《(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~》遣らずの雨・起 ◇

そんな珍妙な出來事が起きたのは、ある雨の降る日のことだった。この異世界が別の世界とはまったく違う空間であったにせよ、気候は普通の世界とほぼ同じなので雨は當然降る。

「雨だね。最近晴れ続きだったし、家庭菜園の野菜ちゃんも喜んでいるよ」

ティアさんは窓から外を眺めてそう言った。

しかし雨の日は憂鬱な気分になる。それに意外と人も來ない。だから出來れば降ってほしくないものである。

ただあまり降らないと野菜が育たなくなるので、野菜を外から購せねばならなくなるのだが。

カランコロン、とドアにつけられた鈴の音が鳴ったのは、そんな退屈な日の晝前の出來事だった。

「いらっしゃいませ」

マントを著けた男だった。

角がついているから、なくとも人間では無い。それにも大きい。俺もはがっちりとしている方だが、それが小さく見えるほど。二メートルくらいはあるのではないか、そう思うくらいだ。

男は迷わずカウンターの席に腰掛ける。

なんというか、オーラがすごかった。まがまがしい、とでも言えばいいだろうか? なくとも普通の人間がこんなオーラを放っているわけがない。そう思った。一応言っておくが、俺にはそのような素質は全くない。ゼロだ。

「……小僧、この店のメニューは無いのか?」

「このお店は、あなたが一番食べたいものを自的に提供するお店となっています」

もうテンプレートとなっている解答を示す俺。

それに対して男は笑みを浮かべる。

「ほう。我が一番食べたいもの、だと? このようなさびれた店に出せるものがあるのか?」

だったらあんたは何でここに來たんだ?

……とは言えないのが実だ。なんか言った瞬間オーラで消されそうだ。

それにしてもこの人、ほんとうに人間なのだろうか? いや、一応『人』として定義しただけに過ぎないので、もしかしたら人間では無いのかもしれない。そうだとすれば大変申し訳ない勘違いをかましたことになるのだが。

「……年、一つ話を聞いてはくれまいか」

そう言われてコップを拭いていた手を止めた俺。

いや、年と呼ばれる年齢でも無いんだけどな。俺、そんな顔かなあ。

「いいですよ。ここは喫茶店です。料理が出來るまでの間で構いませんのでしたら、好きなだけお話しください。相手になるかどうか、解らないですけれど」

「……私は魔王なのだ」

こりゃまた唐突なカミングアウトだな。

「魔王って、ロールプレイングゲームとかで出てくるあのラスボス的立ち位置の?」

「君が何を言っているのか正直理解できないが、最後の敵というのは間違いないだろう。なぜなら人間にとっての最大の敵は私なのだから」

おっと、つい俺の世界の常識で言ってしまった。今後は言わないようにしないと。何が起こるか解らない。このまま魔法で消される可能だって……うん、考えないでおこう。

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