《ぼっちの俺、居候の彼》act.28/The hand
黒針には、いろいろよくしてやったと思う。
彼は転勤族だから友達が作れず、転校するごとに忘れ去られる自分が幽霊みたいだと思ってたらしい。
人の心に殘って居たい――その一心で人の心を支配したと語ってくれた。
そんな事より本當の友達を1人でも2人でも作れ、そうすればネットでも繋がってられるしいつでも仲良く居られると、彼に告げたんだ。
彼は普通に友達を作るようになった。
そこで俺は離れるつもりだったが、彼は俺を離さず、仕方なく俺は友人として過ごしてやって居たんだ。
そして2年が終わるその時――黒針から告白をけた。
「……つってもなぁ」
付き合うとか人とか、俺にはわからない。
それに津月や輝流の事も考慮すると、俺はどうしたらいいかわからず、返事は保留にしっぱなしだった。
「…………」
今日も空が青い。
無音の世界で見つめる空は良いもんだ、俺ごときの悩みなんてちっぽけに思える。
春休み、俺は川原で寢そべって居た。
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車も通らず、ゆったりとした時が流れている。
なのに、俺が見上げる空はって視界にの子の姿が見える。
「……曲がった人生だね、利明くん」
「ついに他人のGPSを勝手に見るようになったか、輝流」
「いつもの事だよ」
「普通に犯罪だからな、それ」
現れたのは輝流だった。
しかも、初めて見る姿だ。
いつも男裝のくせに、今日は白とピンクのワンピースを著ている。
フリルのついたロングスカートが風で揺らめき、パンツが見えないかと下から覗けば、輝流に頬を踏み付けられる。
「痛い、マジで痛い」
「の子のスカートをそんな風に覗こうとする変態には、このくらい當然でしょ?」
「その天使の笑顔は素敵だけど……あっ、今日は白なんスねぐごっ!?」
パンツのを口にすると、足に掛かる重が重くなる。
ぐうっ、酷い……。
「はぁっ……。利明くんは変わらないね。黒針に洗脳されたらどうしようかと思ってたのに、君は自我が強過ぎるよ」
嘆きながら足をどけ、倒れる俺の隣に腰を下ろす輝流。
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俺は痛む頬をさすりながら座り直すと、輝流はニコニコと笑う。
今日はご機嫌なようで何よりだ。
「ねぇ、利明くん。なんで今日、ボクはこんな格好してるかわかる?」
「知るかよ、そんなもん」
「君にね、の子として見てしかったからだよ」
「…………」
はにかんで笑う彼の頭に、ポンッと手を乗せる。
バカな奴だ、そんな事しなくたって――
「お前の事はずっとだと思ってるよ。プールで話し合った、あの日からな」
「……違うんだよ、利明くん」
「……?」
何が違うのか――そう訊く前に、彼は俺のを塞いだ。
他でもない、彼自ので。
數秒間、また靜寂が訪れる。
俺たちの距離はゼロで、そっとは離されても、彼の手は俺のを摑んでいた。
視線が差する。
彼の目は潤んでいて、その奧には熱いが見え隠れしていた。
「……ねぇ、利明。ボクはね、君が好きなんだよ? それなのに、君は黒針ばかりに目をやってる……。君は黒針に騙されてるんだよ? アイツは君と友達で居たいんじゃない、人になりたいんでもない。ボク達に復讐したいだけなんだ……。黒針はボクがだって認識してるし、ボクが君を好きなのも、きっとわかってる。ボクから君を取り上げようとしてるだけなんだ。だから、だから……戻ってきてよ、利明……。ボクだけのに、なってよ……」
再度彼は俺のを奪う。
甘くらかい。
暖かくて、優しくて、彼の想いが口を通して伝わるようだった。
とても深いだ、溺れてしまいそうになる程深く彼のに沈められる。
でも、俺はまだ選ぶ手前だから。
今は居ない津月、輝流、黒針……。
だから、先駆けてお前だけのにはなれない……。
「ごめんな……」
俺は優しく輝流の事を抱きしめた。
誰かを選べば選ばれなかった奴らが傷ついてしまう。
でも、選ばなければさらに傷付く対象が増えていくだけ、そんなこともわかってる。
だけど、俺には重かった。
一人ぼっちな黒針。
男として生きてきた輝流。
夢を追い、10年ほど俺を好きで居てくれる津月。
この中から1人を選ぶこと、それは深刻な悩みだった。
だから――
「まだ、選べない」
そう輝流に告げると、彼はフフッと笑った。
「……利明くんは、いつもそうだからね。いいよ、君が選んでくれるまで、ボクは…………」
寂しげな表を浮かべながら、輝流は顔を俯いて、そのまま立ち上がり、どこかへ向かって行った。
その足取りは重く、に余る十字架でも背負っているようだった――。
×
4月になってから、俺はずっと上の空だった。
春なんて來なくていいのに、俺の周りにはが2人居た。
しかもその2人は津月の存在を知らず、お互いをライバル視してる事だろう。
いつまでも選べない俺が悪いんだろうか、そうなんだろうか?
「――――――――――」
「――――――――――」
「――――――――――」
クラスの中、輝流が目の前で何かを言って居た。
いつもならわかるはずの言葉が理解できない、何故なんだろう。
何かを必死に訴えていた、でも俺は気にならなくて――。
それから1週間、俺はずっと上の空だった。
そして――俺の心が蘇ったのは黒針が転校した後だった。
急な転校だった。
前日に教師からは通達もなく、居なくなってから知らされたんだ。
その日は久し振りに一彌や輝流の言葉が理解できた。でも、何でだろう――彼らの笑顔が、ツクリモノにしか、見えなかった。
その日の放課後、俺は先生に呼ばれた。
そろそろ進路を決める事だし、1回は話しておかないといけない――なんて軽い気持ちで行ったから、俺は痛い目にあったんだ。
「――黒針の家が一家心中したそうなんだが、お前、何か知らないか?」
ドクンと、心臓が嫌な響きを立てた。
転校――それは死を隠す噓で、その真実は一家心中。
何故――そんなの、口にするに及ばなかった。
「――なんでも、多額の借金が出來たと書に書かれてたそうなんだ。お前、黒針と仲良かっただろ? それにさ――
――秋宮とも、仲良かったよな?」
先生のその一言が、俺の全てを崩したのだ。
俺が悪かったのだろうか?
2人のうち、どちらかを選ばない俺が……全部、悪かったのだろうか……。
答えは聞かないとわからない。
だから、俺は――
×××
「――屋上が開いてたら、わかっちゃうよね」
夕焼け空を見ながら、輝流は呟いた。
西に沈む大きな黃い塊は世界を赤く染め、俺たちは夕日を浴びながら向かい合って居た。
「……お前が、黒針を死に追いやったのか? お前はパソコン1つで人に多額債務を與えることができる。それでお前は――」
「そうだよ。君がボクを選ばないから……だから死んだんだよ」
クスクスと笑いながら、彼は答えてくれた。
目の前にいるのは、から悪魔へと変わった。
「あははっ。今時、スマートフォンでネットを使わない人はいない。しかもそれがものすごいパケット料金になっていることも気付かなでさ……。設定1つ変えちゃえば、攜帯會社が抑えてる料金は全て払わなくちゃいけなくなるのに」
「……それだけなら數百萬なはずだ。それだけじゃねぇんだろ?」
「うんっ! 今のは簡単な例えだよ? しかもね、攜帯會社さんが調べるケースが多いから殆ど使わないしね。自分から解除する人ないし。だからね――別の事なんだけど、數千萬の借金を背負ってもらったんだ。凄いでしょ?」
俺は生まれて初めて殺意が湧いた。
ほとんどコイツが殺したのと同じじゃないか。
しかも、ただ敵だっただけなんだ。
そんな理由で……人を殺していいのかよ?
「ねぇねぇ、もう君にはボクしかが居ないんだよ? ボクと付き合ってくれるよね? えへ、エヘヘヘヘ、えへへへへへへへ?」
――狂ってる。
そう思わざるを得なかった。
不気味な笑いを続け、見開いた瞳が俺を見つめ返す。
俺は、勘違いしていたんだろうか。
コイツは中學にった當初、教師を3人も辭職に追いやっている。
人を殺したって、何も思わない奴なんだ。
「ねぇ、キスしようよ。あの時みたいに深くさ、ねぇ、ねぇねぇねぇねぇえええ」
「ふざけるなよ」
輝流の言葉を、俺は一蹴した。
狂気に染まった顔は驚愕に変わり、彼は聲も無いようだった。
「俺は、お前とは付き合えない。いや、お前の事が嫌いだ」
「……そんな、なんで! 邪魔者は居なくなったんだよ? あとはボクしか殘ってないのに!!」
「そういう事じゃねぇだろ。俺は、他人を不幸にして平気で居られる奴と一緒に居たくない。ただ、それだけだ」
もはや話す事もない。
俺は踵を返し、屋上を去ろうとした。
だが輝流はダッシュで駆け寄ってきて、必死に引き止める。
「ま、待ってよ……。手、手を繋いで! 一番最初に出會った、あの時のように!!!」
「…………」
ふと思い出す。
コイツと初めて會ったときの事だ。
――……ビジネスマナー。握手だよ。握って?――
――友達同士にマナーも何もねぇよ。でも、そうか。握ってしそうだから握ってやる――
――うんっ――
あの時は、握ってしそうだったからと握ってやった。
だけれど――俺は、輝流がばす手を無視し、そのまま階段を降りるのだった。
何がいけなかったのだろう。
選べない俺が悪かったのか。
それとも、學校になかなか通えず、モラルが低かった輝流が悪いのだろうか。
俺にはわからない。
今でも、ずっと――。
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