曹司の召使はかく語りき》9話 お使いと絡まれる話

――ナギ、頼む。

という哉様の鶴の一聲で、正午過ぎに私は雑用と買いへと出かけることとなった。

さすがに現代日本においてメイド服で買いというのは不審者以外の何でもなく、職務質問をされたら強行突破の末に公務執行妨害などという不名譽なものをつけられて署まで連行されてはたまったものではありませんと言い募ったところ、不承不承と言ったところではあったが服を著替えて外に出してもらえることになった。哉様は私にも恥心があるということをわかってほしい。大衆の視線というのは、慣れることのできるではない。

買いの間、私はスーツを著せられて(大変憾なことに、スーツに著られている狀態である)出歩くことになった。首からは星城の家のである証をぶら下げているので、見る人が見ればわかる。まるで迷子になった時用の分証明書を渡されているようでし不満だ。

私はそんな応酬を主と繰り返したのち、私は意気揚々と星城の家を出るべく星城の使用人専用出口へと向かう。使用人出口は、主たちが出はいりするところとは反対側にある。すれちがう他の使用人さんたちに挨拶をしながら私は廊下を歩いた。

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お使いの容は、主が注文してある商品を骨董品やに取りに行くこと、星城家用達の和菓子屋で茶菓子を買う事、郵便局に哉様から預かった手紙を投函すること、である。

「お使いに出掛けてまいります」

「ああ、ナギちゃん。気を付けてね」

執事さんがちょうど使用人専用出口にいたので、私はそう聲をかけた。

私がここに來てから、全く歳をとっていないようにじさせる執事さん(彼はどうも、他の家の使用人にも人気である。溫和で優しく腰もらかな紳士だからだろうか)は、にっこりと笑って私を見送ってくれる。スーツ姿を、譽められた。し嬉しい。

私が召使になったのは11才の時であるが、私が哉様の召使としてある程度の合格をもらい、哉様のこまごまとした雑用をしていたある日、一番最初にお使いに行くようにと哉様に任された時は、大変だった。――別に、仕事自は大したことではないのだ。問題は、周りがうるさかったことくらいで。

まず、哉様は自分が頼んだくせに、一人で行かせるのは不安だと誰かをつけようとした。頼んだ手前自分で行くということはしないと言っていたが、明らかに目が私が迷子になり帰ってこなくなる未來を見ていた。馬鹿にされたものである、はじめてのお使いくらい施設にいた時期に済ませているというのに。

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そして奧様と旦那様がちょうどいたものだから、それはもうしっかりと言い含められた。

1・知らない人にはついていかないこと。2・道を聞かれても答えない。と、そこまで言い含めて、やっぱり一人じゃ不安だから執事、お前もついていきなさい。と言った。執事さんは、にこりと笑って玄関に歩き出そうとしたのを、私は白い目で見ていた。

――心配してくれるのは、有難いのだが。私は一般庶民の、それも下の方の出なので、別に拐されるほど可いわけでもなく、哉様が私に示した道は比較的大通りである。対して利用価値もないような小娘、連れ去っても意味がないのだ。

見かねた東輝様が、私の顔が大変不服そうだというのにも気づいたうえで、ご自分の家族や使用人たちを宥めてくれた。いずれは一人で行くこともあるのだから、と。その時に私は東輝様への好度がますます上がったのだが、こっそりと渡されたGPS付の攜帯電話に首から防犯ブザー(一度反応すると、星城のセキュリティシステムに連してどこで何が起きたのか瞬時に分かるようになっているものだったらしい)をかけられ、私の目線の高さにしゃがんだ上で、十分に気を付けて怪我のないように、と言った段階で私の中で上がった好度は地に落ちた。

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そのあと諦めた私は哉様から任された仕事(といっても、ただ注文してあるものを取りに行ってほしいとかいうそれくらいの用事だ)を無心でこなした。持たされたブザーも攜帯電話もすべて肩から下げたポシェットに押し込んで、ついでに後ろから突き刺さる視線にも気付かなかったふりをした。のだが、ちらり、と見えた後ろではにこにこといい笑顔を浮かべた執事さんがたって気が付いた私を譽めるように近づいてきたので、私は力したのである。――諦めて、執事さんと手をつないでアイスクリームを買ってもらった。高級なアイスのお味は、大変味で私の機嫌が上昇した、ということだけ記しておく。

あの當時、30歳を過ぎたあたりの執事さん(彼は昔から執事だった)と手をつなぐ、メイド服のという図はいかがなものだろうか、と思わないでもない。あれから私は、結構な頻度で執事さんと買いに行っているが、毎回味しいおやつをごちそうになっているので、どこでそんな報を手にれてくるのか知りたい。

そんな昔の思い出におもいはせながら、私はさっさと用事を終わらせていった。早く帰らねば、お茶の時間を過ぎてしまう。今日のお茶の時間は東輝様、藤賀様、昴様も一緒に過ごされるとのことでお茶菓子も特別なのだ。もちろん、星城家の料理人たちがつくるものも味しいが、今日は家族が全員で夕食をとるということで、夕食に全力を注いでいる。

和菓子屋さんでおすすめを購し、郵便局にもよって私はさっさと歩いた。もうしで星城の使用人出口にる、と思った時に、私の橫にロールスロイスが止まり、窓から顔を出したの聲に私は呼び留められた。

「ちょっと、そこの。お前よ、お前」

「…私でございましょうか」

「ええ、お前よ。あなた、星城さまの使用人かしら」

心でげえ、と思いながら、私はそうでございます、と返した。高飛車な言い、典型的な私が一番偉いと思っているお嬢様。権力は、確かにあるのだろうけれど。蝶よ花よと育てられたからか、自分を害するものは居ないと思っている節があるのだ、こういう方は。そして自分の想い通りになって當たり前だとも思っている。それはまあ、彼たちの家でのルールであって、世間一般の常識ではないのだが。

――お使いは、星城の家にるまでがお使いである。私はもうしでお使い達という稱號を得られるにもかかわらず、変な人に絡まれてしまった。

ロールスロイスから降り立ったのは、藤賀様の通う學校と同じ制服のだ。東輝様も通い、哉様も今は大學に通っているそこは稚舎から大學まで一貫教育のけれれる場所。私立・白桜學園は、両家の子供たちが通う名門である。ということは彼もそれに連なるのだろう。

クリームのブレザー、赤いリボン、紺のプリーツスカート。全てが良い素材でできているとわかる。だがしかし、使用人に特攻を仕掛けるとは、このお嬢様は脳が足りないのだろう。――いくら、両家の子だと言っても。

ここは星城の敷地であり、彼はそこに特に承諾を得るわけでもなくってきてしまった。そして私は、今主の仕事をこなしている最中である。こういうところを、藤賀様と哉様がみたらどう思うかというのをこの目の前のは慮るべきだ。ちなみに、割と星城の參兄弟は理想がエベレスト級に高いので、この行いはマイナスを通り越して海底に沈むだろう。あの方たち、結婚できない気がしてしょうがない。

「今日、東輝様がいらっしゃると聞いたわ。彼に一目お會いしたくて」

「…お約束がおありでしょうか?」

「いいえ、でも、お前は使用人なのでしょう?私を一緒に連れていきなさい」

「申し訳ありませんが、お約束のない方を星城の家にあげるな、と命じられておりますので」

「まあ、私のいう事が聞けないというの?私を誰だと思っているのよ、使用人風が偉そうに」

車の中の運転手だか、使用人だかは、このお嬢様を止めなくていいのだろうか。こんな風に馬鹿みたいに騒いでいると、良いことなどないのだが。

星城家は、招かれたものしかれない。というのは暗黙の了解だ。や親しい仲で許されているであれば問題ないが、それ以外は家にるには星城家の人間の招待が必要だ。強行突破という愚行は、を亡ぼすといっても過言ではない。――なんせ、星城家は當代隨一の、お家柄。

「私は主の命に従います。その主が、お許しにならないことは私も従えません」

「…お前のことは知っているのよ、施設育ちの、庶民のくせに!貴方がいるせいで、東輝様も、哉様も、星城家の品位が落ちるわ」

「失禮ですが、お嬢様。私のようなモノを一人置いたくらいで、落ちてしまう品位など、星城家にはありません。主の品位はそれくらいでは落ちません」

私の主が、私がいたくらいで落ちぶれるような人間であるなら、私が召使として仕えられるわけがない。私は、一応、星城の家の人たちに認められたからそこにいるのだから。

「當たり前だ。お前は俺が育てた召使だからな」

「…哉様、いつからそちらに」

「ああ、最初から居た」

ふん、と皮気に笑った主が出てきた。私が帰ってくるのを待っていたのだというのなら、私が絡まれたあたりで助けてくれてもいいのに。

そう思いながら、私は主がお嬢様の方に近寄ってきたので端によけた。斜め後ろ、いつものポジションに立つ。

「白桜の生徒が、落ちたものだな。約束を取り付けてから俺の召使に難癖をつけてもらおうか。それと、君は白鷺家のご令嬢だったか――、まあどれだけ偉かろうが権力があろうが、星城の下に準ずる家であるということを忘れるな。

君のその言一つが白鷺家の品位を落としているということも。ここがどこだかわかっているか?そして、コレは俺の召使で、俺の所有だ。俺の所有を貶めたということは、俺を貶したという事と心得ろ」

朗々と語ったその聲は、面白がるような響きを持ったままご令嬢を打つ。対して怒っていなかっただろうに、ここまで言えるとはと思いながら私はそろそろ腕に食い込んでいたい荷を抱えなおした。

ご令嬢は真っ青な顔でふらふらと車に乗り込み、主はすっきりとした表で使用人出口から屋敷へろうとしている。――どうも、自分の持ちを貶されたことと、ああいうはた迷なお嬢様が跡取りであり大事な家族に取りろうとしたのが気にらなかったようだ。

なんだかんだ言って、星城の人たちは家族思いというか、家族への比重が重い傾向にあるので當たり前なのだが。

「ところで哉様、どうしてあそこにいらしたのでしょう」

「あれだけの仕事の割に、時間がかかったからな」

「ご心配をおかけしたようで、申し訳ありません。それから、ありがとうございました。あのままではキャットファイトに突してしまいそうでしたし」

「そうなる前にお前なら回避するだろうが。それに、最初の時の様に、執事と帰ってこなかった點はほめてやる」

「お言葉ですが、私が頼んだわけではありません」

最初のお使いの時は、旦那様が急にお休みを執事さんに與えたので、手持無沙汰の執事さんがつい私についてきてしまったというだけで、私は悪くないのに。――どうも主、最初のお使いで私と執事さんが手をつないで帰ってきたことをまだにに持っているのだ。

「…まあいい。兄貴も藤賀も広間にいる、お前は著替えてから來い」

「かしこまりました」

大人しく荷を使用人さんたちに託して私は部屋へと向かう。

まあ、たしかに。いつも來ているメイド服でないというのは、調子が狂うものだ。

それと、あの時に哉様が出てきてくれてちょっとほっとしたのは緒である。

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