曹司の召使はかく語りき》8話 勉強會のお供

主である星城哉様は、忘れがちだが大學生である。つまり、學生だ。學生の本分は何か?――勉強である。

最近は授業が詰められているのか、朝から夕方まできっちりと大學で講義をけている様子。講義中は子に囲まれるということはないらしいが、講義が終わり休み時間になるたびに、主と近づきたい子あるいは男子が、哉様を取り囲むとのこと。ちなみにソースは昴様だ。ご自分も囲まれているだろうに、さすがは天下のプレイボーイは違う。

楽しんでいるようで何よりだ。そのついでに我が主にまとわりつくお嬢様方を連れて行ってくれないものだろうか、しわ寄せは私に來るのである。

今日も今日とて、眉間に皺を寄せながら帰ってきた主にコーヒーを差し出した。香り高いコーヒーの香りは、しでも主の神を癒してくれるはずだ。

「お疲れさまでございます。甘いものをご用意いたしましょうか?」

「いや、いらん。ところでナギ、お前今日は何をしていた?」

哉様をお見送りした後、執事さんのお仕事をお手伝いしました。そのあとは料理長にお菓子作りを手伝わせていただき、そのあと哉様の課題を」

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「ほう、課題を?」

「終わらせました」

「全部か?」

「は…、イエ、まだし殘っております」

「そうか、なら持っておいで、ナギ。俺も課題が殘っているからな」

ふん、と偉そうに笑う主。簡単に訳すと、一人で課題をやるのはつまらないからお前も一緒にやれ、というところだ。

本當に、だから、大學が平穏であるなら課題くらい大學の図書館などで済ませてくるだろうに大學に平穏がないので家でせざるを得ないのだ哉様は。そして、意外と一人でやりたくない質の主は、こうなると毎回私を呼び出す。

――ちなみに、私の今日の分の課題はすべて終了している。明日の分を前倒しでやればいいのだが、明日の分をやってしまうと私の明日のやることが減ってしまう。人間には、やっていい仕事の量というものが決まっているのだ。仕事をしたらしただけいいというものではないと思う。

しかし、私はしがない召使のであるので、哉様の言う通りにするのである。

私はすごすごと哉様の部屋を出て、オリーブのメイド服の裾を翻しながら歩く。今日のメイド服は、部にふんだんにフリルがあしらわれているものであるが、私はもうしシンプルなものが好きである。だが最近の哉様は私にフリルを著せるのがブームのようで、渡されるものはクラシカルなものにフリルが多い。フリルの部分を手で引っ張りながら、自分の部屋まで戻って哉様から出されている課題を手にする。

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課題は、哉様から「○日で終わらせるように」とだいたい一週間で終わるだろう量を渡されている。

それを大の目安で一日量ずつに分けて私は課題を終わらせているのだが、これで私のペースが崩れてしまった。私は決めた分量を決めた日にやりたい質なので、コレはちょっとしたストレスだ。

ふう、とため息を吐きながら哉様の元へと戻る。――ところで、召使と一緒に課題をする主が一どこにいるというのだろうか。

「お待たせいたしました」

「お、ナギ來たな!」

「藤賀さま?」

哉兄さんと勉強會だっていうから、俺も混ぜてもらおうと思って」

ナギもちゃんと勉強してて偉いな!と藤賀様は私の頭をがしがしとでまわした。この方は、私の事を小學生か何かと勘違いしている節がある。語弊の容に言っておくが私の年齢は、16歳だ。藤賀様とは1つしか違いがないのである。

恐れります、と一歩離れようとしたが、藤賀様の手は離れない。まるで犬の様にワシワシと頭をで繰り回されるのを、私は耐えるよりほかないのであった。

「じゃれてないでそろそろ始めるぞ」

「藤賀様もお勉強を?」

「ああ、明日テストなんだよなあ」

「お勉強の必要があるのですか」

「ま、復習程度にね」

星城の人間は、馬鹿じゃないかと思うほどに出來がいいのだ。ちなみにこれ、譽め言葉である。決してけなしているわけでは。

哉様の部屋の真ん中に置かれたテーブルを挾むようにソファが二対置かれている。一つに私と哉様が座り、私の向かいに藤賀様が座った。

眼鏡をかけて難しい書を開きながらパソコンで文章を打っている哉様、參考書を開きつつ私の手元を見ている藤賀様、メイド服のまま數學の問題を解き始める私。この空間で何も考えてはいけないのだ。主の命令は絶対である。そもそも使用人と主が同じ部屋で座るのがおかしいとか、課題を主のご兄弟に教えてもらうなんて恐れ多いとか、そんな些細なことは突っ込んではいけないのだ。私はもう諦めている。

「ナギ、そこ違う。公式はコレ」

「ああ…なるほど、ありがとうございます」

「…計算ミスが多いな。ナギ、數が違う」

「ああ、本當ですね」

所で、二人ともご自分の勉強はいいのですか、なんて言ってはいけないのだ。

私の方を見ながら自分たちに課題あるいは勉強を終わらせることくらい、この方たちには栓のないこと。私はとりあえず、與えられる知識をにつければいいのだ。この方たちの心配は、必要ない。自分の事が出來てなお、私という召使に構っているのだから。

うんうんと唸って終わらせた問題に、藤賀様が指で丸を作ってくれた。どうやらあっているらしい。ちょっとだけ得意になった私は問題に取り掛かる。哉様はカタカタと迷いないペースで文章を作っていた。たまに、テーブルに乗せられている私の大好きなチョコレートを食べさせてくれるので手がびてきたら口を開けるという簡単な仕事も忘れずに。

――今の私は、課題をして藤賀様の世話焼き心を満たし、かつ哉様の餌付けに対応するというのが、仕事なのだ。

哉、ナギちゃんいるー?」

「昴、ノックはどうした」

「あ、ごめんって」

ばたん、とドアを勢いよく開けて軽い口調で樫木昴様がってくる。ちょうど私は哉様によってチョコレートを口に突っ込まれたところだったので挨拶ができなかった。もごもごと口をかして、飲み込んでから挨拶をする。なんだか微笑ましいものを見たかのような目で見られてしまったのが憾である。

お土産だよ、と抱えていた包みを渡されたので、解きかけの問題を置いておいて私は包みを持ちながら哉様を見た。眼鏡越しにこちらを見た哉様は、軽く頷いた。開けてもいいという事らしい。有難く頂戴して、包みを開いた。

昴様は藤賀様の隣に腰掛けている。

「これは、老舗の…?」

「この前食べたいって言ってたでしょ?ちょうど手にったから持ってきたよ」

「ありがとうございます、昴様!うれしいです」

前々から食べたいと思っていた、老舗和菓子屋が開発したという和と洋のコラボレーション。餅にチョコレートと餡をくるみ、鮮やかな寒天で包まれている。絶妙な甘さと、らかくありながらもっちりとした餅に、中に包まれた餡子とチョコレートガナッシュの風味かさのハーモニーが絶品だと評判なのである。値段がいいので一般庶民には手が屆かないのに加え、人気すぎて手にらないというそれはすべて手作業で作られるため予約して出ないと食べられないと噂だったのである。それが今、私の目の前にある。なんという奇跡。自分の目が輝いている気がしないでもない。現に、藤賀様はどこか呆れたように私を見ていた。

しょうがないのである、味しいものは正義だ。わくわくと見つめていれば、哉様が頬をつねってきた。痛い。

「…食いにつられて拐されそうだな」

「そこまでではありません。もらう方は選んでおります」

「ふん。食べるなら食べてしまえよ、日持ちしないんだろう」

「せっかくですから、休憩にいたしましょう。お茶を用意いたします」

今日は玉を用意した。ご相伴にあずかれるなんて、栄である。飲んでいいと主が言ったので、コレは飲むしかないのである。私の舌は著実にえているので、星城家で一生お世話にならなければ。きっと、今の生活意外に私ができる生活はない。

味しいお茶と味しいお菓子を頬張れば、自然と頬が緩む。噂にたがわず、大変味だった。またいつか食べたいものである。

にやにやしていれば、哉様が一口でいいから、とし食べて殘りをくれた。私はそれを有難く頂戴する。昴様も家にあるから、とのことでくださったので明日のお菓子に取っておくことにした。味しいものは早いうちに、味しいうちに食べなければいけないのだ。

藤賀様まで半分くださったので、私は平伏しながらけ取った。無理矢理課題をやらされているが、哉様にもらったチョコレートも昴様のお菓子も味しかったので、プライスレス。

私がお菓子を食べているときに、全員がなんだか生ぬるいというか、を見るような目で見てきていたというのは気のせいだと思うことにする。

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