《男比が偏った歪な社會で生き抜く 〜僕はの子に振り回される》13話

3日後の5月16日土曜日。試験の日がついにきた。

母さんからは「気にいる」としか指定されていなかったけど、カードケースのデザインで勝負してもらう予定だ。ただ、試験の裏目的である「二人が仲良くなる」ことはほぼ達されているのだし、勝負にこだわる必要があるのだろうか? 前日に、思い切ってそんな疑問をぶつけると、「それはそれ、これはこれ」と言われ、二人とも勝負することにこだわっていた。ご褒を狙っているのか、はたまた勝負が好きなだけなのか判斷に迷うところだけど、試験をけることには変わりない。

「シートベルトは、ちゃんと締めてくださいね」

そう言うと楓さんは返事を待たずにエンジンの始ボタンを押し、カーナビが立ち上がってから目的地を力し始めた。

目的地さえ力してしまえば、自で目的地まで移してくれる。この完全自運転の機能は長らく、「自運転で事故が発生したら誰が責任を取るのか?」といった、責任の問題や法律の問題で見送られていたけど、法律・保険・道路の環境まで一気に整備が進み、ここ1〜2年で一気に普及した。

その結果、マニュアル・オートに続き、「自運転限定免許」が登場し、免許取得の難易度と費用が下がったため、免許を取る人のほとんどが自運転限定免許を取得している。機械が運転を完全にコントロールしているので、車は規則正しくき、無理な車線変更や信號無視といった危険運転が消え、通事故の発生數も自運転導前と比べて格段に下がっている。

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さんのように自車の運転に自信のある人だけが、自分で作して運転している狀況だ。

「それでは出発します」

出発の合図と同時にカーナビの作パネルの運転開始ボタンをタップすると、靜かに車がき出した。

「今日が楽しみで、なかなか寢れなかったよ!」

「今日は護衛も兼ねているのですから、気を抜かないでください」

「はーい」

まだ出會って1週間ちょっとしか経っていないのに二人のやりとりは、かけがえのない日常になりつつある。二人のためにハーレムを作り関係が深まる。それはきっと素晴らしい生活が待っているのだろう。そして、その生活に慣れてしまい日々の生活があせてしまったとき、同じことを繰り返してしまうのではないかと不安をじられずにはいられない。

こんな心がバレたら「甘ったれるな」と怒られるかもしれない、もしかしたら呆れて離れていくかもしれない。自分でも病的なほど臆病だなと自己嫌悪に駆られてしまうが、それでもこの考えから逃げ出すことができない。死んで生まれ変わったからこそ、どうしようもなく臆病になってしまう。

そんな僕でも、今の関係を壊したくないので、臆病になった心を二人にはじさせないように、この試験を楽しんでいるような雰囲気を作り出すことにした。

「これからどうするの? 二人が、どんなカードケースを選んでくれるか楽しみだよ」

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「これからの予定を改めて確認しますね。車を降りてからセンター街にり、し奧にある《レフト》でカードケースを購。そのあと、近くにあるファッションビルの《パンコ》で水著を購します。センター街には人が多いのでナンパされることが予想されますが、街頭監視カメラが設置してあるため襲われにくいので、この場所を通ります」

「移中は、手をつなぐんだよね?」

「そうです。周りにアピールする必要がありますから」

「ラッキー! 役得ってやつだね!」

一緒に後部座席に座っていた絵さんが、指と指を絡めて僕と手をつないできた。驚いて彼の顔を見つめると、目があうだけで何も言ってこない。ここで手を振り払うほど無粋な人間ではないので、手をしっかり握り返すことにした

「……」

手をつないだのは何年ぶりだろうか。お互いのが接し、溫め合う行為が、つながっているという安心が、心をドキドキさせる。心臓の鼓が早くなるのをじる。

「……」

人間は深いもので、さっきまで手をつなぐだけで満足だったのに、今はは足りない。しだけ手を開いたり閉じたりして相手とつながっているを、より強く楽しむ。

「……」

ふと、誰かに見られているじがしたので前を向くと、バックミラー越しに楓さんと目があった。怒っていたり悲しんでいたりしたらフォローする言葉が浮かんだかもしれないけど、鏡に映る表は「無」だった。言葉が見つからない。視線から逃げるため、目をつぶり、手が繋がっているに集中し、その狀態のまま目的地の道玄坂に著くのを待つことにする。二人を平等に扱えなくてゴメンね。

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「渋滯してくれれば良かったのにー!」

「もっと早く著いてしかった」

それぞれ正反対な想を口にしながら道玄坂を下って、センター街へ向かって歩いている。左手には彩瀬さん、右手には楓さんと手をつないで歩いている。

5月も中旬になり天気も良く晴天だ。手に汗をかかないか心配でしかたがないけど、それ以上に両手に花狀況を楽しめている。彼たちとの會話が楽しい。二人はどうだろう? 僕と同じように楽しんでくれているだろうか、それとも護衛に忙しく、この狀況を楽しむ余裕はないのだろうか? できれば、僕と同じように楽しんでもらえると嬉しい。

それから數分歩き、スクランブル差點の近くにあるセンター街のり口に到著した。センター街と書かれているアーチを眺めてみると、頂上に監視カメラを見つけることができた。楓さんが言っていた街頭監視カメラだろう。犯罪を未然に防ぐ抑止力として、役割を果たしてくれることを期待しているよ!

「すみません〜。そこの三人組、ちょっとお時間もらえますか?」

し間の抜けたような聲が聞こえたと思って振り返ると、首から一眼レフカメラを下げ、軽いウェーブのかかったセミロングの髪が特徴的なが視界にった。ジーンズにTシャツ、靴はスニーカーといったきやすさ重視の格好をしている。

「誰だろう?」と疑問に思った瞬間に二人が手を離し、楓さんは僕の前に立ち、彩瀬さんは周囲を見渡すように、せわしなく視線をかしている。

「私は街で見かけた人を紹介するウェブメディアを運用しているもので、決して怪しいものではないんです! ほら、このサイトです。見たことありませんか?」

慌てたように、肩にかけているバッグからスマートフォンを取り出し、畫面を僕たちの方に向けてサイトを紹介し始めた。

「このサイトは有名なので知っています。あなたがこのサイトの関係者だと証明するモノはりますか?」

「ありますよ〜。寫真付きの社員証と名刺です。サイトにもライターとして顔が載っていますよ。あ、このページです」

恐らく同じ質問を何度もされたことがあるのだろう。バッグから社員証と名刺を取り出し、スマートフォンを作してライターページを表示。素早く関係者だと分かる報を提示した。

「確かに。関係者のように思えますね。ミカさん」

「はい。ライターのミカです。信じてもらえたようで安心しました〜」

楓さんの張がし解けたのがわかったのか、本當に安心したようで、強張った顔から笑顔に変わっている。彼たちが話している間に、自分のスマートフォンを取り出して先ほど見せてもらったサイトを確認してみたけど、「目指せ!男との夢の生活♡容テクニック特集♪」といった、かなり煽ったタイトルが目立つ。記事を読んでみると々なサイトから報を集めてまとめているようだ。使っている化粧品は、ちゃんと紹介しているけど、肝心の容テクニックについては、寫真しかないので実際に真似してみようと思うと報が足りないような気がする。

「彩瀬さん。このサイトって本當に人気なんですか?」

「毎日見ているよ!」

近なところに読者が! 本當に人気なのかもしれない。男には使えないと思っても、には人気といった話はよくある。

「記事を読んでメイクをしたり、服を買ったりするの?」

「寫真だけ見て流行りをチェックするぐらい。文字読むの面倒だから。あとは……たまに記事で見かけた服を買うのと、気にった畫像があったら保存して、服を買うとときの參考にするぐらいかな」

本が好きな僕には、文字を読むのが面倒という発想がなかった。テキストは読み飛ばされるからなめにして、その代わりオシャレな寫真をたくさん使う。文字を読まない人をターゲットにするのであれば、たしかに合理的な判斷だ。

「で、どうでしょうか? 寫真を撮っても良いですか?」

彩瀬さんと會話している間に話が進んでいたようだ。楓さんは、僕の方を見るだけで口を出さない。僕に決めてほしそうに見ている。

「《今日の寫真》コーナーに三人の畫像を載せるだけなんです」

「うーん」

「私は賛だよ! ユキトが有名になれば、男ランクが上がる可能があるから!」

「そうですね。ユキトならもう一つ上を狙えるはずです」

確かに彼たちの言い分はわかる。男ランクは、《ランクの高い男を手にれた》という、の満足度を分かりやすく満たすために使えるからだ。去年の検査結果を見る限り、僕は、権力と名聲が上がればランクアップも不可能ではない。

僕のランクである3は全の約10%程度と言われ、ランク2になれる男は0.5%と思われている。ランクが上がれば彼たちだけではなく、育ての親である母さんや絵さんも社會的な評価は確実に上がるだろう。しかも、評価の上がりかたは《ものすごい》といった言葉しか思い浮かばないほど、大きなものだ。僕に関わってくれた人たちに恩を返すと思えば、寫真の一枚や二枚、安いものだろう。

「わかりました。撮影してください」

「ダメ……って、良いんですか〜?」

斷られると思っていたのか、目を丸くしてきが止まっている。だが、それも一瞬のことで、すぐさまカメラを構え出してポーズの指示を出してきた。

「そうです。しアゴを引いてください。良いですね! あとは、彼たちと腕を組んでください。そうです! はい、笑って! はい、オッケーです。ありがとうございました。カメラの寫真データがスマホに転送されるまで、ちょっと待っててくださいね」

言われるがままにポーズをとっていたら、いつの間にか撮影が終わってしまった。時間がないのか、撮影が終わるまで1分もかかってないだろう。撮影が終わるとすぐにはスマートフォンを取り出し、畫面をタップして何か作をしている。その場で、1分程度待っていると作が終わったらしく、《今日の寫真》コーナーに、腕を組んで笑っている僕たちの寫真が表示されていた。

「ありがとうございます。いい寫真が撮れました。私の名刺を渡しておくので、また掲載してほしくなったら連絡してください。電話一本で、どこからでも駆けつけます〜」

そういって楓さんに名刺を渡してから、くるっと180度に回ってから歩き出し、足早に僕たちから離れていく。

「それじゃ、僕たちも行こうか」

そう言って僕たちも歩き出そうとすると、別のから聲がかかる。

「ねーねー。そこの可い子。撮影してもらうほど暇でしょ? 私と……」

「ちょっとアンタ。私が聲をかけようとしたのよ。邪魔しないで!」

ナンパされたと思ったら、最初に話しかけた清楚そうな黒髮のと、茶髪で優しそうなが口論し出した。周りをよく見ると、5〜6人のに囲まれていている。ミカさんは、この狀況を把握していたので早めに去ってらしい。

ジリジリと接近してきたたちを、楓さんと彩瀬さんが押し返そうと前に出るが、相手の人數が多いので苦労しているようだ。このような張狀態が數分続いている。このままだと周囲の人が増えて危ない。そうじたときに、ズボンが引っ張られるような覚があったので下を向くと、いつの間にか一人のが僕の近くにまできていた。

「お兄さん。このままだと危ないよ。怖いお姉さんに襲われる前にこっちに行こう」

無邪気といった表現が似合うほど、穢れなのない笑顔を僕に向けて、が僕に向かって手をばしている。手を取ってくれるのを待っているようだ。何の疑いもなく、手を握ろうと手をばすと、の手が「パシッ」と叩かれてしまい、驚いたように手を引っ込めてしまった。

手を叩いた先を見つめると、楓さんがを睨みつけるように見つめていた。

「小さいからといって、気を抜いたらダメです。小さい子を使って警戒心をゆるめ、逃げられない場所に導するナンパ……いや、拐です」

そういって楓さんが視線を遠くに向け、僕も追うように視線の先を見つめると、一人のが立ち去っていく姿が見えた。

「チッ」

舌打ちが聞こえたので下を見ると、僕の近くにいたはどこにもいなかった。楓さんの正しさを裏付けるような行に、中のの気が一気に引いていくような覚に襲わられる。他の國と比べても治安が良いと言われる日本でもこれだ。アメリカやイギリスで出歩こうと考えなくてよかった。

……いや、安心するのは早いか。まだ、に囲まれたままだ。駅前にある番に駆け込んでもいいけど、そうすると買いができなくなり、試験に不合格となってしまう。そうすると殘された手段は一つで、走って逃げるしかない。

そう思って二人を見つめると同じ思いだったらしく、軽く頷いてから彩瀬さんが先頭になって周りのを押し退け、楓さんが僕を脇に抱えて空いた空間を一気に走り抜ける。

何人か手をばしてきたけど、走るスピードのほうが早いようで手が空を切った。後ろ向きに抱えられている僕には、鬼の形相で迫ってくる彼たちが良く見える。下手なホラー映畫より怖い。

結局、彼たちを巻くことができたのは、センター街を通り抜けて細い道をあてもなく走っていた時だった。

「もう大丈夫だよ。誰もいない」

楓さんに優しく降ろしてもらうと、走り疲れたようで二人とも座り込んでしまった。近くに自販売機がおいてあったので、スポーツドリンクを買ってから二人に渡し、息が整うまで待つことにした。

「ハァハァ」と、二人の息遣いだけが聞こえる。

立ち止まっただけで、に囲まれるとは思わなかった。しかも、を使った拐までされかけた。ライターのミカさんもグルだったのではないかと思うほど、一連の流れは完璧だったと思う。しでも判斷を誤っていたら……何が起こるのか想像したくもない。

ちょっとしたきっかけで理が吹き飛び、本能に突きかされて男を襲うは、不発弾みたいなものだ。誰が、そんな騒なモノの近くにいたいと思う? 街中で男をほとんど見かけないわけだ。

「あそこで立ち止まったのは失敗でしたね」

あれこれ考えている間に息が整ったようで、二人とも立ち上がり、さっきまでの狀況を振り返っている。

「他人のこと言えないけどさぁ、普通、あそこまで迫ってくる? おかしいよ!」

「人がない上に、撮影で目立ってたからでしょう。あとは、ユキトの見た目も良いですから。他の男より引き付ける力は強いのだと思います」

「確かに。レア中のレアだからね。スマホゲームじゃないけど、ユキトは見た目からして星5って雰囲気だもんね」

「そうですね。小ちゃくて可い。まさに、母本能をくすぐるために生まれてきたような人です。私なら星6にします」

「後出しでズルい! 私も星6にする!」

真面目な話をしていたのに、最後は非常にくだらない爭いになってしまった。トラブルがあったばかりなのに、頼もしいと思えば良いのか、能天気だと落膽すれば良いのか悩ましいところだ。

「元気になったようだし、《レフト》に行こうか」

そんな風に考えながら、二人の背中を押して當初の目的である《レフト》に向かうことにした。

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