《聲の神に顔はいらない。》401 運命の日 36
別の役をやってほしいと監督である酒井武雄が言う。それに異論がある人はいなかった。さっきまで靜川秋華の空気に充てられて、しかけれないような態度だったのに、皆さん……
(でもちょっと誇らしい気がするな)
匙川さんの事を誰も見てはなかった。けど、今はこの場にいる誰もが彼に注目してる。誰も監督の言葉に反対意見を言わないのがその証拠だ。
靜川秋華と比べられるという不利を彼は自分の聲だけで振り払った形だ。それはきっと聲優冥利に盡きることではないだろうか?
(まあ自分はわかってたけど)
とか得意気になってる。実際、実力を見せてくれないと匙川さんを推すのは流石の原作者と言っても厳しい。だって酒井武雄には絶対に妥協なんてしないと言ってる。そこで下手な聲優を自分がごり押ししたらどうなるか……自分は立場が立場だし、多分通ると思う。でもそれだけだ。きっと自分のことは失されてしまうだろう。
そうして制作側のやる気を奪ったら、このアニメはここまでになる。きっと完したとしても、それには熱量がなく、ただパッとしないアニメとして終わってしまうだろう。
そうなるとこの武雄スタジオもおわりだ。まあここが終わるかどうかはそこまで興味はない。冷たいかもしれないが、自分は自分の作品のクオリティが重要なんだ。そしてその為に心を注いでる。そしてアニメは何度も言うように、一人ではできない。
だから皆のテンションを下げるようなことはしたくない。スタジオ事態に興味はないが、皆がハッピーになれるようにしたいとは思ってる。
(でもこの様子なら大丈夫そうだな)
はっきり言って、匙川さんは最高の仕事を――聲を聴かせてくれてる。監督が指定したキャラの聲を見事にやってのけてる。さらには次々とリクエストが上がり、その中にはなんと男キャラもある。でも彼は全てをやってのける。
さすがにすべてがイメージに合致したかというとそうではない。やっぱり男で歳いってる聲とかは無理してるはある。でもはっりき言って言われないとが出してる……とは思わないクオリティだ。実際目の前で聞こえてるはずなのに、そこに誰かいるのか? と思うほどでもある。
結局のところ、匙川さんはほとんどのキャラをやった。おかけで彼が今日一番の長さのオーデションになってる。大の人は一つの役を演じてそして退室していくものだからだ。もしも仮にやらせるとしても、もう一つ……くらいだ。
全部をやらせるなんてない。けど、途中で匙川さんがちょっと前にやってたアニメで全役をやってたという話がでて、それで――ってなった。でも実際、全部やれるんだからな……彼の長が見て取れた。
(大丈夫だ。これなら、きっと……)
自分は彼自じゃないのに、そんな手ごたえに安心してた。
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