《曹司の召使はかく語りき》閑話 曹司はかく語りき
星城、というのが俺が生まれた家である。俺はそこの次男として生をけ、そして小さなころから星城家のお坊ちゃまとして育てられた。
星城グループだとか星城家とか呼ばれている我が家は――、當代隨一の権力を企業誇るの一つであり、そこの子供である俺や兄貴、弟の藤賀は確かに金持ちの子供だったが、いずれは星城を背負う人間として育てられた。
決して権力に奢ることのないように、冷靜に冷徹に取捨選択ができるように、俺たち三兄弟は家族と同じくらい星城の家の重さを持たされながら育ってきたのだ。
家族仲は、良い方だ。両親は仲が良く、兄弟中も良好。けれど俺はそれだけでは満足できなかった。親しい友人たちもいたし、関係も引く手あまただったから不自由しない。
それでも、俺は“星城哉”自に仕える者がしかった。俺の仕事を手伝わなくてもいい、ただしだけ気を許せて、息抜きやこまごまとした雑用をこなせる専屬がしい、と思っていた。
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だからこそ、俺はそういう人材を探していた。とびきり優秀でなくてもいいから、俺に忠誠を誓える人間を。
――そして、見つけたのだ。慈善事業の一環で訪れる予定の施設に、ふらりと立ち寄った際に、俺は“みなぎ”に會った。
施設長の部屋へと向かっている、Tシャツに短パン、顔は可いと稱されるの子。彼は俺の視線に気づいたように後ろを振り向き、じっと目を見つめてきた。警戒でも嫌悪でもなく、ただの視線が俺を見て、こびへつらうでもないその姿勢に好を持った。
そして俺は、決めたのだ。これにしよう、と。
別に何が良かったわけでもない、彼が使えても使えなくても、ペットの様に可がれるだろうという打算の元で俺は彼に話を持ち掛けた。
小學生の、それも一般のにする話ではなかっただろうが、彼は頷いた。
そして俺は施設に金を払い、彼を貰いけ、そして俺の召使を作り上げたのだ。ナギは思っていた以上に優秀で、言われたことはこなしたし、知識もに著けた。何より、星城哉に仕えている、という意識があるのがいい。俺はこういう存在をしかったのだ。星城グループの使用人、ではなく、星城哉の使用人、という存在。
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俺は別に、ナギを的な対象に見ているわけでもなければ、將來の伴にしたいわけでもない。いずれ結婚するにしても、俺は星城の名を名乗る以上はある程度の人間と結婚をしなければならないだろうし、するつもりだ。
――きっと、唯一の味方がしかったのかもしれない。それか、玩が。ペットはいずれ死ぬが、人間ならば、召使ならば傍においても不慮の事故がない限りは付き従うだろう。ナギと過ごすようになって、どちらかと言えば、玩のようなの方が上回ってきたのだが、まあいいだろう。
そもそもナギを連れて帰った時、反対をされたことがなかった。
両親は娘ができたようだと喜んで構いたがったし、兄貴は自分の世話焼き心をくすぐられたのか娘の様に世話を始めたし、藤賀は自分が一番下という存在からナギがきたことで兄としての自覚のようなモノが芽生えたのか長したように見える。
使用人たちも、ナギの躾においては厳しくしたようだが、めげずについていくナギにほだされ、ナギが歩くたびにお菓子を與えていたようだ。アイツが蟲歯になったのはあれらのせいだ。
執事は執事で、結婚をしないつもりですのでこうして娘のような妹のような存在ができて大変うれしいです、とデレデレだった。大の男が気が悪い。しかもナギに初めて一人で用事を済ませに行かせた際に、父が休憩をやったせいでナギの後をつけて二人で手をつないでアイスを食べたり散歩をして帰ってきやがった。ついでに言えば、執事の部屋にナギの長アルバムがあるというので同じものを獻上させた。一人で楽しむとは無粋なやつだ。
と、まあ、俺の拾いは好意的に歓迎され今に至る。
――ナギのどこが良かった、というのは言えないのだが、多分ナギだからよかったのだろうとは思う。現に、アレのおか星城の家にあった一本の線のようなモノはなくなった気がする。
線は、家族の中にあるものだったり、星城家と使用人の中にあるモノだったり、様々だが。潤油のようなものになっているのかも、しれない。
「そういえば、ナギちゃんって“みなぎ”ちゃん、でしょ?なんで本名で呼ばないの」
暇だから、と押しかけてきた昴は茶を飲みながらふと思い立ったかのように話しかけてきた。俺は執事から獻上させたをアルバムを見ることをやめないままに、テーブルに置かれたコーヒーを飲む。
「みなぎ、はアレの親が付けた名前だが。自分のが他の人間につけられた名前を名乗るのが気に食わないし、みなぎは呼びにくい。しかし新しく名前を付けるのも面倒だ。だから、ナギにした」
「あは、哉ってわりと親ばかなとこあるよね。ナギ――、梛の樹のナギってことかなって俺は思ってるんだけど?あれは結構いろんな意味があったよねえ。
梛の樹は熊野のご神木。神の守護を得られますように、良縁がありますように、平穏無事な人生を送れますようにとか、々意味はあるみたいだけど。そういうところも加味してつけたってことでしょ?」
「……お前に教える義理はない」
梛、という字がよぎったのは確かだが。呼びやすかったのでそれにしたのであって、決してそこまで考えたわけではない。結果的に、そうなっただけだ。
――だがまあ、そうなればいいとは思っている。
にやにやと笑う昴が鬱陶しかったのでテーブルの上のペンを投げておいた。頭に當たったそれに、痛い!と聲を上げたのでまあ、良しとする。
「まあでも、自分のつけた名前じゃないから呼びたくなかったってことだよねえ。君たちホント、相思相ってじ」
「當たり前だ。あれは俺の所有で、それをナギも了承したんだからな」
「あーはいはい。仲が良くて何よりですねー、俺もそのアルバムみたい」
「高くつくぞ」
「ナギちゃんへはちゃんと々獻上してるでしょ」
本棚に並ぶそれを勝手に手に取り見出した昴は、楽しげにそれを見ている。こいつも、遊びが激しい割に別にが好きではないという癖だからか、ペットの様にナギを構っていた。どちらかというと、お菓子を食べる姿が好きらしい。毎回何かしら菓子を持ってきてはナギの目が輝いている。アイツは表が変わらないくせに、目だけは面白いくらいによくを表す。――よく見ている人間にしか、わからない変化だが。菓子を與えれば目は輝くし、面倒だと思ったことは胡気に見ていたり、なかなかに解り易い。
今は昴が持ってきたというマンゴーとパイナップルを廚房に屆けてくると出ていった。夕飯のデザートになるのだろう。帰ってこないということは、料理長あたりに味見をさせてもらっているのか、他の人間につかまっているのか。
そう考えていた時にノックの音がして、ナギがするりとってくる。持ったトレーには、小ぶりなにゼリーがあった。
「料理長が、昴様と哉様にと。し休憩なさいませんか、ちょうど3時になりましたし」
「ありがとう、ナギちゃん。おかわりしいなあ」
「はい。――哉様は、コーヒーはいかがなさいますか」
「ああ、もらう」
まず最初に、俺が好きな味のコーヒーを覚えたことも、こうして俺に盡くすことも、當たり前なのだと言われればそれまでだが。それでも、それができたことは、俺の心を満たしたしこれからもナギが俺の所有であることには変わりがないのだ。
主であり、兄であり、先生であり、というような関係は面白いし楽しい。今後がどうなるかはわからないが、俺は星城を大切にする次くらいには、コレのことも大切に思っているので。
「ナギ、お前にこれを。昨日貰ったが、俺はいらん」
「…頂戴して、よろしいのですか?」
「俺が貰ったものを俺がどうしようと勝手だろう」
「では、ありがたく。いただきます」
昨日、付き合いでいった店でナギの好きなチョコレート菓子をもらったのを思い出して、箱を渡す。
相変わらず表に変化はないが、手にした箱を見る目は輝いていた。きっと、使用人休憩室で他の使用人たちに進めながら食べるのだろう。――もっとも、星城の使用人の中で一番年下の妹の様に見られているナギの、食べているものを増やそうとはすれども、貰って食べることはないというのはわかる。
勧めても斷られてしまう、とナギが言っていたが、あれは味しそうに食べるナギの楽しみを取りたくないという行為の裏返しである。伝わってはいない様だが。
昴が、そんな様子を見ながら笑っていたので、ナギに昴の紅茶に砂糖をティースプーンで
7杯れるように指示をしておいた。
ナギはかしこまりました、と砂糖をスプーン山盛り3杯に抑えていたが、昴がぐえ、とカエルの潰れたような聲を上げて飲み干していたので鼻で笑う。
俺は、存外、この召使との生活を気にっているし召使の事も気にっているのだ。
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