《一目惚れから始まった俺のアオハルは全部キミだった...》文化祭 13

 「まぁ座れよ」

そう言って大森さんはキンキンに冷えた生ビールをジョッキに注いでくれた。

「聞いたか?」

「聞きましたよ…もうあの後仕事になんなかったっすよ…」

俺のその言葉に、大森さんは豪快に笑った。

「『Jaguar』は大森さんが言うように、即デビューさせられるバンドですね、あれは」

「仕事が手に付かなくなっちまったのは、もうひとバンドのせいだろ?」

大森さんは、そう言ってし表を曇らせた…

「あの悲鳴はなんなんですか?何があったんですか?」

「まぁちょっと話せば長くなる…」

そう前置きをしてから、あの音源の日のライブのことを話してくれた。

 

「それで今その子は…」

「右手は不自由になってしまったが、元気にしてるよ。最近退院してな、文化祭のライブでまた歌わせてやろうって、Jaguarの奴らも、そのバンドのメンバーも頑張ってるよ」

「文化祭ライブ!!それだ!!

それうちのコロラドミュージックのプロの機材とスタッフ揃えてやらせよう!ネット生配信もして!」

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そこからき始めたプロジェクトだった。

しかし、社でプレゼンしたが企畫は通らなかった。うちの會社とまだ契約したバンドでもないのに、ライブの機材、スタッフをそんなに出せるわけないと、上層部は聞く耳も持ってくれなかった…

ならば有志を募ってやるしかない!

一人一人、一緒に仕事したことのあるやつを口説き落として行った。

単に興味本位のヤツも居れば、経験になると喜んで引きけてくれた若手も居た。ベテランのエンジニアさんなんかが引きけてくれたのは、ほんとに有難かった。機材は、大森さんの所から借りれるは借りることにした。

最低限の予算とスタッフでやるからということで、なんとか會社にうんと言わせ、文化祭プロジェクトはき出した。

演者である『Jaguar』と後にバンド名が決まった『Re Light』の窓口となり、一緒にライブをプロデュースしていくことになる黒沢優輝とコンタクトを取り、會うことになった。

あのエモいピアノを弾く彼は、どんな子だろう?と、ちょっとワクワクしていた。

彼はなかなかの爽やかイケメンだった。

彼は、これまでのバンドのヒストリーを、何時間もかけて話してくれた。

屋上でのパンツ事件から始まり、廊下にれ聞こえた彼の歌聲に稲妻が走って、音楽室に飛び込んで行ったこと。朝までガレージスタジオで練習したこと。しだけボーカルの來蘭ちゃんに淡い心があったこと…

なんだか自分の高校時代やっていたバンドのことを思い出してしまった俺は、無理やりに押し込めて蓋をした想いや記憶が甦って來ていた…

「瀬名さん?どうしたんですか?」

優輝くんがそんな俺の顔を覗き込んでいた。

「あぁ、ごめんごめん、なんだか自分の高校時代のことを久しぶりに思い出してしまったよ…」

「もしかして瀬名さんもバンドをやってたとか?」

「うん…ボーカルやってたよ…」

「ほんとですか?聞かせてくださいよ、瀬名さんの話しも」

優輝くんが巧みに聞き出すから、なんとなく話し始めてしまっていた…

「それで?そのバンドの紅一點のの子のこと、瀬名さんも好きだったんでしょ?」

話の途中で、優輝くんが俺に言う。

「まあ…そりゃ、好きになるだろ普通…」

「ですよね…好きになるなって方が無理がある…」

優輝くんも自分と重ねているのだろう…急に切ない顔をした彼に、俺のあの頃の想いも紐を解かれたように溢れ出して來ていた…

多分、バンドで俺が1番初めに彼を好きになったと思う。…いや、みんなそう思ってんのかもな…

みんなそれぞれ彼が好きだったけど、バンドも大事だったから、全員片思いだった。

だけどみんな、どうにかして數分でも數秒でも2人っきりになろうとして、今思うと笑っちゃうようなアホなことしてた。

唯一俺が彼と同じクラスだったからなんだろう、彼から相談があるって言われた時は、舞い上がったよなぁ…すぐ奈落の底に落とされたけどね…

メンバーの中でも1番スカしてたというか、「俺は別に好きじゃねーし」みたいな顔してたギターの奴のことが好きになっちゃった、どうしよう…とか言われた時はもうほんとに絶句したよ。

でも…俺も本當に彼のことが好きだったし、それ以上にギターの奴のことも大切だったから、好きな気持ちは伝えた方がいいって言ったんだ。

それから間もなく彼はそいつに告白して、付き合うようになった。

幸せそうに手を繋いで登下校する2人を、しょっちゅう冷やかしたっけなぁ…

でもそんな時間は僅かだったな…

脳腫瘍という病気が彼を襲ったんだ。

の前の日に、彼から俺にメールが屆いた。

私にもしものことがあったら、彼をよろしく

というような容のものだった。

は…功はしたが…

重い後癥が殘った。

日に日に塞ぎ込むようになった彼は、段々見舞いに來る人を遠ざけるようになって行ったんだが、何故か俺が顔を出すのは拒否しなかった。でも、彼の口から出てくるのは

「そうちゃんは…そうちゃんは元気にしてる?」

アイツのことばかり俺に聞いてきた。

「そんなに気になるなら會えよ!」

そう言ったところで、彼は首を橫に振るばかりだった…

いよいよ彼の様子がおかしいとじた俺は、ギターのそいつに、會いにいってやれよ!!って怒鳴って毆った。

それでも尚、彼はそれをんでないとか言って會いに行ってやらなかった…

それから間もなくのことだった…

投げをして、この世を去った…

俺はそいつのことを許せるはずもなく、バンドは空中分解し、卒業まで口をきくこともしなかった…卒業してからもう何年も経つが、どこでなにをしているんだろうなアイツ…

「その頃の寫真とかないんですか?」

優輝くんの言葉に、ハッと我に返った。

「寫真?あぁ…持ってるよ…やっぱりあれが俺の原點だからね、それを忘れないようにって思って、財布にれてる…」

「見せてくれたり…しないですよね…」

遠慮しながら優輝くんが伺う。

誰にも見せたことのない寫真を、何故か俺は優輝くんに、なんの躊躇もなく見せた。

それはたった1度だけ、俺たちがやった文化祭のライブの時の寫真だった。

 

やけにじっくりと、不思議そうな顔をして、優輝くんは時間をかけてその寫真をだまって見ていた。

「うん…これは…好きになりますよ…」

「だろ?俺も久しぶりにこの寫真見たわ…

ってゆーか、そっちも見せてくれよー!來蘭ちゃんの寫真見せてよー!」

「え?あぁ…うん…瀬名さん見ない方がいいかも…當日までのおたのしみにしておくってのはどお?」

「なんでよ?」

「ほら、オッサンになるとさ、日常に刺激もなくなるでしょ?ちょっと刺激になるんじゃない?」

「オッサンゆーなや!!まだ28だわ!!

刺激ぐらい!……ないな…うん…」

そんなこんなで今日まで俺は、來蘭ちゃんの顔を知らぬまま、本番の日を迎えたのだった。

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