《(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~》竜人≪ドラゴンメイド≫の宿命・結
メリューさんとティアさんは、そのあとすぐとある倉庫にて発見された。
大きなけがもなく心配して損をした――というのは々言い過ぎかもしれない。
だが、俺が気になったのはメリューさんが見つかった、その場所。その様子だった。
「メリューさん、ほんとうに覚えていないんですか?」
俺は開店準備中で何かを煮込んでいる最中のメリューさんに問いかける。
「何が?」
「だから、言ったじゃないですか」
そう前置きして、俺は疑問を告げた。
「――どうして俺たちが到著したとき、あの部屋は真っ赤に染まっていたんですか」
それが俺とミルシア王陛下の謎だった。
メリューさんは眠っていた。ティアさんは別の部屋にいた。
そして二人を捕まえたであろう賊は、その部屋でが分散していた。もはや人間の死ではなく、ミンチと化していた。記憶に殘るとトラウマになる、ということでミルシア王陛下が魔法を使ってそれを軽減してくれたものの、それでもたまに思い出す。こうやって自分で言ったときが一番思い出す。だが、疑問を解決するためには致し方ない。
メリューさんは鍋の中をおたまで掻き回しながら、
「そんなことを言われてもなあ……。全然覚えていないのだよ。何があったか、というのは。だから忘れてしまった、というよりもほんとうに私が眠っているうちにあったのだろうな。名前も言わずに私たちを救った、いわばヒーローみたいな存在が居た……ということでいいではないか。結果として、私たちは助かった。これ以上、何を語ることがある。別に問題ないだろ?」
「ええ、私もその意見に同調します」
そう言ったのはティアさんだった。ティアさんはカウンターでずっと分厚い本を読んでいたが、視線をかさないままメリューさんの言葉に続けて言った。
「確かにいくつか不明瞭な點はあったでしょう。けれど、それを穿り返して何の意味があるのでしょうか? 私はそれについて、何の意味もないと思いますが」
「おっ。珍しく推すね、ティア。いいぞ、言っちゃえ」
「メリューは黙っていてください」
ぴしゃり、と言われて黙るメリューさん。
「……まあ、そうかもしれないけれど。気になってしまうのが人間の、ってものでさ。だからし訊ねてみた、ってだけ。解ったよ、これ以上は詮索しない。それでいいでしょう? ミルシア王陛下にもそう伝えておくよ」
「そうしていただくと、助かります」
ティアさんはぺこり、と頭を下げると再び本を読む作業に移った。
そうは言われたけれど、やはり気になってしまう。
まみれの部屋。無事だったメリューさん。
ただ気になったのは――メリューさんの手枷足枷は既に外されていたにも関わらず、ティアさんのそれは外されていなかったということ。
仮にヒーローとやらが倒したとしても、ティアさんに気づかずメリューさんの手枷足枷だけを外すことは考えられるのだろうか?
いや、考えられない。そんなヒーローは見たことが無い。
だとすれば、いったい――。
だが、そこで考えがまとまるわけもない。俺はひとまずその考えを頭の片隅に置いて、開店準備の作業に移った。
――因みに俺がその意味を知ることになるのは、しだけ後の話になる。
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