《ぼっちの俺、居候の彼》揚羽ルート/ピュア・ガーネット
小學6年生の頃、急に兄さんが私の事を過保護になった。
どーせツッキーと結婚するんだろうなって思ってたけど、そのツッキーより大切にされて、私は嬉しかった。
でも、それには何か理由がある。
だから私は調べた。
兄さんがなんで私を大切にしてくれるんだろうって、単なる好奇心だ。
それで見つけてしまったんだ。
DNA検査の結果通知書――私と兄さんは半分しかが繋がってなくて、お母さんは浮気をしていて……。
お父さんが最近冷たいなと思ったら、そう言う事なんだろう。
私はお父さんとが繋がってなかったんだから。
幸いにも私達はお母さん似で、兄さんと私は顔がそっくりだったからこの先私が気付く事はないと思ったんだろう。
誰も本當の事を言わない。
が繋がってない事実を、私は問いただしたかった。
でも――
兄さんが私を守ってくれる。
兄さんは優しいから、いつだって私を守ってくれていた。
だから今回の事も私は兄さんを信じて、ずっと黙っていた。
中學生になって、兄さんにとって悲慘な事件が起きた。
真相は私にも話してくれて、私は兄さんをめてあげたんだ。
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それでも、輝流って人が兄さんを恨んでるなら、またやってくるかもしれない。
私を守ってくれる兄さんに変わって、株を始めた兄さんの裏で兄さんを守れる人を探した。
ハッカー――それも腕利きの人がいい。
そしたら丁度、同級生で日本済みのロシア人が協力してくれると言う。
兄さんのハンドルネームを知ってるとかファンだとか、そう言う事だった。
彼には家の回線を見てもらうことになる。
母さんが癌で院すると、兄さんは私を置いて1人で暮らすと言い出した。
最初は、捨てられたんだと思った。
でも偶然、一彌さんと電話しているのを聞いて、そんな想いは消え去る。
《お前、一人暮らしするって……揚羽ちゃん置いてくのかよ?》
「今は仕方ねーんだよ。揚羽と親父が仲良くなるには、2人の時間が必要なんだ! それでもし親父が揚羽を捨てたら、俺が揚羽と一緒に暮らす。金ならあるし、絶対大學まで出して、幸せな人生を歩んでもらうんだよ!」
《お前が居ないで幸せになれるのか?》
「じゃーお前が居てやれよ。揚羽、お前の事好きっぽいし」
《そんな理由で付き合いたくねぇ》
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「はー? 付き合えよ。俺をお兄様と呼べ」
《お前俺より生まれ遅いだろ》
途中からバカな會話になっていたけど、私には十分だった。
兄さんの想いもわかるし、私しかお母さんに付いてあげる事もできそうにないのなら、私は私の役目を果たす。
私にとって、たとえ腹違いでも兄さんは兄さんで、は繋がってなくてもお父さんはお父さん、浮気をする人でもお母さんはお母さん。
兄さんの分も、私はお母さんに付いてあげていた。
まだ私達は家族だったんだ。
お母さんとは思い出話や、好きなテレビとか俳優さんとか、そんな話をしていた。
こうして、お母さんを幸せに逝かせてあげなくちゃいけない。
兄さんは嫌いかもしれないけど、私はお母さんを捨てきれなかったから。
浮気相手の人とも出くわすことがあった。
真意を聞いてもはぐらかされて2度と來なくなったけど、それでもいい。
兄さんの思通り、私だけがお母さんに寄り添っていた。
兄さんのいる高校に學して、オリガと実際に會って話して、お互いの今後について話した。
まさか、私を生徒會にらせるなんて思わなかったけど、それも兄さんのためになったんだろうか。
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なんでか知らないけどぼっち生活を好む兄さんの後ろ盾になりたかった。
兄さんに守られるだけの私じゃない。
私も兄さんを守るって、決めたんだ。
○
それは6月の事。
私は兄さんを嫌いなフリをしなきゃいけないから、晝休みにを壊しに來た時の事。
その日は兄さんの目が死んでいて、私の手は止められた。
「なぁ、揚羽。俺はさ、本當にってものが信じられなくなって來たのかもしれない。なんなんだよ……どいつもこいつも……。いつまでもガキの振る舞いをしてれば気が済むんだ」
「……何それ? 例の居候ちゃんの話?」
「それと津月だよ。なんであいつこっちに來たんだ? お前は理由を知ってるんだろ?」
「…………」
私は口をつぐむ。
理由は知ってる――と言っても、兄さんが好きだから、この街に戻って來たに過ぎない。
この高校は地元ながら勉強してない兄さんでもれる優良都立高校、戻ってくるのはわかっていた。
でも、そこには輝流さんが一枚噛んでるのかもしれないし、一概にはなんとも言えない。
「……さぁ、私にもわかんない。兄さんの事が好きだから、戻って來たんじゃないの?」
そっけないくそう言って、私はブリックパックの牛を飲んだ。
そうすると兄さんはふてくされて空を仰ぐ。
「やっぱって信じらんねぇ。依頼だけくれればいいんだよ、もう知らん」
「兄さんは無駄に優しいから手玉に取られるんだよ。居候なんかと暮らしてないで、さっさとうちに帰って來ればいい。そうしたら、私も嫌がらせしないよ?」
「ヤダね。母さんが死ぬまでは帰らねぇ」
「…………」
私は歯嚙みをして、兄さんの機を倒した。
ここまでする理由なんてない、私が怒ったわけでもない。
でも、私はお母さんを好きでいなきゃいけないから、その演技は怠らなかった。
「……兄さんは、どうしてそこまでするの? 私達兄妹を育てて來れたお母さんなんだよ? あの人は家を開ける事が多かったけれど、ご飯は作って來れたし、家事も毎日やって來れた……。何がダメなの? 何が悪いの? 兄さんはがわからないって言ったけど、私には兄さんがわからないよ……!」
悲痛な聲でぶ。
兄さんは誰にでも悩んでくれる優しい人で、頭姫さんやツッキーの事で悩むのも仕方ないのはわかっていた。
でも、私はこうして演技をして、兄さんを騙さなきゃいけなかった。
だってそうしないと――兄さんが私のことにしてくれた事を、全部崩してしまうから。
「……私、まだ兄さんのこと、信じてるから。兄さん、昔から優しかった……今でも人の事で悩んでる。だから……」
そう言い殘し、私は教室を飛び出した。
一通り廊下を走り抜けて、フラフラと歩く。
気付けば、両目からポタポタと涙が溢れていた。
また私は、ひどい事をしてしまった……。
兄さん……私は貴方が大好きなのに――!
「信じて、るんだよっ……!」
ずっとずっと兄さんを信じてる。
兄さんが私に與える優しさや厳しい態度、それは今まで私を裏切ったことはなかった。
こういう事でしかお互いを大切にできなくても、いつかは報われるって信じてる。
だから、今は泣かせてほしい。
「ツッ……くぅ……!」
膝をつき、両手で顔を覆った。
とめどなく溢れる涙は指の隙間からこぼれ、冷たい廊下に落ちていく。
お母さんが起きなくなって、これから最後の戦いが始まる。
だから、私もき出したんだ。
ずっとずっと耐えて來た。
兄さんとお互いに泥を塗りあって、お互いを壊さないギリギリを保ってきた。
そう――今日この日のために――。
○○○
俺は、揚羽の言葉をずっと聞いていた。
小6から始まり、俺が高校に學してからの事を話す頃には涙が止まらなくなっていて、気付けば俺も泣いていた。
涙を流すなんて、いつ以來だろうか。
黒針が死んだと知っても泣かなかったのに、どうして今になって俺は泣いてるのだろう。
「……にいさん。私達、不用だよ……。ずっど、演技ばがり……。私……私っ……!」
涙聲で、掠れた聲で、俺に訴えながら抱きついてくる。
らかく、小さなだった。
それは紛れもなく俺の妹で、俺も優しく抱き返した。
こんな小さなに、重い責任を押し付けてしまった。
俺がなんとかするつもりが、揚羽に重い荷を背負わせてしまっていたんだ。
こんなに小さいなのに――。
「ごめんな、揚羽。俺がなんとかするつもりだったのに……ずっと、辛い思いをさせてしまった……」
「違うのっ……私が兄さんをずっと1人にさせちゃった……。兄さんはっ、私を思って家を出て行ったのにっ……。なのに私はっ、兄さんを傷つけてばかりでっ……!」
「俺だって、お前をずっと傷付けてた。お前の気持ちに気付く機會はあったはずなのに、俺は……兄貴失格だよ。本當に、悪かった……」
抱きしめる力が強くなる。
申し訳ない気持ちはいっぱいに広がっている、でも……。
俺の事をずっと心配してくれていた、それだけで俺は嬉しい。
そして、こうしてお前を抱きしめられることが、こんなにも嬉しい。
だからさ……
「また兄妹として、生きていこう。もう演技は必要ない、そうだろ――?」
「うんっ。だって私達――」
――世界でたった1つの、兄妹だもんね――
揚羽は屈託のない笑顔で答え、俺も笑うのだった。
裝飾曲はもうおしまい。
これから先は兄妹で譚詩曲バラードを奏でていこう。
家族で、また笑い合って――。
◎◎◎◎◎
期末考査が返ってきた。
だいたいは赤點ギリギリでクリアし、俺はしばらく頭姫先生に頭が上がらないだろう。
あの出來事から2週間――母親の葬式も終わり、久しぶりの帰省も終え、再び始めた頭姫との同棲も、今では割と落ち著いていた。
これが本當に、やっと落ち著いてきたのだ。
順を追って話していくと、まず、輝流はあの後2度と俺に近寄らない事を約束し、今後はオリガが彼の行を監視するらしい。
今回の件で完璧にアイツをフッたし、もう関わってくることもないだろう。
津月は揚羽と話し合い、誤解が解けて俺と頭姫に謝罪した。
俺は気にするなと言ったんだが、彼はすっかりしょぼくれてしまい、関係回復には時間が掛かりそうだった。
母親の葬式の後、俺は1週間ばかり実家で過ごした。
親父と揚羽は仲良くしているようで何よりだし、久し振りに家族3人で馬鹿騒ぎをした。
そして今が期末考査も返ってきて夏休み直前。
――ジリリリリリリリッ
「うるせぇ!!!」
ガチャンッ!!!
見慣れたマンションの一室、俺は揚羽により取り替えられた新しい目覚ましをブッ叩く。
青くてシンプルなデザインの目覚ましは黙り込み、叩けば言う事を聞く良い子だった。
を起こそうとすると、今日も腕に引っ付いた頭姫を引き剝がし、すっかりポスターもお札もなくなった壁を見向きもせず、俺はリビングに出た。
「あ、おはよー兄さん」
リビングには既に明かりがついており、制服の上からエプロンを著た揚羽に出迎えられる。
彼はコンロの前でフライパンを持ち、俺の方を向きながらも箸をかしていた。
「おーっす……。朝はえーな〜……」
「私、朝練あるもん。ほら、顔洗ってきて」
「お前はカーチャンかよ。ったく……メシなら俺が作るってのに」
「兄さんは彼が出來るまで、手料理を封印するべきなのっ! ていうか、また頭姫さんと一緒に寢てたよね!?」
「いや、そんな記憶はない」
寢る前は橫に居ないし、朝起きたら毎回橫で寢ててホラーな頭姫。
名前+さん付けで呼ばれるあたり、揚羽も頭姫と打ち解けてきたようだ。
「まったく……私がここに住み始めたからには、兄さんに不純な真似はさせないんだからね?」
「してねーからな、不純な真似。つーか、結局お前、親父と暮らしてねーじゃん。俺の苦労を返せ」
「えー? だったら兄さんが実家くれば? 頭姫さんも連れてきていいし、なんならツッキーも居候させちゃう?」
「お前、結局俺に子2人ぶつけんのかよ。トラウマ再発させんなって」
「私含めて、3人でしょ?」
「妹は対象外だから。それにお前、一彌好きじゃなかったっけ?」
「…………」
「のわっ!?」
揚羽はフライパンの上から炒め中のキャベツを1つ摘み、俺に投げてくる。
なんとか避けたが、食べまで武にするとは……!
そんなわけで、揚羽も今では俺と一緒に暮らしている。
寢室は俺の部屋に布団を敷いて寢ているが、いつも目覚ましが鳴るより早く起きていて俺が起きる頃には既に布団はない。
こんなに出來た妹を持って、お兄さんは幸せです。
「ほら、顔洗った洗った!」
「はいはい」
揚羽に促されるままに俺は洗面所へと逃げていく。
バシャバシャと顔に水を掛けながら、ふと疑問が思い浮かんだ。
揚羽はダンス部の一年生リーダーだが、中學では育會の運部に所屬していたのに、なんでダンス部なんだろう、と。
……まさか、アレか?
俺は顔を拭くと、再びリビングに戻って、味噌を作る揚羽に問う。
「なぁ、揚羽。お前がダンス部なのってさ、もしかして……」
「ん? あぁ、覚えてる?」
「一応、な」
このけ答え、どうやら正解らしい。
俺と津月と揚羽、それぞれできることが違う。
俺は作曲、津月は作詞と歌唱。
そして、揚羽は踴る。
それこそ蝶のように――。
「……輝流や津月と話す前にさ、お前に曲を作ってたんだ。絶対仲間だと思ってたし、なんか禮がしたかったからな」
そう言って、俺はUSBメモリをポケットから取り出す。
揚羽は一瞬嬉しそうにするが、鍋と橋を持つ自分の手を見て苦笑した。
「えー? 今手が離せないから、テーブルに置いといて」
「いや、それならワイシャツのポケットにれといてやる」
「それだとるじゃん! 兄さんの変態!」
「兄妹で何を……。というか、罵るのは変わんねーよなぁ……」
やれやれとため息を吐き、俺はUSBをローテーブルの上に置いた。
するとカチンとコンロの火を切る音がして、また揚羽の方を見た。
彼も俺を見ていて、俺に箸を向けて命じる。
「ほらっ、朝ご飯できたから頭姫さん起こしてきて」
「妹にあごで使われるなど俺のプライドが許さな……」
「兄さんの蔵エロフォルダのパス、私は知ってるんだよ?」
「!!?」
俺の聖域サンクチュアリの暗號を知ってる……だと?
そうか、オリガだな……人のプライバシー踏みにじりやがって。
「というかそんなフォルダまで作ってるくせに、よく頭姫さんを襲わないよね。その點は誇っていいよ?」
「アレだから、頭姫はとして見てねーから」
「じゃあ、ツッキーは?」
「どう見てもが男じゃん」
「うわー……今のツッキーに言っとくよ」
「やめい」
「いいから、さっさと起こしに行く!」
何もよくないが、揚羽には勝てそうにないので逃げることにした。
最後まで寢てる居候を起こすために。
昔からいろいろあったけれど、思い巡って辿り著いた今、また3人が揃っている。
頭姫や一彌も居るが、これからの時を楽しく生きよう――。
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