《ぼっちの俺、居候の彼act.10/お金

――ゾォォォォオオオオオ!!!

「えっ!!? なっ、なにっ!!?」

突然鳴る奇妙は音に、私は意識を呼び戻された。

顔を上げると、茶焦げたローテーブルの上には、黒い、悪趣味な音を放つ目覚まし時計があって、私は無言で時計のスイッチを押す。

ピタリと音が鳴り止むと、時計はカチッカチッと、靜かに秒針を刻むだけのものに戻った。

それより、気になることがある。

なんでリビングで寢てるんだろう……私は、昨日――

「……あぁ、そっか」

私は全部話したんだ。

名前の事も、家の事も。

泣き疲れて眠り、私はここで起きたんだ――。

そこまで頭が整理できたとき、玄関からが差し込んだ。

靜かに扉が閉まり、が消えて、既に制服に著替えた利明が現れる。

「よう、クソバカ。お前の朝飯はヨーグルトだ、喜べ」

「……?」

はてなを浮かべる私の頭に、コンビニのレジ袋を乗せてくる。

ちょっと重い――だから利明の摑む袋の天辺を持って袋を取ると、中にはバナナや菓子パン、ヨーグルトがっていた。

どうやら私の朝ごはんらしい。

「お前がこんな所で寢やがるから、料理できなかったじゃねぇか。晝飯もそれで済ませろよ?」

「う、うん……。ありがと……」

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「んで、さっさと著替えろ――ああ、私服な? 今日は學校行かせねーから」

「えっ、なんで……」

學校に行かせないって、訳がわからなかった。

そ、それって、本當に私の事を襲っ――

「今日1日で全部片付けるぞ。お前が"終わってみれば、呆気ないものだった……"って言うぐらいあっという間に終わらせてやる」

「――――」

私の愚かな考えは、彼の言葉を聞いて吹っ飛んでしまった。

こんな頼りになって、人のためにけて、カッコよくて……そんなんだから、私は……。

「……どうした? 俺ができないと思ってんのか?」

「……ううん、なんでもない」

まだ言うことはできない。

私は頭姫――その最初に持ったこのは、もうちょっと親睦が深まってから話そうと思う。

パサリと、考え事をする私の前に落ちてくる。

それは彼の通帳だった。

「とりあえず見てくれ。中の金額を見て、足りるか足りないかだけ教えてくれればいいから」

「…………」

私はおそるおそるその紙束を手に取った。

父の借金は、1300萬ぐらいだった気がする。

今はもっと多いんだろうか、それを払えるだけの金額が……この通帳に書いてあれば……。

「……1、10、100……」

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通帳の數字の書かれた最後のページを確認し、0の數を見ていく。

いや、実際は數える必要もなかっただろう。

――世の中にはもっと稼ぐ高校生も居る――

……あの言葉、今はちょっと疑わしいなぁ。

「……利明、寶くじ當たったんだね。いいなぁ〜」

「そんなもん買ってねーから。株で大儲けしただけだから」

「……こんな大金持ってたら、親も何か言うでしょ?」

「いいんだよ、俺が稼いだやつは俺のもんだ。大金かしても親が稅理士だから、なんか知らんけど稅金あんまかかんねーし。凄くね?」

「…………」

こんなものがあるなら、最初から家の話をしとけばよかった。

そう思うほどに、2億と書かれた彼の通帳は妬ましかったから。

「……利明、もう私と結婚してよ」

「そしてすぐ離婚して財産分與か!? ぶっ飛ばすぞテメェ!」

「……はぁ」

もういいや、私は通帳をポイッと投げて著替えに向かうのだった。

それからはあっという間だった。

遅れながらも明星父が來て、経緯を話して、私の実家に行って、お金を返して……。

贈與稅といって、110萬円以上のを渡す時には稅金がかかるらしい。

そんな事、初めて知った。

そして、彼とその父が立會人となって、借金は取り立て屋さんに耳を揃えて返された。

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利明くんは昨日の會話もICレコーダーに録音してたようで、私の両親は深く頭を下げていた。

弟が中學に行ってるから、平日で良かった。

こんなけない両親の姿、弟は知らないから。

いつも見栄を張っていた、その結果がこれなのだもの。

私は悔しかったけど、利明は顔1つ変えていなかった。

「……利明、仕事のスケジュールをズラしてまでやったんだ。その子を大切にしろよ?」

「は? やだよ、俺コイツ好きじゃねーし」

私の両親の前でもそんな事を言ってのける彼に、私がローキックをれたりした。

私の両親は――いや、水姫の両親は、泣いて私に許しを乞うたけど、ついた傷は一生ものだ、許すことはできない。

「だから私、帰る気無いから」

夕暮れの空の下、私は両親に向かってそう宣言する。

白髪混じりで背広を著たお父さん、灑落っ気の無い無地のシャツとジーンズを履いたお母さん、そして、制服の上からスーツの上著を著た利明が家の前にいる。

2階建ての家だった、この家のローンはもう無いらしいのに、売り払わずに私のを売った親だ。

許すことは、できない……。

怒りを込めた私の視線の前に、彼が立ち塞がった。

「許すとか許さないとか、罪ってどっちも不幸だよな。そんな仕方ない事考えて、悩む奴は悩んだまま死んでいく。アホらしい……って言いたいけど、お前はまだ傷口ができたばっかりだ。俺は消毒したに過ぎない。そのうち傷が塞がるまでゆっくり待て。かさぶたになって剝がれて、綺麗になったら、また此処に來ればいいじゃんよ」

「利明、ズルいよ……。私は貴方に逆らえないのに、そんなこと言うの?」

「逆らえないとか、ローキックきめた分際でよく言えるな! 傷口エグるぞボケ!」

プンスカ憤慨する利明を前に、怒りの視線だった私は目を閉じた。

結局、稅金も含めて1500萬円も利明は使用した。

私はその分彼、に従屬しなきゃいけない……と思うけど、きっと彼は、今回の事を何も気にしてないだろう。

だって彼は、終始笑顔だったのだから。

そう、今でさえ――。

「……まっ、本人がこう言ってますので、親さんのお2人さえよろしければ、私が頭姫さんの面倒を見させていただきます。どう致しますか?」

くるりと振り返り、利明は私の両親に顔を向けた。

両親は気恥ずかしそうに、俯きながらゴニョゴニョと話す。

「……私達に、決める権利はありません」

「アンタには謝しても仕切れない。なんと禮すればいいか……」

「今私は、禮をくれ、などと申しておりませんが?」

彼らしからぬ冷徹な言葉が両親を斬り伏せる。

あれ――怒ってる?

「貴方たちが親の権利を捨てるのか否かを聞いてるんですよ。頭姫は噓の名前を使わされ続けた結果、今までの自分は死んだ、とまで言っていました。それはそうです、名前が違えば、同姓同名のただの別人。心は同じでも、名前が違うと人は揺らぐものですよ。そんな子供の心すら知らない親の貴方たちが、もう一度1から家族をやり直す気があるのかって聞いてるんですが……ああ、喋り疲れますねぇ。疲れる疲れる」

利明の言葉は両親をわせる。

慌てふためく両親からそっぽを向いて、利明は私にウインクした。

……本當にいい格してるなぁ。

「ハイハイ、お靜かに」

ぱんぱんっと利明が手を叩くと、両親は黙る。

利明はまた振り返り、そして

私の事を抱き寄せた。

「――え?」

完全なる不意打ちだった。

今まで私が彼に抱きつく事はあっても、彼から來た事はなかったから。

一瞬で耳まで真っ赤になってしまう。

これって、私の事……。

「お2人の決心が鈍ってるようなんで、暫くこの不良債権は預からせて頂きますね」

「……誰が、不良債権よ。誰が」

「うるせぇ1500萬。嫌ならホテルでも漫喫でも行けば?」

「ッ〜〜〜〜〜〜〜!!」

怒り心頭、今すぐにでも毆りたかったけど、私はなんとか堪える。

抱きつくのも演技か――なんて。

私は純潔を奪われた、利明の対象じゃないだろう。

彼は私を離すと、さらに両親に言った。

「ウチには來て良いし、味い飯作ってくれるなら住んでも良いです。監視役が居ると助かるしな。……あ! 俺この馬鹿に手出してませんからね!? その點は安心してください。俺にとってはこんなより、真夏に転がるセミの抜け殻の方がまだマシですから!」

「……そろそろ毆るよ?」

「さーせん」

平謝りしてくる利明を前に、私はクスリと笑うのだった。

こうして全てが終わる。

私は生まれ変わった。

ああ、本當だ。

終わってみれば、呆気ない――。

○○○○○

「疲れた……俺働き過ぎだろ死ぬ……」

帰ってくるなり、俺はベッドに倒れ込んだ。

金は返し、頭気の件はこれで終わりだろう。

あとは"誰が俺に助けを乞えば助かる"と言ったか聞き出さなきゃいけないが、それはまた明日にしよう……。

「お疲れ様っ。本當にありがとうね?」

「うるせー……明日も學校休むわ、俺。雰囲気イケメンな俺が居ないと、子が寂しがるだろうなー……」

「ぼっちの癖に、雰囲気イケメンっておかしいよね?」

「……格はイケメンな」

「……うん」

倒れる俺の背中に、頭姫が乗ってくる。

いや、抱きついて來てるんだろう、2つ分やわっこいがあった。

「重い。どけ」

「やだーっ」

「じゃあ死ね」

「しーなーなーいーもーんっ♪」

こっちは疲れてきたくないのに、聲が嬉しそうな頭姫。

また俺は人を幸せにできたようだ。

普段は音楽で人を幸せにして、いつも思う。

幸せにすると、俺も幸せになるって。

だから他人を幸せにするために何かを惜しんだりしないし、金だっていくらでも使う。

ああ、俺はこれで満足だ……。

「……頭姫、お前、今日から俺の助手な」

「……え?」

「パソコン付けて。デスクトップの方。パスワードはA945GHIkNo6」

「ご、ごめん。もう一回言って?」

「機の中にDTM①って書いてあるノート、その1ページ目見て」

「う、うん」

慌てながら頭姫は俺よ上から離れ、機の方に行く……気がした。

し経って、頭姫が言う。

「ついたよ?」

「メール見といて……」

「メール? あぁ、はいはい」

カチカチとマウスが鳴る。

俺がかしたんじゃない、俺は倒れてます。

し寢返りを打つと、ホットパンツの下から頭姫の健康的な白い太ももが見えた。

……良いだ。

「新著3件……えーと、送り主と件名だけ読むね?」

「んー」

頭姫が3つ読み上げる。

そのうち2つは音楽仲間のやつで、1つは共同作してる例のアレできた?みたいなじ。

できてるから返信しねーと……って、もう夜だから明日でいいや。

「もういいからパソコン閉じて。あと、リビングに置きっぱの目覚まし取ってきて……」

「……私、召使いじゃないんだけど」

「今日ぐらい良いだろ……。今週は本當大変だった。お前知らないだろうけど、土曜寢てねぇで、昨日6時間寢ただけなんだぞ……。明日も休む、最悪でも、午後だけ授業出るわ……」

その言葉を最後に、俺の意識は真っ黒な闇に塗り潰された。

休もうと思ってた休日も1日潰れ、まぁそれでも満足な日だったから悲観に暮れる事はないだろう。

――ゾォォォォォォオオオオオ!!

ガチャン!

病的なまでに手慣れた作で、俺は目覚ましのアラームを止めた。

そこから浮上する意識、目をゆっくりと開いて行く。

清々しい朝だった。

カーテンの隙間から覗くはフローリングに反し、優しく室を照らす。

照らされるのがお札とかじゃなければ最高の朝だった。

「……ん?」

起き上がって隣を見ると、パジャマ姿の頭姫がすーすーと寢息を立てて眠っていた。

を橫たえ、彼は小さく上下を繰り返す。

さっきの目覚ましで起きないって事は、コイツも疲れてたんだろう。

「……やれやれ」

ふと時計に目をやると、時刻は8時を回っていた。

こんな時間にセットした覚えはないが、今はいい。

今日は休もう。

うん、それが良い。

で會話を終わらせ、俺は朝飯を作るために部屋を出た。

飯を炊いてないから米を研いで炊飯のスイッチを押し、野菜が殘ってないから焼いて味噌を作るだけ。

後は飯が炊けるまで待つだけだが、そんな時に丁度よく頭姫が起きてきた。

「……おーはーよー。としあきぃーっ」

「おー。寢ぼけてんなー」

俺が新聞を手にローテーブルの一角に腰を置くと、俺の部屋から出てきた彼はトボトボと洗面所の方に向かっていった。

頭姫は朝弱いらしく、魂が抜けたみたいになっている。

また俺は新聞に目を向けると、表紙の一面には大々的に大きな見出し付きでの寫真が載っている。

高校生アイドル、南野みなみの津月つづき、引退宣言!

「へぇー、コイツ引退すんのか。高校生は大変だな」

南野津月といえば、俺でも名前を知ってる現役シンガーソングライターのアイドルだった。

新聞に寫真が載ってるように、茶髪のツーサイドアップでパッチリと開いた瞳には赤いカラコンがっている。

出の多い裝とマイクを片手にした可憐な――でも貧なんだよな、うん。

同じ高校生活家としては、引退という言葉にしショックをける。

簡単にやめて良い事じゃないからなぁ……。

見出しの下にある活字にも目を通すと、なんでも、男関係を持っている事が発覚したそうだ。

アイドルの世界ではがNGだからな、さもありなん。

ペラリと次のページを捲ると、顔を洗った頭姫がリビングに戻ってきた。

「おはよー……。あっ、今スッピンだから見ないで!」

「もう何回も見てるし、気にすんなよ」

「ダーメーなーのーっ! ほら、新聞に首を突っ込む!」

「もがっ」

無理やり灰の紙にキスさせられる俺。

この程度じゃ怒らねぇけどさ……というかもう慣れた。

「……なんか面白いニュースある? あ、ツッキー引退なんだ。かわいそ〜」

なんだかんだで真ん前に座る頭姫。

スッピン見られたくねーんじゃなかったのか。

「……ツッキーなんて當たり障りのない稱付けるから、コイツ引退したんだよ」

「噓だぁ〜。彼氏いるんでしょ、この子」

「おう。まだちょっと信じらんないよな、津月に彼氏居るなんてさ」

「…………」

俺の発言が気に障ったのか、頭姫は無言で睨んでくる。

なんだよ。

「……津月って呼ぶんだ。普通はツッキーか、南野さんなのに」

「いろいろあってな。コイツとは切っても切れない仲だったんだけど、これからはどうなるかわからん」

「……音楽関係?」

「それもある」

「へぇ〜? 他にあるんだぁ〜?」

ジーッと睨んでくる。

良い加減うざいので、新聞をバサっと広げて視線を遮った。

「……どんな関係なんですか、先生。まさか、この人って……」

「それは無いから」

「じゃあどんな関係なんですか?」

「小學校一緒だった」

「……それだけ?」

「それだけ」

なーんだ、そう言って頭姫は立ち上がって、自分の部屋へと戻っていった。

まぁ、うん。

このアイドルが稚園の頃俺に結婚結婚言ってたって、頭姫に言うと、めんどくさそうだもんな――。

だが、何か引っかかる所があった。

津月――コイツはまだ引退なんて早過ぎる。

? 津月とのメールのやり取りは俺が高校にるまではあったが、それから誰か良い男を見つけたんだろうか?

嫌なざわめきがを熱くする。

それ以上新聞を読んでも、何も頭にってこなかった――。

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