《ぼっちの俺、居候の彼》act.25/秋宮輝流
中學の晝休みは給食時間と別で、時間が長い上に食べた後だから外で遊ぶ生徒が多い。
なのに、俺と一彌、そして輝流の3人は屋上に居た。
解放されてないはずの屋上だけど、輝流が鍵を持って居たのだ。
「屋上の鍵なんてよく手にれたな」
「先生方と、しお話ししただけだよ。ちゃんと貸してくれたんだー♪」
はにかんで答える輝流に、俺はふーんと、どうでも良さそうに返した。
屋上にっていく俺の首を、一彌はむんずと摑む。
そして気持ち悪いことに、俺の耳元で何やら言い出した。
「おい、利明。いいのかよ、コイツは噂の男だぞ……?」
「いいも何もねーよ。友達は友達だ。輝流が俺を見て笑う、俺は笑顔を返す。それだけだろ」
「でもなぁ……」
「いいんだぞ、お前はクラスで勉強してれば。俺にはこの建が退屈だし、輝流とはウマが合うんだよ」
「……まったく」
やれやれというように、結局一彌も付いてきた。
男3人、晝休みでワーワーうるさい校庭をフェンス越しに眺めた。
「バカだよねー! あんなに必死になって力を減らして、この先なんの意味もないのにさ。それならまだ勉強でもしてたらいいのに」
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輝流はサッカーをしている、ここからだと豆粒にしか見えない同學年の男子を見ながらそう言った。
運は健康にいいが、そこまで激しくしなくても1日分の運はストレッチの繰り返しで事足りる。
生産もなく無駄ではあるが、それは俺らが理屈ばっか言ってるからだろう。
ていうか……
「こうやってそのバカを見下ろしてる俺たちも、相當ヒマだけどな」
「やる事ないからね。勉強なんて集団でやるより自分でやった方が絶対に集中するし、メリハリもつけられる。その事は、津久茂くんがよく知ってるかな?」
「あぁ……秋宮の言う事は正しいよ。でも、學校は社會を學ぶ場でもある。誰かと一緒に何かをして、話し合い、協調を養う。そのために俺たちは、わざわざこんなに広い敷地の建に住まわされてる」
「そうだねぇ……」
ギシッとフェンスがし撓ま(たわ)む。
輝流がその背を預けたのだ。
「……ボクは小學校、行ってないんだよ」
突如話し始める彼の言葉に、俺たちは耳を傾けた。
「家で漢字と四則演算、百マスの計算だけやらされた。あとはずっとパソコンいじってたよ。學校で習う理科、社會なんて役に立たない、それより報技を磨けって、父親にやらされたのさ」
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「でもお前、中學來てるじゃん」
「英語が始まったのと、一度學校がどんな場所か知りたかったから。英語の基礎も家で學ぼうと思ったけど、折角だから學校に來てみた。まさか、こんなに気持ち悪い場所だと思わなかったけどね。教師が黒板に文字を書き、それを生徒が板書する。殆どの生徒がそうだ、まるで機械の大量生産みたい」
「日本の教育はその大量生産なんだよ。どの學校も同じことやってる。けどな、殘念な事に、それはそれで1つの技なんだよ。みんなが同じベースを持つ。俺やお前にはないものだ」
「どうせ將來役に立たないベースを、ね。みんな同じだからいいや、なんて安心を持つと抜け出せなくて、可哀想だ……」
再びギシッとフェンスが揺れる。
輝流は俺の前までやってきて、そして抱きついた。
「やめろよ、男同士で気持ち悪りぃ」
「えー? いいじゃん、ボク達だけ一緒なんでしょ? 役に立たない知識を吸収せず、役立つ知識を蓄える。それでいいじゃん」
「…………」
俺は困り顔で一彌に目を向けるも、奴は両手を上げて首を左右に振った。
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コイツめ……友達を助けろよ。
「うわーっ、同年代の人に抱きつくのって初めてだけど、なんか安心するんだね! 不思議〜!」
「わかった、わかったから離れろ、キモいからマジで」
「まぁまぁ、そんな事言わずに」
「いやいやいや、こんな景を腐子に見られてみろ。間違いなく俺とお前でBL本書かれてしまう!」
「明星くんは絶対攻めだよね!」
「その発言、マジで許さねぇからな」
思ったよりも全然弱い彼を引き剝がすと、俺は漸ようやく落ち著く。
男の娘……それがこんなに厄介だとはな。
「お前、一彌にもやれよ。友達だろ?」
「えー? 津久茂くんは友達にした覚えないけど?」
「アイツもかなり俺たちに近いんだぞ? やってることが多技なだけで、一彌は一彌でスキルを持ってるんだ」
「ふーん……。まぁ、明星くんが言うなら友達にしてやらんでもないよ」
「…………」
一彌はし嫌そうに顔をしかめたが、輝流が彼の前に立つと作り笑顔に変わる。
「秋宮輝流です。よろしく」
そう言って輝流は、俺にしたように手を出した。
握手を求めるらかい白き指、一彌は笑みを見せてその手を摑む。
「津久茂一彌だ。よろしくな」
こうして一彌も輝流の友人になり、俺たちは3人で過ごすようになったのだ。
○
一彌は真面目な生徒なので問題ないが、俺や輝流は仕事関係でしょっちゅう學校を休んでいた。
もちろん出席日數は數えていたが、中學で退學はしないのであまり気にしていなかった。
というわけで3人揃う日は週に2回から4回、土日はまれに遊びに行ったりする。
遊ぶ――なんていうのは人によって変わる。
カラオケに行ったりボーリングに行ったり、俺たちの場合は工場見學に行ったり、大人と意見換に行ったりだった。
政治を知り、社會を知り、およそ中學生らしくなかっただろう。
しかし、やはりそこが普通の學生との違いなんだと思う。
輝流は親の會社でプログラマーとして働き、中學生が得てはいけない額をお小遣いと稱して得ているし、俺も曲の依頼がしはあって、高校生のバイト代ぐらいには稼げていた。
既に社會進出している。
知見を深め、大人やネットでも流し、意識高い系というやつになっていた。
チグハグながらもなんだかんだで仲が良く、輝流がボケるのを俺と一彌でよく制していた。
しかし、夏頃になって俺は気付く。
「おい、輝流」
わざわざ席を立ち、俺は輝流の席の前に立った。
ノーパソのキーを打つ手を止め、彼は俺を見上げる。
「どうしたの、利明くん? 僕に何か用?」
「お前、なんで育ある日全部休んでるんだよ」
そう、輝流は育のある日は全て欠席していたのだ。
それ以外の平日3日は大出席している。
なのに育があると、彼は忽然と姿を消すのだ。
ひ弱で運が苦手そうだし、みたいだから著替え中に揶揄からかわれるのが嫌だというのもわかる。
でも、來週からは水泳が始まる。
つまり、アレだ。
「俺、お前が海パン履いてるところ見て見たいわ」
「……ついにBLに走るんだね、利明くん」
俺は同者じゃないので元でバッテンを作り、否定する。
そうじゃなく、
「俺さ、お前がスーツ著てるのと制服著てるのしか見た事ねーんだよ。私服でもいいから見せろ、自分を隠すな」
「はぁ? ボクが自分を隠したって……何? 利明くんはボクのスッポンポンな姿を見たいわけ?」
「それはそれで面白そむがっ」
言い終える前に輝流は立ち上がり、俺の頰を摑んで黙らせる。
あんまりその辺をネタにすると怒るからな、コイツ。
「あのねぇ……。ボク達は學生で、所詮は大した事ない付き合いなんだよ。建設的関係とかそんなものはどこにある? 盟友なんてこの世界にはいない、滅びたんだよ、そういう重い関係は。誰1人としてボクは弱い姿を見せない。いつもと違うボクを見て、ボクを知って、そんなのは許さないよ」
「あんだとぅ。よし、拳で語り合おうぜ」
「弾戦とか野蠻だね。やってもいいけど、後日ごじつ君のもとには高額請求が飛ぶから」
「架空請求なんて無視するから」
「殘念、ちゃんと請求できるもの飛ばすから心配しないでね?」
目が笑ってなかった。
輝流はやるときはやる男、本當に億単位の高額請求を飛ばせるのだろう。
あんまり突っかかると冗談じゃ済まないので、この辺で話題を変える。
「そういえば聞いたか? 夏休み明けに転校生來るんだってよ」
「藪から棒に話を逸らすなんて、利明くんは本當に酷い人だなぁ」
「ハイハイ、悪かったですよー。……んでさぁ、なんか変じゃね? まだ7月になってねーのにさ、夏休み明けの転校生がわかるんだぜ?」
「親が早くから転勤先がわかるっていうのは、よくある事だよ。アウトソーシングとか単赴任とか、転勤の人は増えたからね。それで子供を引っ掻き回すなら、いっその事施設に預けちゃえばいいのに」
「親は自分の子だけが可いんだから、仕方ないんだろ」
「……違うでしょ?」
輝流はクスリと笑い、遠くを眺めながら呟いた。
「――自分だけが可い。だから自分の家族とか、そういう自分のモノで周りを固めるんだよ」
寂しそうな彼の瞳には、どこか憂いが見えた。
泣きそうな程細まった瞳、その奧には誰が映ってるのだろう。
いや、きっと彼の親が……。
…………。
「どこも家庭の事って複雑だよな。俺の母親も浮気しまくってて妹が父親のを引いてねぇ。大人ってのはクズしかいねぇよな」
「……あはっ。今まで工場見學とか対談とかしてきたのに、そんなこと言うの?」
「言うよ、人ってそんなもんだ。そして大人がクズだから子供も俺みたいなクズに育つ。それで世の中うまく行ってるんだから不思議だよな」
「……。……そうだね」
輝流は再び席に座り、頬杖をついて下を見ていた。
何かを見ているわけではない、見る場所がないだけだ。
俺は何も言えず、黙ってしまう。
ちょうど休み時間も終わりそうだったので、俺は席へと戻った。
△
「プールに行こーっ!」
とぼとぼ歩く帰り道、今日は俺と輝流しか居ないのに、そんな事を言ってきた。
男2人でプールに行くなんて気持ち悪い話だが、運なんて無駄としか言わない彼がうからには、何かあるんだろう。
だから斷る事なく、俺は頷く。
「別にいいけど、急にどうしたんだ? プールなんて、泳ぐ機會なら水泳でいくらでもあるだろ? まさか泳げないのか?」
「うるさいなー……。君にボクのを教えてあげようと思ったけど、やめちゃおうかな?」
「男同士のとかいいねぇ。熱く拳で語り合おうぜ」
「だーから、君はいつもそういうバカを言うよねー。特に真面目な話に限ってさ」
「真面目な話だったか?」
「そう。だからちゃんと聞いてよ」
「おう……」
真面目な話らしいので俺は黙り、彼の言葉に耳を傾けた。
とはいっても、遊ぶ約束をするだけだが。
「今週の土曜、駅前集合ね。時間は朝7時。財布に3萬円ぐらい持ってくること。わかった?」
「プール行くのに3萬か。雲行きがあやしいな」
「ボクとデートするんだから、3萬は安い方でしょ?」
「男同士でデートとか言うなよ。真面目な話じゃなかったのか?」
「真面目な話だよっ! ていうかさ、もう夏服じゃん! 半袖じゃん! 気付かないわけ!?」
「あー?」
輝流は俺の目の前に躍り出て、どうですかと言わんばかりに両手を広げて全を見せようとしてくる。
なんだコイツ……頭がおかしくなったのか。
「腕ほせーな」
「利明も細いだろーがっ! そうじゃないでしょ!? なんでわかんないのマジで!」
「いや、そんな事言われても知らん」
「……くっ。ボクはまだ長してないのか!」
長って何が?
とか思ったところで、俺はやっと、輝流がプールに行こうと言った意味を理解した。
そうか、男用競泳水著とかはも隠せるけど、普通は著ないし、著てても輝流なら子と間違えられる。
いや――実際子なんだ。
「……その全て分かったような顔、無に腹立つんだけど」
目の前の輝流は笑顔で拳をチラつかせて俺を威嚇する。
全て分かったような顔って、どんなだよ。
「いいじゃん、お前が言わんとした事は理解したし」
「そう、なら良かった。利明なら賢いから、分かってくれると思ってたよ」
輝流は両手を下ろし、気疲れからかため息を吐き出した。
それから一呼吸置いて、彼は俺の事をビシッと指差し、男らしくこう言った。
「とにかく、詳細は土曜日に話す。逃げるなよ!」
若干慌てながら言う彼の表も聲も、全て的だったので俺は苦笑するのだった。
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