俺はいつの間に、とメリューさんの登場に驚いていたが當の本人はそれを気にすることなく、

「このお店はひっそりとやっていくことが一番ですからね。それも、もし可能であれば理解していただきたかった。このお店が満員になって、ることができない……なんてことは出來ればしたくないの。せっかく來てもらったのに、満員だから待ってもらう？　そんなこと、させたくない」

「……る程ね。道理は通っているわ」

先に折れたのはミルシア王陛下だった。立ち上がり、お金を二人分きっちり置いておくと、そのまま踵を返した。

「料理、味しかったわ。今回のこと、もし気分を悪くしたのならごめんなさいね」

「あ、待ってください！　……とっても味しかったです。また、客としてきていいですか？」

「ええ。お客さんならばまた何度來ても構わない」

そう言うと、アルターさんは笑みを浮かべて頷き、そうして頭を下げた。

「ありがとう。それでは、またいつか。今日はありがとうございました」

踵を返すと、ミルシア王陛下を追いかけるように小走りに去っていった。

それを見送っていたメリューさんは扉が閉まるのを確認して、溜息を吐いた。恐らく、メリューさんなりに落ち著けるタイミングになった――ということなのだろう。

「ふう、慣れないものはすることではないね。それにしても、新聞の取材……か。今回、斷ったことであの記者が新聞社で変なことを言われなければいいけれどね」

「……メリューさんも人のことを考えるんですね」

「なんだそれ、まるで私が何も考えていないような言いぐさだな。私だってしは考えているぞ。それに、私は報道されたくなかったことも事実だ」

そこだ。

どうしてメリューさんは報道されたくない――そういったのだろうか。いや、メリューさんの言ったことも道理として繋がっているのだけれど、とはいえそれを道理としてけ取るほど馬鹿じゃない。きっと何か裏があるに違いないのだ。

「……別に私としてはこの店が発展してもらうことは全然問題ないのだけれどね。ただ、やはり常連がたくさんいることからこの店が立しているということもある。それを無礙には出來ないのだよ」

メリューさんはそう言って片づけを開始すべく、廚房へと戻っていった。

いつ新しいお客さんがやってくるか解らないので、そのための準備――ということだ。

俺もそろそろ準備しないといけないな、そう思って俺は皿を洗うべく蛇口をひねった。

◇◇◇

「……あっさり追い出されちゃいました」

「まあ、仕方ないことよ。結局、メリューが納得してくれるとは思えなかった。あれはあくまでも當たって砕けろ的な作戦だったからね」

「……それにしても、王陛下は余程あの店に取りっているのですね？」

「それは當然よ。あのお店には……」

「……？」

アルターはそれを聞いて首をかしげる。

ししてミルシア王陛下は首を振り、笑みを浮かべる。

「なんでもないわ。……さて、あなたの仕事をこのままなくした狀態なのはまずいわね。とりあえず、別の店を紹介しましょうか。殘念ながら、ボルケイノに比べればダメなのかもしれないけれど」

「いえ。王陛下の行く場所ならばどことでも！」

そうして二人は町中へと消えていく。

ミルシア王陛下の楽しそうな笑顔を見ながら、彼たちとすれ違う人々も笑みを浮かべたが、それに彼たちが気づくことはなかった。