《(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~》食材とスパイスと、もう一つの価値・後編

……。下らん、そんなものがスパイスの一つになりえる、だと? そんなことは絶対にありえん」

「なぜそう言える? それは自分がけていなかった、その裏返しか?」

その発言に、男は何も言い返せなかった。

メリューさんの話は続く。

「この店は私が引き継いだものだ。そして、そのとき私はこう言われた。『この店を継ぐのなら、料理はをもって接せよ』と。當時はその言葉がどういう意味を持ち、そして何を意味するのか解らなかったが、ここで過ごしていくうちに理解できたよ。私なりの料理、『その意味』をね。料理というのは食べた人の心を幸せにしていくものなんだ。それくらい、解らないかしら?」

……幸せ。下らん、下らん、下らん! ただ味さだけを追求していればいいのだ、料理というのは! 貴様の発言はそれを冒涜するような発言だ!」

「でも料理人は誰もかれも、それを追求していると思うけれど? ……そして、幸せになった対価にお金をいただく。それは十分に理に適っていることだと思うが」

「そんな……。そんなことは認めんぞ。ありえない!」

「ありえない?」

メリューさんはそう言って、あるものを指さした。

それは、男の目の前にある皿だった。

「それじゃ、空っぽになっているそのお皿はどう説明つけるつもりだ? 味かったのだろう、味しかったのだろう? そうじゃなければ完食なんてしないものね」

「これは……!」

今度こそ。

今度こそ男は何も言えなくなった。

そして男は立ち上がり、そのまま出て行った。

「……ああいう人間って、すぐ考えを改めようとはしないのよね。実際問題、これが正しいことなのだけれど、それと自分の生き方を客観的に比べることができない、とでもいえばいいかしら? 悲しい生きよね、人間って。ほんとう、ここで人間の姿をまともに見ることができてつくづく思うよ」

そう言ってメリューさんはしだけ悲しい目をした。

何か深い闇を抱えているような、何か悲しい過去を抱えているような、そんな目だった。

「まあ、いずれ解ってくれるよ。本當の料理とは何たるか、を」

そう言ってメリューさんは戻っていった。

おれは皿を片付けようとしてそれを持ち上げた。

「あれ……?」

すると皿の上に紙幣が數枚置かれていることに気付いた。とてもじゃないが、これはあまりにも多すぎる。カレーライス一杯、いや、五杯でも足りないくらいのお金だ。

それを伝えようとしてメリューさんのいる廚房へ向かおうとしたが――ひとまず、これはあとで報告することにしよう、そう思った。まだ営業時間ということもあるし。

――後日、このお店がその世界で『隠れた名店』として紹介されることになり、客足が普段よりも増えたのだが、それはまた別の話。

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