《(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~》初めての客人・転
そして。
メリューさんは呆れ果てたのか、自分でそれがった皿をもっていく。
「もういい。あの客は私が何とかする。お前はこれをもっていけ」
そう言ってメリューさんは小さい船の形をしたガラスの容にプリンや果、プレッツェルが絶妙なバランスで盛り付けられた料理――いわゆるプリンアラモードというやつだ――を俺に押し付ける。ヒリュウさんがここにやってくるときに毎回食べたがっている料理がこれなのだ。
俺はそれをけ取って、了解、と小さく頷いた。
◇◇◇
「お客様、お待たせしました」
メリューさんがそのお皿を、音を立てずに男の前に置いた。
「……これは?」
「これは煮です。おに馬鈴薯、人參に玉蔥……それらをマキヤソースベースにして煮込んだものとなります。きっとあなたの家の方では、家庭料理として出されたものだと思われますが?」
マキヤソースとは、魚醤に近い、ある世界では醤油のかわりに使われている調味料のことだ。マキヤ・インダストリィが開発しているためそのように命名されている。まあ、それを聞いたのもメリューさんからのれ知恵だがね。
マキヤソースと聞いて一番に喜んだのは他ならない、目の前に居る男だった。
「マキヤソース……そうだよ、これだ。懐かしい響きだ……。確かに香りも、マキヤソースの香りがする。うんうん、それに人參のこの大きさといったら! ……しかし、ここは喫茶店だったはずでは?」
「ええ、確かにそうです。ですが、お客様が一番食べたいものを提供する。それがこのお店のルールでして」
「そうじゃよ、名も無き男よ」
突然橫槍をれられて男は橫を向く。そこには満面の笑みを浮かべてプリンを食べているヒリュウの姿があった。因みにプリンアラモードの隣にあるホットコーヒーはサービス。お口直し的な意味も兼ねている。
「る程」
小さく頷いて、料理を前に、両手を合わせる。
「いただきます」
小さく呟き、料理の前に置かれた箸を手に取った。
◇◇◇
私がその料理を見たときは、とても懐かしい見た目にじた。
不揃いの馬鈴薯に、人參に玉蔥。そしてし濃く食材がづけられている。
そう、これだよ。
私が食べたがっていた、『煮』はこれだよ!
私は馬鈴薯を箸で摑み、そのまま口に放り込む。
「ああ、味い」
思わず口かられた言葉を聞いていたのか、目の前に居るメイド――あとから聞いたがメリューと言うらしい――は優しく微笑んでいた。
まるでそのやさしさが――私の母を想起させた。
煮は普通、主菜ではなく副菜におかれるものだ。私も地方から都會に出てきてずっとそうだったからそういう常識を理解せざるを得なかった。
だが、この構の煮だけは――母の作った、あの塩辛い味付けには敵わなかった。
とはいえ料理を食べたいがために仕事を放り捨てて帰省することなど出來るわけがない。
だから私は我慢し続けた。
それが、仕事に対する苛立ちへと変わったのはいつからだろうか。
日常生活に対する『満足』が徐々に、仕事に対するモチベーションの維持に繋がっていたことを、私はすぐに思い知らされた。
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