《(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~》急転直下のミルクティ・後編

カウンターに橫並び。

三人が揃って、カレーチャーハンを目の前に待っていた。

メリューさんがティアさんと俺を見て、頷く。

「それじゃ! 食べることにしようか、いただきます!」

両手を合わせ、メリューさんは頭を下げた。

俺はそれに合わせるように、同じくいただきます、と言った。

目の前にあるカレーチャーハンは、今も鼻腔を擽っている。

スプーンを使い、一口頬張る。すぐに口の中にカレーの香りが広がる。チャーハンの中に埋もれている、ニンジン、ジャガイモもアクセントとしていいじだ。普通のチャーハンならばご飯と目立たないように微塵切り、あるいは小さく細かく切られているものだが、カレーチャーハンは違う。カレーソースをそのまま使用しているためか、材の大きさがカレーのそれとイコールなのだ。

「……ほんとう、ケイタ、あんたはうまそうに食事を食べるよ。作り甲斐があるってものだ」

メリューさんがそう言ったのでそちらを向くと、メリューさんは俺のほうを見て笑みを浮かべていた。

「な、何か顔についていますか?」

「まあ、ついていないことはないけれど」

そう言ってメリューさんは俺の頬に手をばした。

そして何かを取り、それを俺に見せつける。

それはご飯粒だった。カレーの金に染まっているそれは、まさしく俺が食べていたカレーチャーハンのそれだった。

すると、メリューさんはそれを口にれた。

というか、食べた。

そしてメリューさんは笑っていた。

「……さて、食べようかしらね!」

そう言ってメリューさんはもとに戻ると、カレーチャーハンにスプーンをれていく。

俺はそれを見て、ただ何も言えなかったが――すぐに戻って、またカレーチャーハンを食べ始めた。

カレーチャーハンを食べ終わり、皿を洗って、服を普段著に著替える。

時間は午後九時過ぎ。今から家に帰れば、まあ、そんな時間にはならないだろう。そう思って、俺はカバンを持って外に出ようとした。

「あ、ケイタ! ちょっと待ちなさい!」

メリューさんの言葉を聞いて、俺は振り返る。

メリューさんは何かを持っていた。それは手ぬぐいに包まれた何かだった。紫のそれには箱がくるまれているようだった。

「……これは?」

「余っていたから、持って帰りなさい。ここに置いとくと捨てちゃうだけだから」

「ありがとうございます」

軽く頭を下げて、その包みをカバンに仕舞った。

そして俺はボルケイノの扉を開ける。

「それじゃ、お疲れさまでした。また明日」

「お疲れさま」

メリューさんの言葉を背に、俺はボルケイノを後にした。

◇◇◇

次の日。

いつものようにボルケイノのある場所へと到著した俺は、違和に気づいた。

「……おかしいな。どうしてだろう?」

いつもの時間ならそこに存在しているはずの――ボルケイノへと続く扉がなかった。

あるのはただ壁だけ。なぜか、扉は存在しなかった。

「どういうことだよ……」

実は、俺は急いでいた。

なぜか?

それは単純明快――メリューさんが渡してくれた箱にはクッキーがっていた。昨日の午後とは違い、キャラメルがったクッキーだ。まあ、それは別にどうだっていい。味も味しかったし。

気になったのは箱についていた押し花だ。その花は中央が黃で、周辺に紫の五つの花びらがある、とても可憐で可らしい花だった。妹いわく、その花はワスレナグサというらしい。

――花言葉は、『私を忘れないで』。

その花言葉が、どうも引っかかった。

まるで、メリューさんが、どこかに居なくなってしまうのではないか。そう思ったからだ。

予想通り、ボルケイノの扉はなかった。

壁しかなかった。

不安で、不安で、仕方がなかった。

もう二度と、ボルケイノに行けないのではないか――そう思った。

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