《男比が偏った歪な社會で生き抜く 〜僕はの子に振り回される》1話
誰だ「就職して結婚できたヤツは勝ち組」と言ったヤツは。
マーケティング事業の仕事は忙しく、數字のプレッシャーで神が磨耗する。ヒト・モノ・カネは出さないが、目標數値だけはご立派だ。珍しく予算をかけたマーケティング施策がコケてチーム全がお通夜狀態。クライアントからは激しく叱咤され、神的に疲れてしまった。
家庭はどうだ?
結婚して子供が生まれたら妻が冷たくなり、家に帰ってきて「ただいま」と言っても、返事はしない。一言も口をきいてくれない妻と子供がテレビを占領。夜は一人寂しく部屋にこもって、コンビニ弁當を食べる日々。
は僕からの一方通行。実ったは、時間とともに腐りきってしまった。
趣味に逃げようとしても、子供の今後を考えて貯金しているため、自由に使えるお金はほとんどない。一、何のために生きているのだろう。仕事でもプライベートでも心が落ち著き休まる場所がない。おい。これのどこが、勝ち組なんだよ。
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「責任者出てこい!」
いや、人生の責任者は僕か……そんな、愚癡とも諦めともつかない想いを抱える日々が、もっと続くと思っていた。
人生最後の日は、そろそろ子供用のクリスマスプレゼントを決めなければいけない2012年12月04日。プレゼントを選ぶの面倒という気持ちと、素敵な思い出として殘ってしいという気持ち。この両極端な想いが混在したまま、いつもの帰宅経路として使っている橫斷歩道を、スマートフォンを作しながら歩いていた。
仕事と家庭で疲れ切った僕は、注意力が低下していたんだろう。エンジンの音、暗闇を照らすライト、注意を促すクラクション。どれにも気付かず、車にはねられて宙に舞った。
俺が死ねば住宅ローンは完済されるし、生命保険があるので子供の養育費は問題ない。それにきっと彼は、誰かと再婚するだろう。
死ぬ瞬間は、僕なりに責任が取れることと頑張らなくて良いといった気持ちからくる安心に満たされていた。
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そして次の瞬間、僕は新しい日常を迎える。
自分に前世の意識があると気づいたのは、一般的に自我が芽生え始めるといわれている、3歳の頃。母親と一緒に浴槽にっている時だった。目の前には母親だと思われるのがあり、下を向くと児らしいぷっくりとした、自分のお腹が目にった。慌てようにも抱きかかえられてきが取れない狀態なので、とりあえず、上を見上げて母親を観察することにした。
母親は肩に掛かる程度の黒髪とし鋭い目つきをした日本人っぽい顔立ち。風呂場は広めだが、死ぬ前と同水準だと思われるシステムバスルーム。ちょっと裕福だが、標準的な家庭のように思える。
ふと、風呂場にある鏡で自分の姿を確認すると、黒髪だが目が青くややが白く彫りが深いように思えた。目の前のが母親だとすると、自分は白人系のハーフで恐らく父親は白人なのだろう。
そこまで考えてから、生まれてから3歳になるまでに、父親を見たことがないことに気づく。単赴任? 死別? 離婚? いくつか予想はできるが、シングルマザーの家庭で育っていることは間違いない。それでも裕福な生活ができるということは、母親は相當なやり手なのだろう。
僕は社會では使われる側だったが、母親はもしかしたら管理職かもしれない。社會でり上がって使う側に上りつめる。それもとして。自分では実現できなかったことを、母親が実現している。その事実だけで、尊敬してしまいそうになる。
「ユキちゃん、そろそろお風呂上がりましょうね」
と、ここまで推理していると母親に抱きかかえられて風呂場を出ることに。を拭いてリビングに移すると、オープンキッチンで別のが料理をしていた。これまた、広いキッチンとリビングだこと。自らの記憶を漁った限りだと、恐らくベビーシッターだろう。
「姉さんお風呂上がったの? 料理はもうすぐで完するわ」
「絵ありがとう。ユキトに服をきさせてくるね」
母さんと姉妹だったのか。確かによく見れば顔立ちが似ているように見える。
さらに狀況を把握しようとして、おぼろげな記憶の糸をたぐりよせると、母さんが仕事でいないときはずっと絵さんが一緒にいることが思い出せた。料理・洗濯・掃除といった家事全般までしてくれている。どうやら、絵さんはベビーシッター兼家政婦としてこの家に住んでいるようだ。
ここまで考えて頭が重くなってきた。この小さい頭ではこれが限界のようだ。細かいことは後から確認すればいいか。どうせ児なんだし、時間をかけてゆっくりと考えていけば良い。死んで生まれ変わったのだ、せっかく人生をやり直せるのだから慌てる必要はないだろう。
それに、日本語の読み書きは問題ない。微分積分といったものは忘れたが、小中レベルであれば読めば思い出す。しばらくの間、學力について心配することはない。他の子供に比べてアドバンテージはあるし、ゆっくりこの狀況を理解して今後について考えておこう。
晩飯はミートパスタと大のサラダ。ソースから作っていたようで、手作りの懐かしい味がした。妻との関係が悪化してからはコンビニ弁當しか食べていなかったので、食べる喜びを思い出させてくれる。完食はできたけど、自分でフォークを持って食べようとしたが、思うようにがかせず、服をミートソースまみれになってしまった。
怒ることもしないで著替えさえてくれたので、食を片付けるときに「ありがとう」と発音しようとしたが「ママありがちょ」と言ってしまった。想像していた以上にと口がかしにくい。二人揃って「かわいいー!」と言ってくれたので、問題なかったけど早めにかせるようにしたい。
前世の記憶があるので若干後ろめたい気持ちもあるが、二人ともをもって育ててくれるので、を正しく返していきたいと心から思う。
食後にテレビをつけると、のアナウンサーが英語でニュースを読み上げ、現場のレポートも英語。最初は、英語の勉強をしたいから英語のニュースを見ているのかなと思っていたが、二人とも英語を理解した上で會話を聞いているのでどうやら違うようだ。
英語は理解できないので、なんとなく映像だけにとどめていたら畫面の隅に日付を発見。今日は、2016年8月29日。記憶をよび起こすと、どうやら前日の8月28日が自分の誕生のようだ。自分が死んだ日が2012年12月04日だったので、死んですぐに生まれ変わり、3年経過して前世の記憶を取り戻したのだろう。
未來でも異世界でもないーー普通の生まれ変わりだった。
でも、家庭環境は悪くない。父親がいないだけでむしろ良い方だろう。ただ、死んでから転生までの時差がなかったので、住んでいた場所に行けば、妻や子供に會う可能もある。今更話すべきことはないけど、元気にしているか一目見たいとは思う。複雑な気持ちだだが、やはり、大きくなったら見に行くべきだろう。
就寢前には英語の絵本で読み聞かせ。児向けなので半分程度は理解できたものの、完全に理解できたとは言えない。コアラのように母親に抱きつきながら「これが英才教育か」と、謎の想を抱いたものの、こればっかりは時間かけてゆっくりと覚えるしかない。時間はまだあるし、慌てる必要もない。
その夜は、母親と一緒に布団にった。恥ずかしいが、が母親をしているみたいで非常に落ち著く。
前世で磨耗した心が、癒されていくようだ。
安心できる相手とのれ合いは、心が満たさせることを思い出させてくれる。いま、この瞬間、人生をやり直せて良かったと心から思えた。夕食のときとは違い心の中で、「ありがとう」と謝の言葉をつぶやいてから目を閉じることにした。
そして翌朝、窓からの景は高層ビル。見える範囲の文字は英語。
知ってるこの風景、テレビで見たことがある。ニューヨークだ! 転生した場所は日本だと思い込んでいたけど、実際はアメリカに住んでいたようだ。確かに周囲を注意深く観察すれば、インテリアや裝は日本風ではない。もうし思慮深い人間だったら、昨日のテレビを見ているときに気づけただろう。
數分前まで日本に住んでいた覚が殘っているので違和はあるが、これからはアメリカで生活することになりそうだ。日本語の読み書きができるから余裕と思っていたけど、そんなのアドバンテージでもなかったね。明日から英語を覚えないとダメかぁ……まずは、必死に英語を覚えるか。
3歳で記憶が戻って良かった。それとも、人してからだと英語も覚えていたのかな?
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