《(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~》新メンバーの一日・後編

「いい? きちんと見ていなさい?」

そうしてメリューさんは紅茶を注ぎ始める。

それはゆっくりと、それでいてあまり音を立てていない。

「メリューさん……」

「いいの。これで」

ホットケーキが冷めてしまう!

私はそんなことを考えたけれど、これ以上メリューさんのことを怒らせるわけにもいかない。そう思った私は何も言わなかった。

「……あなた、ホットケーキが冷めるから、あるいはホットケーキを早く食べたいから紅茶を急いで注ごうとしたでしょう?」

目が丸になった。

どうしてメリューさんはそんなことが解ったのだろうか。

「見て解るわよ。急いでやっているんだもの。それで溢してみなさい。片付けが大変。……今は従業員だけだからそれだけで済むかもしれないけれど、問題はお客さんが居る狀態でそれをやらかしたら……どうなるかしら? お客さんはここに一時の平穏を求めてやってきているのよ。その平穏を、一瞬でも奪ってはいけない。だから、私は正してほしい。そう思って、あなたにこれを教えているだけ。だから、次回からは……ね?」

「は、はい!」

メリューさんのウインクを見て、なぜかドキッとが高鳴った私。

なぜだろう……? この気持ち、もしかして……?

いいや、そんなことはないと思う。私は何とかその気持ちを振り払って、きれいに注がれたティーカップをソーサーに乗せてカウンターに置いた。

ミルクを注いだポッドとシュガーポッドも忘れずに。まあ、後者は常にカウンターに置いてあるからいいのだけれど。

「それじゃ、味しいティータイムとしましょうかね。ちょっと早いかもしれないけれど」

「はい!」

そうして私たちはティータイムを始める。

ホットケーキはほんとうにおいしかった。焼き加減もちょうどいいじで外はサクサク、中はフワフワというじになっている。それに蜂とホットケーキの熱で溶けたアイスクリームがうまく混ざり合って染み込んだ味が、口の中でけていく。

メリューさんは凄い。

まだ長い期間ここに居たわけじゃないけれど、それが日に日に犇々と伝わってくる。

私もまだまだ頑張らないと! なくとも、ケイタと同じくらいには!

そう目標を立てた私は心の中でガッツポーズして、もう一切れホットケーキを口にれるのだった。

「そんな、肩に力をれなくてもいいよ?」

ホットケーキを食べたタイミングでメリューさんは私に言った。

さらにメリューさんの話は続く。

「人はいつだって失敗する。そりゃ最初の時は慣れないことが多いから、なおさら失敗は増えるよ。それを気まずいとか苦しいとか思っちゃダメ、ってこと。これが大事。それをいかに次に繋げるか、それが大事なんだから」

その言葉は、別にボルケイノの仕事にかかわった話じゃない。普段の日常生活においても役立つ言葉だった。

る程。確かにあまり考えたことはなかった。失敗しないように、と気張りしていたから……。

「だから、困ったことがあったらすぐ私かケイタに相談しなさい。もしケイタに言いづらいことがあれば私に言ってもいいから。忙しいときはさすがに対処出來ないかもしれないけれどね」

「はい。ありがとうございます!」

こんな調子で、私とメリューさんのティータイムは過ぎていく。

これが私の一日。ボルケイノで働いていく上で起きた、小さな出來事の一つ。

こうして私は今日も、ボルケイノで頑張って働いていくのだった。

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