前世にはを守るために「専用車両」があったが、今世には男を守る「男専用車両」はない。常に、男の周りにはがいるからだ。差で車両を分けることなど無意味であり、ハーレムを持たない僕には電車での通學が認められていない。に襲われる可能があるからだ。

翌朝、海外で過ごしていたときと変わらず、絵さんが運転するセダンタイプの車に乗って、高校に向かうことになった。普段であれば雑談の一つでもするんだけど、今は會話より結婚について考えなければならないので黙っている。日本に定住することが決まったからには、早くハーレムを作って結婚しろと言われるだろう。

日本では、18歳〜23歳までにと結婚することが義務付けられている。でも、インターネットで調べた限りでは、18歳の誕生日に結婚するのが一般的のようだった。

僕が結婚するまでのタイムリミットは3年。

さすがに出會ってすぐ結婚はしたくないので、の何人かをハーレムに加えて、格を見極めてから結婚するか、別れるか、もしくは人扱いとしてハーレムの一員として維持するか、3年の間に判斷しなければならないのだろう。

そのことを考えるだけで気が重くなるけど、さらに、20歳を過ぎると國が勝手に選んだとお見合いしする義務が発生する。これは最悪なパターンだ。國が選ぶということは、國にとって都合の良いと結婚させられることと同じだ。容姿や格など選ぶことはできない。萬が一、僕と合わないタイプのが紹介された時は、前世と同じ結末を繰り返してしまうだろう。それだけは、避けたい。

ハーレムにれてお試し期間を作るのであれば、今から本格的にきださなければマズイのかもしれない。前世の覚が殘っているせいで、「結婚なんてまだ先」と思いがちで、危機は薄いけどね……。

◆◆◆

教員用の駐車場から校舎にり先頭を歩く絵さんについていき、編の説明をけるためにそのまま校長室にる。時間が早いため、誰ともすれ違わなかった。部屋にると奧には、高級そうな木製の機と本革のチェアーがある。手前には、打ち合わせ用のローテーブルと一人用ソファーが6腳。そのうち右側のソファーに50代と30代と思われるが座っていて、挨拶をするために立ち上がった。

「神山ユキトさん。初めまして。校長の中尾です。隣にいるのが、あなたの擔任になる一ノ瀬先生です。」

中尾校長は苦労が多かったのか白髪とシワが目立つが、前髪が揃ったセミロングで可らしい顔立ちをしている。一ノ瀬先生もセミロングだが、こちらはセンターで分かれていて前髪はない。

「一ノ瀬です。1年3組の擔任をしています。擔當は數學で、バドミントン部の顧問をしています。よろしくお願いします」

手を差し出されたので右手を見ると小指に指がはめられている。どこかのハーレムに所屬しているようなのでひとまず安心だ。そんな些末的な考えを中斷し、握手をしてから絵さんと僕がソファーに座った。楓さんは僕の後ろに立ち、座らないようだ。

ソファーに座ってから校長先生の手もチェックすると、左の薬指に指があった。校長先生は結婚しているのか。

「神山ユキトさん。本校への學ありがとうございます。私と一ノ瀬先生は、今日という日を楽しみにしていました。時間も限られていますので、早速、本校について説明します。本校は男共學では珍しく男が多く所屬し、現在は10名います。その中で神山さんと同じ1年生は3名です」

10名！　思わず、表に出るほど驚いてしまった。16年間で男に出會った回數は両手で數えられる程度だ。しかも、睨まれるだけで會話はなかった。基本的に男同士は不用意に近づかない。高校生活が無事に送ることができるか心配になってきたぞ……。

「ですので、各階に男用トイレ・廊下や校舎周辺には監視カメラを配置・専屬ボディーガードの待機部屋を用意しています。また、職員も既婚者もしくはハーレムに所屬している人間を採用しているので、教師が生徒を襲うことはほぼ・・ないでしょう。これも男が安心して高校生活を送ってもらうための工夫です」

「ほぼ」というところに、この世界の業の深さをじる。しかし、母さんと一緒に男用の設備が整っている高校を選んだから、これ以上をむのは難しいだろう。

「1年3組については擔當の一ノ瀬先生から説明してもらいます。よろしくお願いしますね」

事前に話す容を整理していたのだろう、一ノ瀬先生は一度頷いてから、よどみなく説明してくれた。

「本來なら、同じクラスに2名以上の男はれませんが、今回は急な編ということもあり同じクラスに男がいます。1年3組にいる男は、江藤俊介君。クラスメイト30人中21名が江藤君のハーレムに所屬しています。すでに知っていると思いますが、男が他のハーレムに所屬していると不用意に流すると、爭いの元となります。江藤君と21名のとの接は、必要最低限でお願いします」

この世界の男は、親しいが他の男と接すことに慣れていない。他の男と會話しただけでも嫉妬する場合が多い。

「分かりました。一ノ瀬先生、他に注意するべきことはありますか？」

「に襲われそうになった場合の正當防衛は認められています。護をに付けていると聞いていますので、の危険をじたら遠慮なく使ってください。編試験の結果を見る限り學力は問題なさそうなので、関係にさえ気を付けもらえれば他に注意することはありません」

はやり當面の問題は、クラスメイトとの人間関係のようだ。江藤君・ハーレムに所屬してるは、基本的に無視する方向で問題ないだろう。向こうもそうするはずだ。問題は、フリーのたちへの扱いだが、どのような関係を作っていくか未だに悩んでいた。

その他、細かい校設備の説明を聞いたあと絵さんと楓さんと別れ、1年3組のドアの前まで移した。一ノ瀬先生は先にクラスにり、室の合図を待っている狀態だ。この時間は、転校を何度経験しても慣れない。

「ーーそれでは、新しい転生を紹介します。神山君、ってください」

室の許可が下りたので、ドアをスライドして開けてクラスにる。教室にった瞬間にクラスメイトのが自分を見る。男を獲のように見る視線だ。一ノ瀬先生の隣に移する姿を、すべてのきを、監視するような視線だ。これだけは、どこの國に行こうが変わらない。腕に何もつけていないので、ハーレムがいないことも気づいたはずだ。

「初めまして。神山ユキトです。趣味は、料理と読書です。ここは図書館の本が充実しているので楽しみにしています。また、海外生活が長かったため、文化の違いで々とご迷をおかけすることがあるかもしれませんが宜しくお願いします」

本だけがこの世界を忘れさせてくれる唯一の方法だったので、前世に比べて本を読むようになった。趣味と言っても良いだろう。

「チッ」

挨拶が終わった瞬間に舌打ちが聞こえた。音がする方を見ると、窓際の一番後ろに座り、眉間にしわを寄せて睨みつけている江藤君と見ると目が合ってしまった。髪型は、一ノ瀬先生と同じセンターで分けたセミロングだが、目つきが鋭く、先ほどの態度と相まって印象は悪い。

「俺の縄張りにお前が侵してきて不快なんだ」と、アピールしているようだ。さらに江藤君を見る限り僕の方が男としてのランクは上だし、が取られないか々と心配なのだろう。でも、ここで僕が先に目線を外すわけにはいかない。ここで負けたら、負け犬と扱われ、いいように使われて終わってしまうだろう。例えば、アプローチしてくる趣味ではないを押し付けるといったように。

僕も江藤君を睨みつけ、挑発することにした。

「僕の自己紹介は、舌打ちするほど不快だったかな？」

全員が息を飲む音が聞こえた。男同士の縄張り爭いが始まったことを、彼たちも理解したようだ。ほんの數秒だったか、數分だったか……無言の時間がしばらく続いた。

「気のせいだ」

靜かだが、クラス全に通るような聲をだして江藤君は窓の外に顔を向けた。どうやら勝負に勝ったようだ。さすがに孤立している狀態で、これ以上、彼ともめるのはバカがすることだろう。これ以上、挑発する必要はない。

その後、一ノ瀬先生は何事もなかったかのように、廊下側の一番前が僕の席だと教えてくれた。意外とスルー力が高い。著席したらすぐに授業が始まったけど、授業の容は問題なくついていけた。

晝休みになったのでトイレに行こうと歩き出すと、2つ後ろの席に座っていた、白で金髪のギャルっぽいが、クラスメイトが後をつけてきた。廊下には監視カメラが設置されているし、後をつけるぐらいなら心配ないだろう。そう判斷し、彼を無視してトイレの中にり用を足してから出ようとすると、り口からし中にった場所に彼が立っていた。

「ここは男子トイレだから、出てくれないかな？」

聲が震えなかった自分を褒めてあげたい。さっきから冷や汗が止まらず、彼が無言で近づくたびに、一歩二歩と後ずさる。が思うようにかなければ、護など意味がない。

「江藤って奴は、馴染がベタ惚れしていることをいいことに、態度がでかいから気にくわないんだよね。顔もスタイルも普通のクセに。その點、君は顔はいいし小柄で可らしい！　格も良さそうだ。なんでそんなことわかるのかって？　直だよ。第六っていうのかな？　昔から男のことなら直が働くんだよね。で、その直が囁くの。この男を逃してはいけませんと。この學校に男が10人いたから一通り見てきたけど、こんなに強くじるのは初めてなんだよ！　運命だね！　それに、ハーレムを作ってないでしょ？　私のために初めてをとっておいてくれたんだね！　ありがとう！　この気持ち分かるかな。例えるなら、今まで灰だった世界にがついたような覚。そう！　今までの人生がなんだったんだ！　ってぐらい輝いて見える。それは、とても素敵なことだよね」

彼は一歩、前に出る。その覚は分かるが、事には順序がある。

「君が一人になるのずーっと待っていたんだよ。もう何度、襲いかかろうかと思ったか。でも、もういいよね……」

この人、理が吹き飛んで本能が暴走している……。男がしくてたまらず本能だけでいている狀態なのか？　だらしなく口が開いているし、呼吸が荒い。

「神山君って無防備だよね。普通、が後をつけてきたら逃げるよね」

彼はさらに一歩、前に出る。

「あっ！　もしかしてってくれたのかな？」

ついに、壁際まで追い詰めらた。

「そうだったら嬉しいな！」

満面の笑顔で最後の一歩を詰め、彼の手が僕の頬を捉えた。子供の頃、母さんに脅された時以來の恐怖をじる。

終わった。転校初日に終わってしまった。

それでも、それでも諦めずに、逃げ出そうともがくが、彼の腕は微だにしない。

「こうやって、ジタバタする姿も可いね」

ダメだこいつ！　早くなんとかしないと！

そう強く思った瞬間、なぜか頬から手が離れた。すぐに橫に移して彼から距離をとり、様子をうかがうと、楓さんが片手で頭を摑み白金髪ギャルのを持ち上げていた。摑まれた頭が痛いようで、足をバタバタさせながら外そうとし、しばらくすると気絶したようでかなくなった。

楓さんは、確かに普通のより腕が太いと思っていたけど想像を上回る怪力だ。

「遅くなってしまい申し訳ございません。間に合ってよかった。この不屆き者は、後で教師に報告しておきます」

楓さんは、そうつぶやきながら捕まえた彼を床に置く。

「楓さんありがとうございます。本當に助かりました」

小走りで楓さんに向かっていくと、楓さんが両手を広げた。これは飛び込めってことだよね？　助けてもらった手前、これは斷れないと思いの中に飛び込んだ瞬間、素早く腕が背中に回り抱きしめられ、そのままエビ反りになる。

「楓さん力加減！　間違っています！　僕は神山ユキ……背中がぁ！」

「フンフン」と、が出してはいけない鼻息をしながら、僕のを堪能している。僕の心からの悲鳴は、屆いていないようだ。どうか背骨が折れる前に離してください。

……でも、久々にったのは気持ち良く、とても心が安らいだ。