《一目惚れから始まった俺のアオハルは全部キミだった...》文化祭 12

〈瀬名side〉

『Jaguar』、『Re Light』とリハーサルは終わり、もう後は開場を待つのみとなった。

山 「ヤバいねこれは…」

瀬名 「これはヤバいわ…」

山 「相當ヤバいの見つけちゃったねぇ瀬名ちゃん」

瀬名 「いや、マジで予想以上にヤバいわ…」

ベテランサウンドエンジニアの山ちゃんこと山本さんと2人、『ヤバい』というワード連発の會話をPA卓の前で繰り広げていた。

遡ること3ヶ月前、それはまだ暑い8月のことだった…

別段いいと思わないようなヤツらを任されていた俺は、変わりゆく音楽シーンにちょっと著いて行けずにいた。

自分のデスクで、擔當してるバンドの新曲デモ音源をヘッドフォンで聞いていた。

「相変わらずアクビしか出ねぇ曲だなぁ…」

でっかいアクビをしながらヘッドフォンを外した。

「瀬名さーん、來客ですよー」

後輩の長岡がデカい聲を出す

「客?」

椅子から立ち上がると、そこには、老舗ライブハウス『LA.LA.LA』(ラララ)のオーナーの大森さんが立っていた。

「大森さんじゃないですか!どうしたんすか?」

「いきなり尋ねて來てすまんね。瀬名くんにちょっと聞かせたいヤツらが出てきてな、デモ音源持って來たんだよ。どーせ今やってるヤツらには、飽き飽きしてんだろ?」

大森さんとはもう長い付き合いだった。

俺は擔當バンドの武者修行の場には、だいたいこの大森さんとこの『LA.LA.LA.』を使って來た。駆け出しの新人バンドがやるには、丁度いいハコってのもあったが、俺は単純にこの大森さんって人が好きだった。

大森さんが「コイツらいいよ」っていうやつらは、たいてい俺もいいなと思ったし、音楽的な覚が俺と大森さんは似ていた。

「現役高校生バンドとは思えない音出すんだよコイツら『Jaguar』っつーんだけど、音も去ることながらルックスがいいんだ。すぐにデビューさせられる逸材だと思うんだ。ちょっと音源聞いて見てくれないかなと思ってな」

「大森さんが、わざわざ持ってくるなんて期待しちゃうなぁ」

「きっと期待を裏切らないと思うよ」

「聞いてみます!」

「あぁ、そのUSBな、もうひとバンドの音源がってる…これは渡すべき音源じゃないかもしれないんだけど…このまま埋もれてしまうにはもったいなさすぎてな…その『Jaguar』と同じ學校の後輩バンドだ。まだバンド名すらない。この音源は、うちのライブハウスでこの間演奏した時のやつだ。途中までのやつだけどな…」

それだけ言うと、大森さんは帰って行った。

俺はすぐさま大森さんの持って來たUSBをパソコンに繋いでヘッドフォンを付けた。

『Jaguar』の音源は、確かに高校生とは思えぬ音で、期待を裏切らないなかなかのバンドだった。

これはすぐにでもデビューさせられるレベルだ。さすがは大森さんのお眼鏡にかなったバンドだな。

もうひとつのファイルに目をやる…

なんとも言えない騒ぎを覚えながら俺はそのファイルを開いた。

その音源は、『Jaguar』のボーカルの聲から始まった。

「みんな驚かせてごめん。これは機材トラブルでもなんでもないから安心して。ちょっとした演出だから」

もうこの時點で俺は引き付けられていた。

曲がはじまった。

なんだこのピアノ…高校生だろ?エモいなぁ…

ギターの歪みエグっ…

ベース…歌ってるみたいなフレーズじゃねーか…

にしても暗っ!!

こんな世界観を出せる高校生って何者よ?!

そんな軽口コメントを言えるのもそこまでだった…

か細いシルク糸のようなのある悲しい悲しい聲が、すうっと耳に流れ込んできた…

その聲に俺は心を鷲摑みにされていた…

ワンコーラス目が終わり、ドラムのスネアの1発を合図に、曲の世界は一転する

そのすぐ後、演奏は唐突に途切れ、響き渡る悲鳴…音源は、そこまでで切れた…

その後の仕事は、もう全く手につかなくて、後輩の長岡に怒られる始末で

「なんなんすかもう!瀬名さんもう今日帰った方が良くないすか?」

そう言われて、いつもは終電で帰るのが常なのに、まだ明るいうちに會社を出た。

無意識に足は『LA.LA.LA.』に向かっていた。

落書きと、バンドのフライヤーがベタベタとられている階段を降り、薄暗くカビ臭い地下の重い防音扉を開けると、大森さんはバーカウンターでコップを磨いていた

「來ると思ってたよ瀬名くん…」

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