《男比が偏った歪な社會で生き抜く 〜僕はの子に振り回される》24話
お見合いの日程が決まってから開催されるまでのあいだ、側からお見合いを斷った事例は一軒もない……いや、もしかしたら、時間をかけて詳しく調べればあるかもしれないけど、なくとも一般常識的としてから斷らない。そう思われている。
それに社會的に過剰に保護され、から蝶よ花よと育てられた男は、挫折の経験がない。いや「ない」と言っても過言ではないだろう。だからこそ、から斷られたとなると、大化した自尊心がひどく傷つき、相手を逆恨みする可能は非常に高い。
そんなことはわかりきっている。それでも、さおりさんは僕の近くにいてしいんだ。
しおりさんのお母さんには、しおりさんが僕のハーレムにることに同意してもらわないといけないし、お見合いをキャンセルしてもらうことにも同意してもらわなければならない。中間テストが終わったばかりだというのに、やることが山積みだ。
「それで、お見合いの話ってどこまで進んでいるの?」
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ソファーに座ってジュースを飲み、さおりさんの気持ちが落ち著くのを待ってから質問をした。
「お見合い相手はシンガポールの人らしいの。年齢は30歳の専業主夫だったかな?」
「30歳……。年齢はそこまで離れていませんね」
楓さんのいう通り、二倍程度であれば驚くほどでもない。子作り可能な年齢だし、お見合い相手としては問題はないだろう。
「そうなんですが、長が150cmで重が100kgを超えているんです……。一日四食の生活を続けているようで、將來はもっと太るかもしれません……。」
「「うぁ……」」
みんな思わず言葉を失ってしまった。これは、さすがにない。
が勝手に集まってくる、男にとってれ食い狀態の世界だったとしても、型が極端に偏った人は、敬遠されることが多い。それに、を癒す助の功を目指す男であれば型にはこだわる。どんなに鍛えても、前世のようにマッチョと呼ばれるほど筋がつくことはないけど、腹筋がうっすらと割れる程度の筋はつくし、それが理想とされている。
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一日四食といった暴食から、彼の格がけて見えてくる。
斷片的な報からの思い込みかもしれないけど、己のに忠実で、外で働くを癒すという男の役割を放棄している人。そうじられずにはいられない。
「それでハーレムのたちは、よく許しているね」
だから、自然とそんな言葉が口から出てしまった。相手は人間だ。思いやりの神が欠けた関係は、長く続くことはない。
「さすがに向こうの狀況はわからないけど、子どもは二人いるらしいから、子育てを頑張っているのかも……あ! 子育てはベビーシッターに任せているって、言ってたかも」
「シンガポールでは、子育てをベビーシッターに任せる人も多いみたいだし、相手が言っているのであれば間違いないだろうね」
この世界のベビーシッターは、児教育もできる育児のプロとして雇う場合が多い。特に海外の裕福層であれば、住み込みで働いてもらうケースもあり、児教育から炊事洗濯といった様々な業務を取り扱うこととなる。ベビーシッターとは、専門職であり資格が必要な職業だ。
育児のプロとも言えるベビーシッターを雇っているのであれば、「仕事も子育てもせずに、専業主夫は何をしているのか?」という、一つの疑問が生じる。みんな同じようなことを思ったみたいで「その男、家でなにしているんだろうねー!」と、専業主夫の仕事を予想し合っている。
「ベビーシッターを一時的に利用するのであれば、いくつか考えられるよ。例えば、下の子を病院に連れて行く時に、上の子の面倒を見てもらう。風邪を引いたから子どもの面倒を見てもらう。ハーレムのとデートをするから面倒を見てもらう。とか、かな」
でも、そんなケースは多くない。なぜなら、男がいれば國から補助金が出るので共働きをする必要はない。ハーレムが義務付けられているので、調を崩しても代わりになる人は必ずいる。お金を払ってまで、一時的に子どもの面倒を見てもらう必要がない。
「でも、専業主夫をしているのであれば、この使い方はしていないと思う。多分、ベビーシッターには、住み込みで働いてもらっていると思うよ」
「働かず、子育てはベビーシッターに丸投げ。彼は家で、何をしているのですか?」
ここまで話して、最初の疑問に戻ってしまった。
「遊んでるとか……?」
「……」
この場で話し合っても結論が出ないので、みんな黙ってしまった。
「そういえば! お見合いはいつするの?」
し気まずい雰囲気を変えるためなのか、彩瀬さんが質問をした。
「本當は來月の予定だったんだけど、相手の來日する予定が急遽変わって、一週間後になったの。だからお母さんも驚いちゃって、慌てて準備しているところなんだ」
お見合いをするのであれば、男をもてなすために、それ相応の場所を用意しなければならない。普通であればすぐに予約ができるはずもないので、々な場所に頼み込んで會場を確保しようとしているはずだ。さらに、さおりさんのお母さんはお見合いにすべてをかけていた。相當、力をれているはずだ。
「そこで僕が登場したら、さらに混しちゃうだろうね」
そんな狀況で「娘さんをください!」と言いに行くのだから、どういう反応をするのか想像できない。
「やっぱり、さっきの話はなしにする? 私に気を使わなくても……大丈夫だよ」
今後のことを想像してか、もう一度考え直していいと言ってくれたけど、先ほどの決意を変えるつもりはない。この問題を片付けて三人と仲良く暮らす。そう決めたんだから諦めるわけにはいかない。
「ううん。誰かに渡すつもりはないよ」
揺るぎない意志を伝えるために、さおりさんの目をしっかり見て返事をした。
「本當に……ありがとう」
まだ、涙目になりながらお禮を言ってくれた。
「まずは慌てて準備しているという、さおりさんのお母さんに挨拶とご説明をしようか」
◆◆◆
あの後すぐに、さおりさんのお母さんに電話をして、僕が行くことだけは伝えていて家で待ってもらっている。時刻は16:00。すぐに車で移して都にあるマンションに到著した。この最上階に、さおりさんの部屋があり案をしてもらっている。
「ここが私のお家だよ。準備は大丈夫かな?」
「まかせて。ちゃんとお母さんを説得するよ」
「うん。期待しているね」
そういってチャイムを鳴らしてから、さおりさんがドアを開ける。廊下の奧にあるドアは閉まっていて、中の様子は伺えないようになっていた。
「ただいま。お母さんいる?」
奧からドタドタと足音が聞こえたかと思うと、リビングにあるドアが勢い良く開いて、一人のが玄関に來る。見た目は30代後半から40代前半で、年齢をじさせない艶やかな髪は、肩甲骨あたりまでびている。さおりさんと同じ優しい目をしていた。
「さおり! 男を連れてくるって本當!? いまだに信じられないんだけど!」
「お母さん落ち著いて! 私の隣にいるでしょ!」
「うわ! 本當にいる! あ、握手してもらってもいいかな?」
「は、はい」
「もう、手を洗わない!」
……似ているのは見た目だけで、格はだいぶ違いそうだ。さおりさんみたいに落ち著いた人だと思っていたけど、予想と反して活発的なようだ。前向きに表現するのであれば、この世界のらしい格をしていると言えるかな。
「みんなごめんね……。私のお母さんは、男に會ったことがほとんどないから、なんだか一人で盛り上がっているみたい……」
「あ、そのごめんなさい。男に會ったのが嬉しくてつい……」
親娘そろって先ほどの行が恥ずかしくなったようで、顔を赤くしながら謝罪をした。そのせいでし変な空気がなってしまったので、彩瀬さんを使ってその空気を変えるべく発言をする。
「大丈夫だよ。なんとなく、彩瀬さんに似ているね」
「確かにそうですね」
「格は似ている」
「そうかも?」
彩瀬さんは「全然、似てないよ!」と抗議すると、この場にいる全員から笑い聲が出て、さっきまでの空気が一変した。これで仕切り直しができた。彩瀬さんありがとう。
その後、簡単な挨拶を一通りしてから、リビングにまで案してもらった。リビングの壁にはテレビがかけられている。下には淡い赤のラグとガラスのローテーブルとソファーがあり、絵さんを除く全員がローテーブルを囲うように座っている。
「突然の訪問にもかかわらず、お會いしていただきありがとうございます」
そういってから、僕の方から話し始め頭を下げる。
「ううん。さおりのお友達であればいつでも來てください。それで、ご用件とはなんでしょうか? さおりからは、ユキトさんからお話があるとしか聞いていません」
ここで時間をかけても仕方がない。用件をそのまま伝えることにした。
「単刀直に申し上げます。さおりさんを、私のハーレムに加えさせてもらえないでしょうか?」
「……本気ですか? 最近流行りのハーレム詐欺ですか?」
ハーレム詐欺なんてあるんだ……。結婚詐欺みたいなものかな?
「他の男はわかりませんが、僕は本気で言っています。私の母に確認をとりますか?」
「いえ、気が転して言ってしまっただけなので大丈夫です……本気なんですよね?」
母親からすれば信じられないのも無理がない。でも、信じてもらわなければいけないので、さおりさんのお母さん――涼さんを見つめて、はっきりと返事をする。
「本気です。ハーレムにってもらい格が合うようでしたら、その先まで考えています」
「……そこまで覚悟を決めていらっしゃるんですね……さおりから、お見合いの話は聞いていますか?」
僕の気持ちが伝わったのだろうか、納得してくれた。
お見合いは開催=結婚の図式がなりたっているため、キャンセルしてもらうしかない。
「聞いています。できればお見合いをキャンセルしたいと思うのですが、大丈夫でしょうか?」
涼さんは一瞬考えるような仕草をしていたけど、すぐに答えが出たようでお見合いのキャンセルについて話し出した。
「普通ならできないと思うのですが、男の都合で予定が変わってしまったため、お見合いの會場が決まっていません。それを理由に斷ることは可能だと思います」
今回は相手の都合で日程を変更しているからこそ使える方法だ。これで相手が納得してくれるのであれば、男のプライドはそこまで傷つかないだろう。今、取れる手段としてはベストな判斷だ。
「ずっとお見合いさせたがってたのに、お母さんいいの?」
そこまで話を聞いて、さおりさんが質問をする。小さい頃から「お見合いをして結婚しなさい」と言っていた母親が、あっさりとお見合いをキャンセルすることに同意したことに、疑問をじたのだろう。
「さおり。私は、結婚に憧れてお見合いをせずに男を探していた。でも、どんなに頑張っても、男を見かけることはあっても話すことすらできなかった。それはすごく悲しくて寂しことだったの。あなたには、そんな思いをしてしくなかった。同じ失敗をしてしくなかった。だから、小さい頃からお見合い相手を探していただけ。あなたを求める男が出てきた時點で、お見合いなんてする必要はないのよ」
母親の話を聞いたさおりさんは抱きつき、泣き出した。最近出會った僕たちにはわからない、いろいろな想いがよぎったのだろう。
「お母さん……そうだったんだ」
「ごめんね。私の気持ちを押し付けちゃったみたい」
「ううん。私のことを考えてくれて嬉しい」
この二人に迷をかけている自覚はある。だからこそ、これ以上迷をかけるわけにはいかない。相手の男がゴネるようであれば、敵意を僕の方に向けてもらおう。
「相手の男が文句を言うようでしたら、他の男のハーレムにることが決まったと伝えてもらっていいですか?」
「ありがたいお話ですけど、そうすると矛先はユキトさんに行ってしまいますよ?」
「それが目的です。さおりさんをハーレムに加えると決めた時に、面倒ごとを引きける覚悟もしました」
僕の覚悟をじ取ったのか、抱き合っていいたさおりさんを離し、僕の方を向く。そしてしばらくしてから、頭を下げてくれた。
「ありがとうございます。そう言ってもらえると助かります」
お見合いの相手には明日連絡するそうで、これ以上、堅い話をする必要もなくなった。
夕食の時間も近かったこともあり、今日は飯島家でご馳走され、その代わりにさおりさんの出會いから今日までの経緯を一通り話すこととなった。
「いつも家族二人で食事をしていたから、今日はにぎやかで嬉しい」
食事中にさおりさんがふとらした一言。僕もこのにぎやかな生活がずっと続くといいなと、心の中でひっそりと同意していた。
- 連載中7 章
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