンカタンと足音を響かせつつ心もとない通路を歩き、むき出しの階段を降りる。その時も油斷してはならない。

古びたじの階段は濡れただけでとてもりやすくなってる。雪はまだ積もってないが、それでも濡れてはいる。ここで転んで怪我して、病院行き……なんて事になってオーディションへと行けないなんて事になると後悔してもしきれない。かなり時間に余裕を見て出てるんだ。

々な最悪……それを私は想定してる。だから私は階段もゆっくりと降りる。

「きゃはははは」

そんな聲が聞こえる。どうやら近所の子供が雪に興してるようだ。もしかしたらはしゃいだ子供が目の前でトラックに引かれそうにったりするかもしれない。そうなっても助けないぞ！　と思ってはいる。

実際、そういうときにける人なんて何人くらいか……私のこの心意気は冷たいなんて事はなく、普通だ。非難されるいわれはない。でも実際、その瞬間に立ち會うと、実際自分がどんな行を取るかなんてわかんない。

私は気だし、運神経だって滅的だ。でももしかしたら、そういう場面に出くわしたら、もしかしたらそんな事頭から抜けて走り出すからもしれない。だから私はそそくさとアパートから離れる。勿論道路でも警戒は怠らない。

何が起きるか分からないのが人生だ。いきなり車に突っ込まれるかもしれない。駅へと向かってるが、こういう日くらいはタクシーを使ってもいいかもとか思う。

電車だって何が起きるかわからない。日本の電車は世界一安全だと信じてるけど、外的要因は避けられないからね。どっかの誰かが、線路に飛び出して電車を止めるかもしれない。とりあえずスマホを見ても順調にうごいてるから大丈夫そう。

電車で都の方へとおもむき、改札を出た所で私に聲を掛けてくる聲があった。

「おはようございます、ととのさん」

それは制服姿が眩しい篠塚宮ちゃんだ。子高生聲優としてプチブレイクしてる彼も、今回のオーディションに參加するって事だったので、一緒に行くことになったのだ。

まあ仲間というよりはライバルな訳だけど……険悪なわけじゃない。むしろ一番仲いいしね。けどだからってオーディションで手を抜くなんてことはありえない。なにせ私はこのオーディションに賭けてるのだから。