《終末デイズ〜終末まで殘り24時間〜》後藤 慎二の章:8

の腕を摑んで俺はカツカツと階段を下る。

の腕には人としての原型を取り止めるだけの量と思えるぐらいのと筋しかなく、ちょっと力を込めるだけで骨が折れてしまいそうなほどに華奢だった。

カウンターにはやはりあの男が座っており、俺との姿を見るなり何かを察したのだろう、一言だけ。

「31-19、鍵は空いています」と言った。

にとっては心ついてから初めての外の世界なのだろう。車に乗った後もジロジロと窓の外を見ていた。

世界最後の日だからなのか、道路はガラガラしており、唯一見かけたのは自転車を二人乗りしている高校生カップルだけだった。

タイヤが道路とする音を聞くだけなのはなんだか寂しかったので俺はラジオ番組を聴こうと畫面橫にあるダイアルを捻ったが音が出ることは無かった。

それもそうだろう。

こんな時にラジオをやっているやつなんてのは相當な変人だけなのだから。

仕方がなく俺はオーデォオ畫面を開いて録音されている曲を聴くことにした。

適當に曲を選んでいると懐かしい曲のメロディーが流れてきた。

優しいウクレレの音と故郷である島國での思い出を延々と語っていく、俺が音楽を始めるきっかけになった曲の一つである。

「波の音は反響し、友の聲は還り行く。植えた庭の木は嵐に吹かれても枯れることは無かった」

無意識のうちに俺は曲を口ずさんでいた。

「海よ、海よ、海よ、海よ。この聲を友に屆けてくれ。遠くに移り行く友に」

このフレーズを歌った瞬間、後ろでずっと外を眺めていたが聲を張り上げた。

「うい!うい!うーーい!」

急なことに俺は驚く。

今までにこのがこれほどに聲を張り上げたことがなかったからだ。

そして俺は理解した。

理解することができた。

このんだものを。

今まで生きるための糧とした、生きるための希とした命綱を。

「お前、海に行きたいのか?」

「ういーーーーー!!」

「そうかそうか、わかったわかったぞ」

カウンターの男に伝えてやりたいな。

お前の考えはハズレだったぞ、と。

そしてよくこいつを生かしといてくれた、と。

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