《ぼっちの俺、居候の彼》act.7/親父
水姫の洋服選びは1時間を要した。
俺は1人で休憩スペースに座り、スマフォのアプリで暇潰しに作曲する。
1時間じゃ曲なんてできないが、リズムを考えて保存するぐらいはできるのだ。
「利明〜」
「…………」
「…………」
トントンッ。
また2回肩を叩かれ、俺はヘッドホンを外してから肩を叩いたを見る。
ソイツは當然、水姫だった。
先ほどまで著ていた學生服ではなく、肩出しトップスとデニム、みかんのをしたヒールのあるサンダルを履いている。
のを知らないような白いが大膽に出され、夏のというか、パッと思いついた言葉はこうだった。
「ビッチっぽい」
「酷い!!」
「出し過ぎだろ。変態かよ」
「このくらい普通だもんっ」
ぷーっと頬を膨らませながら水姫は隣に腰掛けた。
フローラルな良い香りが花をくすぐり、彼の地を見ると、さすがの俺もの機が早まるのをじた。
「……利明さ〜ん? 鼻の下、びてるんじゃないですか〜?」
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「ばさせるためにやってんだろ? よかったじゃねぇか」
「…………」
水姫は嬉しそうに微笑むと、えいっ、なんて掛け聲と共に俺の腕に抱きついてきた。
昨日は後ろからだった、でも今は橫から。
彼のがよりじられて――。
呑まれるな――。
心に厳粛な、重い言葉を投げかける。
ここで自戒できなければ、水姫の思うツボだ。
ここで俺に甘ることで得る彼のメリットは服代を俺に出させること。
最近の服は高いからな、デパートでも1著1萬円ぐらいのもあったりする。
「……そんなにされたって、買わねーからな」
「えー? 私、お金持ってきてないよ?」
「だったら服を戻してこい」
「むぅっ……」
俺のに顔を落とし、駄々をこねる水姫。
腕にを押し付けるの、ほんとやめてくれ。
「わーったよ、金出すから。5萬な、5萬」
「えっ、そんなに出してくれるの……?」
「その代わり、俺の理をこれだけおちょくったんだから、帰ったらしらせろ」
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「え……」
俺の言葉に驚愕し、水姫の顔がみるみる赤くなっていく。
今日2回目だが、の起伏が激しい奴だ。
「……えーっと、どの辺をおりになるので?」
「全。5萬も使ってるだけなんて、素敵だろ?」
「…………」
今度は落ち込むかのように目を伏せる水姫。
抱きつくのをやめ、彼は俺の隣に腰掛ける。
「利明って、思ったよりえっちだ。さっきだってパンツ覗くし」
「パンツ見たのは暇潰しな」
「暇潰しで子のスカート捲られるなんて、たまったもんじゃないよ……」
「そら悪かったな」
wavファイルを保存してアプリを閉じ、俺は漸く攜帯をベンチに置いた。
そしてグイッと水姫の肩を押して引き剝がす。
「邪魔。別にっても良かろうが悪かろうが、これだけ待って収穫無しってのも癪だ。著替え直して、買う持ってこい」
「……むーっ」
「……なんだよ?」
ふて腐る水姫はベンチから離れようとせず、俺のスマフォを持って目線を隠した。
「利明、私にってもんなくても、どっちでもいい。それが本心なんでしょ。……そんなに私って、魅力無いかな……」
「見た目の価値だけに振り回されるほど、俺は愚かじゃねぇよ。俺は作曲家だぜ? 目に見えないものが大切だって、そう信じてる」
「……例えば?」
「…………」
形がなくて人の魅力になるもの、例を挙げるのは難しかったが、昔の事を思い出す。
アイツは確か、こんな事を言っていた。
「……小學生の時に聞いた言葉だけどさ、"幸せの音程"っていうのがあるんだよ。ある周期で、ある形をした波形の、目には見えない音。それはたった一つの音で、人を幸せにできるんだって。その聲を持てたら、リーダーシップとか人脈があるとか、そんな言葉で表せないほど凄い人が崇めるだろう、って。これ言った奴は今、アイドルやってるし、しずつ音程を見極めてるんだろうな」
「……私の話とその話、噛み合ってる?」
彼は俺のスマフォを元に寄せると、引きつった顔が姿を現した。
多分、わかってないんだろう。
「合ってる。ようするに、魅力的な聲が出せる人間が側にいると、側にいる奴は毎日幸せだな、って事」
「……私が、可い聲出せばいいの?」
「今からやってもキャラ作りにしか見えないからやめろ」
「くぅっ」
悔しそうに唸るも、何の反撃もなかった。
……はぁ。
「お前さ、あんまり生き急ぐなよ。俺らの人生なんてまだ平均壽命の1/4ぐらいしか終わってないんだぞ? 魅力なんてこれからにつければいいじゃねぇか」
「……の子は、今が1番魅力ある時なんだよ?」
「一般論に振り回されるな。人にはその年齢年齢におけるしさがある。85歳でもしい奴はしい。そーいうの目指せば? 外見以外どん底なんだからさ、お前」
「…………」
水姫は泣きそうになっていた。
勵ましたつもりだったんだが、ダメか……。
まぁ、これも後になれば良い思い出になるかもし――
「……なってやる」
ボソリと水姫が呟く。
何を言ってるのかわからず、聞き返した。
「なんだって?」
「……絶対、利明を驚かせるぐらい、人なになってやる!! 私をバカにしたこと、絶対後悔させるから!!」
「…………」
強気な宣言だった。
涙を振り払い、俺を指差して告げる彼。
明確な意志を宿した瞳、その顔を見ていると、どこか安心できてしまう。
何もないだと思っていた。
でもそれは、思い違いだったらしい。
「……ああ、後悔させてみろ」
どこの漫畫の展開だ――なんて思いながらも、俺は彼を背に歩き出した。
だが、その歩みはただの一歩で止まった。
目の前に、見知った人間が立っていたから。
「……青春だな、利明」
疲れのある聲で俺の名を言う男はスーツ姿で、眼鏡をかけた細の中年男だった。
細目で前髪は7対3で分かれている。
この男……。
「いつから居た?」
「そこに座って、攜帯を弄ってる所から」
「最初からだろ、ソレ」
俺は目の前のおっさんの腹に膝をれた。
細の彼はその一撃にをくの字に曲げる。
「いったぁ……。利明、お前なぁ……」
「聲掛けろよ。つーか仕事しろよ、ホントダメだな」
「……お前にそう言われるのは、仕方ないと思うよ」
「…………」
もう一発、膝蹴りを食らわす。
おっさんはうずくまり、腹を抑えていた。
まったく、ガキにコケにされんなよ……。
「……あの〜」
「あん?」
後ろから聲が掛かり、振り向くと水姫が居た。
不思議そうにしつつ、驚きで目を見開いている。
「……その人、誰?」
もっともな疑問を彼は口にした。
會話の合間にこの人は起き上がって俺を睨む。
そんなおっさんを指差し、水姫に言った。
「俺の親父」
「……どうも、利明がお世話になってます」
気恥ずかしそうに頭を掻きながら挨拶する親父。
その表を見る水姫は、俺と親父を見比べてげんなりするのだった。
△
結局、水姫の服は買って、親父も含めた俺たちは一人暮らしの俺の家にやって來た。
親父は仕事でお客さんの所に話をしに行った帰りらしく、もう仕事は終わりだからと付いてきた。
「……利明、こんな可い子と同棲してるのか?」
「かわっ……!?」
「同棲っつーか、ソイツは俺のペットみたいなもんかな? あぁ、手は出してねぇよ? さっきはヤラシイ話してたけど、気が逸れたし――いてっ」
3人でローテーブルを囲っていると、水姫が足をばして蹴ってくる。
見えない所で攻撃する奴、好きじゃねぇなぁ……。
「利明も年頃だからなぁ……間違いが起きないようにしろよ?」
「付き合ってもないのに同棲してる事が既に間違いだろ」
「……付き合ってないのか?」
途端に親父の聲が低いものとなった。
付き合ってないです、ソイツただの居候というか、暴言吐いたり暴力振るったりする不良品なんだけど。
「こんな、モーターが回らなくて不協和音を奏で、結局棒で混ぜて洗濯する羽目になる、古びた二槽式洗濯機より使えないとなんて、誰が付き合うか」
「……いい加減ぶっ飛ばすよ?」
水姫が良い笑顔で握り拳をチラつかせる。
一度毆ると一発じゃ済みそうにないので、この辺でやめる。
「俺のことは別に良いじゃん。親父は揚羽と仲良くしてんの?」
「……今は、上手くやってるよ。大丈夫、お前のおかげで俺も、揚羽をちゃんと娘として見られるようになった」
「……そうか」
それはよかった。
俺が家を出た理由の半分は、親父と妹が2人になって、よく話し合って貰うためだったから。
目的は、果たせたのかもしれない。
それは親父も悟ったのだろう。
親父は俺の腕を摑み、強く握ってきた。
「なぁ利明。もう戻ってきても良いんじゃないか? 俺が不甲斐ないせいで、息子のお前と娘の揚羽の仲が悪くなるの、俺はもう見てられないんだ」
悲痛な聲だった。
言われると思っていた言葉だった。
揚羽には噓を吐いて、俺を嫌いになるように仕向けている。
に1人憎い奴が居ると、家族ってのは団結するもんで、揚羽は両親と仲良くやっていた。
だから――
「ダメだ。ババァが死ぬまで、俺は家に戻らない」
「でも、利明……」
「人間って、なんで悪魔になりきれないんだろうな。ババァの事は憎いが、死ぬ奴を不幸にする気は無いんだよ」
「…………」
バッサリと斷る。
親父の手の力は弱まり、俺は引き剝がした。
……あー、それと。
「帰れない理由も、あるからさ」
「……え?」
キュッと水姫の手を握ると、上の空だった彼は驚いて目を丸くし、その顔はみるみる朱に染まっていく。
俺と彼の様子を見て、親父はため息を吐いた。
「……お前も幸せなら、それでいいや」
「いや、俺はこんな不良債権みたいな、いらなぶぼっ!!?」
言いかけの口は頬へのグーパンによって黙らされる。
そこから水姫との文句の言い合いになるが、俺たちのバカな様子を、親父は笑って眺めていた。
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