《ぼっちの俺、居候の彼》act.18/好き
気が付けば土曜日の朝になっていた。
ぼーっとしてたら1日が過ぎたらしく、昨日何をしたんだか覚えてない。
しかし今朝のルーティンが変わるわけではなく、俺はいつも通りポスターに挨拶し、いつも通り朝メシを作っていた。
後から頭姫も起きて來て、アイツもぼーっとしながら洗濯をしに向かって行った。
2人揃って朝メシを食って、俺が食を洗って……。
ただただ機械的に過ごしていた。
モノクロな世界を生きるように、生活がなく、無気力だった。
俺はどうしてしまったのだろう。
あれから何をしたのだろう。
「……アイデア浮かばねぇ」
DAWソフトを前にしても、創作意はまったく湧かず、基本的な4つ打ちからっても、そこから曲を作ることはなかった。
ぼーっとしている。
俺はどうしてしまったのだろう。
そして頭姫も、どうしてしまったのだろう。
俺がこんな狀態なのに何も聞いてこないし、普段より話す事もなくなった。
彼は部屋に篭り、勉強しているらしい。
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來週から試験か――なんて考えるうちは平和なもんだった。
「…………」
俺は立ち上がり、隣の部屋へ向かっていた。
俺は何やってるんだろう、とか思っていてもが勝手にいた。
コンコンと、2回ノックをすると、どうぞ、というか細い聲が聞こえて來た。
部屋の扉を開けると、ロッシーニ作曲のチェネレントラが流れてくる。
シンデレラをモチーフとした喜劇――なんでこんな曲を聴いているのだろう?
そう思いながらも、妹の為に用意していた味気ない部屋の機で、勉強している頭姫を見つける。
彼は俺の事を見る事なく、カリカリとシャーペンをかしていた。
別に、ヘッドホンをしてるわけではなく、攜帯から音楽を鳴らしていた。
「おい、頭姫」
「……何?」
「ノート貸してくれ。し勉強する」
「……見ての通り、私いま勉強してるんだけど?」
「使ってないやつでいいから。頼むよ」
「…………」
彼は渋々といった様子で、機の上から數冊ノートを手に取って俺に差し出した。
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サンキュー、と言ってけ取り、ノートから視線を上げると、仏頂面の頭姫が目に付いた。
彼の不機嫌な理由は察しがついてるし、俺が原因なのもわかっていた。
「……ごめんな。俺がしゃんとしてないせいで……家の空気を悪くしようってつもりはねーんだ。それだけは、わかってしい……」
「……私は別に、怒ってなんかないよ。でもさ――私、迷なら出て行こうか?」
その一言で、部屋にかかっている曲の意味を理解する。
シンデレラは魔法が解けてしまうと言って城から抜け出した。
俺たちの魔法は、一緒に居る理由は――もう、何処にもないもんな。
「――ふざけんな」
でも、居てもらう理由ならあるし、なければ作ればいい。
何より、
「そんな悲しそうな顔で出て行ったら、ぜってー許さねぇ。もし今出て行くなら、俺は一生お前の事を恨んでやるからな」
「……どうして? 私が居るから悩んでるんでしょう?」
「そうだけど、そうなんだけどさぁ――!」
ああ、もうめんどくさい。
俺1人で考え込むよりも、こういう事はハッキリ聞いた方がいいんじゃないだろうか。
任せに、投げやりに、俺は彼に問いただした。
「お前、俺の事好きなわけ!?」
単刀直でわかりやすい、ストレートな質問。
それに対し頭姫はきょとんとする事もなく、優しく微笑んで言った。
「うん、好きだよ」
わかっていた答えに、ついに俺は頭を抱えた。
なんでこんな展開になる、何故こうなった。
平穏なぼっち生活を送れていたならどんなに良かったかと、ifの未來が頭の中を駆け巡り、そして現実に打ちのめされる。
頭を抱えて崩れ去る俺の方へ、椅子から立ち上がり、頭姫が寄って來た。
すぐ近くにやって來て、彼はしゃがみ込む。
「だからさ、利明。私に遠慮しないでよ」
説き伏せるような、ぴしゃりとした聲だった。
思わず彼の顔を覗き込むと、真摯な黒い雙眸が見つめ返してくる。
「……俺が、いつお前に遠慮したよ」
「遠慮しかしてないよ。私の気分を害したくない一心でいつも行してる。私は好きな人の妨げになりたくない。貴方の邪魔になるくらいなら、私は、出て行くよ?」
「だーかーらっ!! あーもう、めんどくせーな!」
どうしてコイツは他人のために自分を蔑ろにしようと言うのだろう。
ああ、それは俺も同じか。
「……お前は思い詰めなくていいんだよ。俺が好きなら津月とタイマンでもなんでもして、俺を口説き落とせ。それでいいじゃん」
「……私、ツッキーに勝ってるところ、何1つ無いよ……」
「そんなん俺が気にするわけねーだろ。お前はお前でいいなんだから、いつも通りバカやってればいい。あーあ、なんかアホらしくなってきた。俺、勉強してくるから」
長らく頭にあった淀みがクリアーになったようで、俺はノートを脇にさっさと退室した。
しかし、閉じた扉はガバァ!!と開く。
「ちょっと!! 好きって言ったのに、何その無反応!? 付き合うとかフるとか、潔くやってよ!!」
「いいのか? 100%フるけど」
「ダメダメ! それじゃあやっぱり、まだ返事いい!」
「んー」
鼻聲で返事を返すと、彼は部屋の扉をゆっくり閉じた。
……さて、俺も赤點予備軍から出しねーとな。
○
意外な事に、午前の件で俺の悩みはほぼほぼ吹き飛んだわけで、午後にやって來た一彌には申し訳ない事をした。
しかし帰すわけにもいかないので家には上げる。
「お前が居ると家が狹くじるわー。なんでそんな長高く生まれるかね」
「俺だってなりたくてデカくなったんじゃねーよ。あれ、居候ちゃんは?」
「死んだ」
「生きてるよっ!!!」
リビングまで來ると、頭姫は自室の扉を勢いよく開けて現れる。
聞き耳でも立ててたのか、中々早い登場だ。
呼んでもないのに出て來やがって……。
「ほら、コイツが噂の居候ちゃん。ファミレスで會っただろ? あだ名は穀潰しだから」
「ちょっと、テキトーな事言わないでよ! ごめんなさいね、君。利明がこんな調子で……」
「いいよ、俺も似たような人種だし。穀潰しちゃんも、そうなんだろ?」
「ッ〜〜〜!!!」
ポコポコと俺の肩を叩いて來る頭姫。
このノリの良さ、我が親友はこうでないと。
揶揄からかうのも程々にして、俺たちは3人で席に座る。
一彌と頭姫が対面する形で、俺は2人の中間というじだった。
「まっ、自己紹介からしようよ。俺は津久茂一彌つくもかずや。利明とは中學が一緒で、仲が良いのは見ての通りだ。趣味は資格取得と、勉強、將來は旅行で海外を飛び回りたいと思ってる。よろしくね」
白いインナーに水のチェックのシャツという、清潔ある組み合わせの服を著た一彌はニコリと爽やかに笑い、次どうぞと言うように頭姫へ手を向ける。
すると、頭姫も自己紹介をした。
「私は、浜川戸はまかわど頭姫みずきっていいます。何か凄い趣味は、これといってないけど、前は、テレビを見たり自由気ままに生きてました。利明とは、口では言えない関係です……」
「はいダウト」
頭姫の自己紹介は俺の言葉により一時中斷となる。
しかし、一彌が俺の顔面を鷲摑みしてそのまま倒された。
俺の発言は棄卻されたらしい。
「頭姫ちゃんか。可い名前だね」
「お前、ナンパしに來たんだったら帰れよ」
「何言ってんだ。俺は他人のに手を出したりしないっ!!?」
胡座あぐらをかいた足がちょうと毆りやすかったので、ももを思いっきり毆っといた。
やれやれ、誰が俺のか。
お前も顔赤くしてんなよ頭姫、こっち見んな。
「良い事を教えてやる。ここは俺の家だ」
『知ってる』
「故に、俺に発言権はあるし、俺のやることなす事にお前らは逆らえないのだ」
『それは無い』
口を揃えて否定された。
じゃあもう俺居なくてよくね?
「勉強して來るわ」
「それはダメだ。目の前にこんな可い子が居て、お前が居なきゃ俺、襲っちまうかもしれねぇだろ!?」
「今さっき他人のに手を出さないって言ったのどこのどいつだよ」
発言は許可されてないらしいからノートPCを持って來て作曲をする事にした。
朝のスランプは卻し、アイデアもポワポワ浮かんでいる。
一彌と頭姫の會話は片耳で聞いて居た。
主に俺の話だった。
中學の頃はどうだったのかと頭姫が聞き、逆に一彌は高校、私生活の俺を頭姫から聞いていた。
しかし、一彌は高校生にして會話のプロだ。
相手の仕草、顔つき、聲から心を読み取ると、本人は豪語している。
心――それはただのだ。
人の心なんてその時々で変わると言うように、心はの群集でしかない。
その心を読み取る事で一彌は、話し相手にどんな過去があったのかを大雑把に読み取る事が出來るんだ。
何が言いたいかといえば、一彌は頭姫のことを、危険なじゃないかテストしているのだ。
ぶっちゃけ危険じゃないと思うし、こんな事に意味はないと思うけど、一彌が自己満足してくれるまで、付き合おうとは思う。
まっ、俺會話にってないし、なんでも良いけど。
ふと一彌は、俺のかったるそうな顔を見た。
そのままじっと見てるので、真剣に見つめ返すと視線を逸らされた。
「なんだよ」
「いや、こんなののどこが良いんだろうな、って思って」
「はぁ? イケメンかつ秀才、若くして億の貯金を持つ萬能な男であるこの俺に、なんだって?」
「お前みたいな向いてなくて、結婚生活になると家族はほったらかし、金だけ渡しとけば良いやと思うようなクソ旦那に育つだろう男のどこが良いのか、って思ってな」
「よし、表に出ろ」
「待って待って」
頭姫が割って止めにったため、俺の怒りは不発に終わった。
失禮極まりないこの男と、頭姫は隨分仲良くなったらしい。
「お前らで付き合えよ。そしたら大団円だから」
「利明……表に出て?」
「おい、それさっき俺が言った言葉だから」
何故か笑顔で怒る頭姫に対し、あくまで冷靜にツッコミをれた。
なんだかんだで3人で雑談となり、作曲も勉強も、何もかも中途半端なのであった。
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