《終末デイズ〜終末まで殘り24時間〜》酒井 東夜の章:7

「ねえ、東夜君?今から何をしようと思っているの?」

「まだ何も決めてないよ、とりあえず今日のうちに咲希さんをあそこから解放してあげたかっただけだよ」

最初のフルスピードは何処へやら、今の自転車の速度は限りなく歩行速度に近いものだった。

道路は相変わらずガランとしており、悠々と道路の真ん中を運転している。

「そう、なんだ... ねえ、東夜君?私ってね、小さい頃から夢があるんだ」

「へえ、それって世界一周とか、好きなものを好きなだけ食べたいとか、か?」

腰から腕を外して、彼は荷臺の片側に両足を添え直すように座る。

「ううん。もっと子供らしい夢。それも絶対に大人になったら忘れてしまうような夢なの」

「そりゃあ一どんな夢なんだい?」

後ろは一切見ず、ただ前を見つめてペダルを一定のペースで漕ぎ続ける。

「笑わないでよね......白馬の王子さまに迎えに來てしいんだ、こんな私を救ってくださいっ、てね」

それと同時に背中に重さと溫もりがじられた。

それは彼が僕の背中に頭を、顔を押し付けているからであることはすぐに理解できた。

しかし、溫もりの理由は彼溫でも呼気でもない、その違うものが何だったのかは理解できなかった。

「苦しかった。小さい頃から両親は仕事に向かってしまって、まともにけることが出來なかった。家にいる間両親はずっと眠っているだけだった。構ってくれる時といったら、たまに學校に顔を出すぐらいだった」

僕は黙って聞くことしかできない。

その溫もりの意味を理解したから。

「辛かった...學校こそ私の家になってしまえばどれだけ楽しい人生だっただろうか、って何度も考えてしまった。家では本を読むことしかできなくて、手作りの料理なんて一度も食べることができなかった。ずっと冷えたコンビニ弁當を食べることしかできなかった」

再度、腰に腕を回し、重を僕に預ける。

「それだからこそ、いつか救ってくれる人がいるって。そんな王子様が來てくれるって、夢を見続けていたの」

泣いていた。

溫もりの正は涙。

今まで溜めていただろう涙が流れだした。

「でもね、私が本當に求めていたのは、"白馬に乗った"ではなくて、"黒馬に乗った"王子様だったの」

白馬ではなく、黒馬。

それの意味はすぐに分かった。

僕の自転車のカラーが黒だったからだ。

つまり、それは。

「ねえ、王子様。私をどこかに連れて行って。私をずっと大切にして」

安全運転を心がける僕に、彼を抱きしめるほどの余裕はない。僕は答えとして、全速力でペダルを漕いだ。

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