暴力を振るい続ける父と、その父に夢を見続けている母。その2人を支えるために我慢をしている娘と、何も出來なかった僕。

全員が悪かった。

己のをぶつける者も。

現実を見ようとしなかった者も。

自己犠牲で自己満足する者も。

見て見ぬ振りをした者も。

全員が、それぞれが悪かったと僕自の行を正當化するかのようにしていた。

彼の家に著いた。

表札には大沼という字が黒く塗りつぶされて、青海という字が新しく刻まれていた。

僕は彼を名前で呼んでいたため気づかなかったが彼の母は再婚した後、青海という苗字になったのだ。

沼から海へと変貌したその苗字は彼にとっては皮そのものである。

泥沼なのは今なのに、今は壯大な希を比喩するような青海という苗字なのだから。

僕はインターホンのボタンを押して、彼を呼ぶ。

しかし出てきたのは彼の現父親。

顔は整っているのにどこか目の焦點は合っておらず、顔は提燈のように赤くなっていた。吐き出される息は酒気を帯びていたので、顔が赤くなっているのは酒のせいだということがすぐに分かった。

「おい、お前。いったい何の用だ？」

威圧的に問いかけた彼の目は確実に僕を睨みつける。

「娘さんに咲希さんに用があってきました、今すぐ咲希さんを出してください」

なるべく強気に、彼の圧力に負けないように僕は言い放つ。

「あー、あの小娘か。いいぜ、すぐに出してやるよ」

は繋がっていなくとも今は娘のはずの咲希さんを"小娘"呼ばわりしている彼に僕はなからず憤りというものをじた。

いや、正確には再び憤りをじた、だ。

拳をギリギリと握りしめている間に現父親は咲希さんを引きづり出すように連れてきた。

いつも通り長袖を著ていたが、ズボンは膝下までと今までと比べて短いものになっていた。

彼のふくらはぎには青黒いアザができており、そのアザは存在を示している。

顔にもアザは出來ており、ついさっき暴力を振るわれていたことを裏付けてもいた。

「娘さんを今日一日借ります、もう暴力を振るわせるなんてことさせません」

いま僕の膝はガクガクと、頼りなさげに震えていることであろう。

だって怖いもの。今更助けるのかよ、と言われてしまうのが怖かったのだ。

「そうかそうか。もう小娘には會うことはできねーのか...それじゃあさ、小僧。最後にこいつを好きに使わせてもらうわ」

現父親はニタリと笑い、彼の髪を摑むと無理矢理に元に引っ張った。

「最後に一発、こいつを毆らせてもらうぜ」

その時の彼の顔を、僕は、一生、忘れることはないだろう。