《(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~》祭りの季節は模様?・3

その聲はとても優しい聲だった。麻で織り込まれた服を著ていたは、リンゴが山盛りにっていた籠を持っていた。

「……ああ、大丈夫だよ。し、おいていかれてしまってね。まあ、休憩してすぐに追いつくさ。場所は知っているから」

「祭りは初めて?」

籠を持つは首を傾げて、俺に訊ねる。

「……ああ、初めてだ。ここに來たことも無い。ちょっと前に來たばかりだからね、この國には」

「旅人さん、ってことだね。いろんな世界を旅しているということでしょう? すごいなあ……。惚れ惚れしちゃうね」

俺はその言葉を聞いて、ついドキっとが高鳴った。

そして出來ることならここでずっと話し続けていたい。

俺はそう思った。

けれど。

それとほぼ同じタイミングで、バザーのり口のほうがしざわついてきているのをじた。

何か、嫌な予がする。

「……何かあったのかな。なんか、向こうのほうがし騒がしいようだけれど……」

「済まない! ちょっと行ってくる!」

俺は居ても立っても居られなくなり、そのまま走り出した。

嫌な予が、的中しなければいいのだが――。

◇◇◇

だが人生とはそう簡単にうまくいくわけもなかった。

騒ぎの中心では、やはりメリューさんとティアさんがいた。一方的に暴行されている姿だった。メリューさんのことだから反撃でもするかと思っていたが、していなかった。

相手は男だった。目つきの悪い坊主で、いかにも何か悪さをするようなじ。

「ほら、抵抗しねえで寄越せよ、その角を」

頻りに男はそう言っていた。

ドラゴンの角。

噂には聞いたことがある。ドラゴンの角は薬だ。どんな病気でも治すことが出來ると言われている。メリューさんの話にもあった通り、ドラゴンそのものが『高級食材』として扱われている。

その擬人化した存在――ドラゴンメイドも例外ではない、ということだ。

男は、そのまま騒ぎの中心になるのが嫌だったのか、メリューさんとティアさんを強引に麻袋に詰め込んでそのまま馬車に放り込み、群衆に構うことなくどこかへ走り去っていった。

その間、俺は――何もできなかった。

何もしなかった、のではない。

怖くて何もできなかった。

ただ俺は、二人が攫われていく姿を見つめることだけしか、できなかった。

追いかけなくてはならない。助けなくてはならない。頭ではそう考えていても、行で示すことが出來ない。そもそも俺は生の人間だ。ああいう盜賊に立ち向かうことが出來るのだろうか?

考えれば考えるほど、ネガティブなことで思考が埋め盡くされていくのだった。

「おい、何をしている。そこの年!」

だが、希はあった。

こんな絶的狀況でも、一縷の希はあった。

その聲を聴いてざわつき始める群衆。當然だ。その聲が誰かなんて、この國の人間ならば一発でわかることだろう。そして俺もそれを聴いて――思わずそちらの方を向いていた。

そこに立っていたのはパステルブルーのドレスにを包んだだった。

そう。そこに居たのは、この國の王でドラゴンメイド喫茶『ボルケイノ』の常連客、ミルシア王陛下だった。

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