この世界は汚れすぎていた。

十數年前にこの港に來た時にはき通っていた海水も、今では薄黒く濁っており、海面を浮遊している人工がこの海が人間の手によって汚していることを語っている。

堤防に腰掛けた俺はを隣に座らせる。

ただただは海を。

その先にある沈むことのない夕を見つめていた。

このは今どんなことを考えているのだろう。

自分が思い描いていた海と、現実で見せられたこの海との違いにただただ戸っているのか。

はたまたこのはその海に同しているのか。

あるいは何も考えていないのか。

はただただ何かを見つめていた。

俺は車の中から引っ張り出した(何故車にあったのかは分からない)ウクレレをの前に抱くように構えて即興のフレーズを弾き語る。

何も考えていない訳ではなかった。

でも何かを考えていた訳でもなかった。

俺がこのと出會い、しの間であっても一緒にいることで何かを考えることはしていた。

ただ俺はその時の記憶が一切ない。

覚えていたのは俺が歌を歌い続けていたということである。

それ以外は何も覚えていないし、

何もじなかった。

ひとしきり歌い終えると俺はが俺の肩に重を預けて眠っていることに気づく。

波の音と拙い俺の演奏が子守唄になったのだろう。

いい夢見ろよ。

俺は落ちることなき夕を。

週末を告げる存在を目にしながら。

の安泰を祈った。

世界終末最後の日。

俺は不幸なと過ごすことにした。

いや、正確には不幸"だった"であろう。

男のが渦巻くあの地獄からこのは抜け出すことができたのだから。

今ではこのは可らしい寢息をたてながら終末を迎えようとしている。

全く、呑気なものだ。

俺も、こいつも。

ポロロンという優しい音がより一層の悲壯を掻き立てる。

決して貞を捨てることが出來なかったからではなく、このにもっとマシな海を見せられなかったことだ。

もうし早く俺が來ていたら。

いや、結局俺はそのままを放っておいただろう。

何も見なかったことにして、

いつものスリ稼業に移っていただろう。

地表から一筋のが放たれて消えていたが、俺がそれに気づくことはなかった。

を支えるような形で俺もまたそっと目を閉じて、眠りについた。