《ぼっちの俺、居候の彼津月ルート/のぼせるほど熱い

あの一件以來、津月は俺らによそよそしくなってしまった。

もう終わった事だから気にしなくてもいいのに、どうしたもんかと揚羽に相談すると、

「ウチに泊めちゃえば?」

とのこと。

既に頭姫と揚羽が居るし、今更1人や2人増えても構わんが、4人も寢泊まりするスペースは無い。

仲良くなるには近くに居て一緒に遊ぶのが一番だけど、一緒には住めないしな……。

そういえば、津月も今は一人暮らしだと言っていた。

ウチは頭姫と揚羽がいて3人、津月の家は1人……それなら2:2でよくね?

「というわけで」

よく晴れた夏休みの空の下、俺は目の前に立つ揚羽と頭姫に向かって言葉なに――なにも何も、「というわけで」としか言ってない――説明した。

2人は親父の車に積まれた荷を見て、なんとなくは事を察してくれたらしく、顔が引きつっている。

「……兄妹のよしみで、一応聞いてあげるよ。何が「というわけで」なの?」

「俺、暫く津月んちに泊まるから」

「……それ、ツッキーに言った?」

「言ってねーよ。ベリベリナイスなサプライズだろ?」

「うん、死んだほうがいいよ」

と、妹は笑顔でおっしゃっております。

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頭姫の方は苦笑していたが、夏休みも暇で揚羽とよく出掛けてるし、この2人を殘しても大丈夫だろう。

それに……やっぱり俺が行かなきゃだし、なぁ……。

「……じゃ、行くから」

パタンと車のバックドアを閉じ、揚羽と頭姫に手を振った。

2人は俺に手を振り返し、笑顔で見送ってくれた。

助手席に座って數分、不意に親父が問いかけてくる。

「お前、に苦労してるなぁ。俺なんて全然モテなかったのに」

「親父より有能だからな」

「ハハッ、返す言葉も無いよ」

「…………」

笑い飛ばしていたが、それ以降の會話はなかった。

また家族3人バラバラか――そう思ったが、心はバラバラじゃないし、大丈夫だろう。

さらに3分後、オリガから聞いた津月の居るアパートに到著した。

間取りは1DKだと聞いたし、間取り図もある。

ダンボール3つ分ならなんとかなるだろう。

俺は津月の借りている部屋――表札に南野と書かれた家を探した。

その2文字を見つけると、俺はインターホンを押す。

ボタンを押してから數秒後気怠げな津月が私服のまま現れる。

「はーい……!?」

「よぅ」

勢いよく閉ざされる扉に、ギリギリ足を挾むことができた。

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指もれ、力は俺の方が強いからそのまま玄関を開く。

津月は元が見えそうなほど襟のびた服を著ていて、お子様みたいだな――なんて思っていると、そのお子様は不満そうに言った。

「何しに來たの?」

「泊まりに來た」

「……は?」

「數日ホームステイするから、よろしく」

「いやいやいやいや」

俺は津月を無視してダンボールを1つ持って家に上り込む。

ウチの玄関より狹いが、2人並んでもなんとか通れる。

「ねぇちょっと! 何勝手に上がってんの!?」

「うるせーな。泊まりに來たっていいだろ? それともダメなのか?」

「いっ、良いけど、嬉しいけど、でも……」

津月は顔を渋らせ、黙ってしまう。

の寂しげな表を見て、俺はダンボールを置いた。

「……だから、気にすんなって言ってんだろ。俺がお前に隠してたんだから、しょうがねぇじゃん」

「……だって、おばさんの浮気を知らなかったとはいえ、とっしぃーを殺そうとしたんだよ……。私、この聲が怖いよ…………自分の聲なのに……」

「何言ってんだよ。あの時、俺に死ねって言えば、それだけで俺は死んだんだ。それに、お前はしっかりその聲をコントロールしている。信頼してるんだよ。そうじゃなきゃ、泊まりになんてこねぇから」

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「でも……」

「でももだってもねえ。客が來たんだぞ!メシぐらい出せ!」

「おっ、橫暴だよ!!」

強く言いつけると、さらにこまる津月の

困るなぁ、こういうの……。

俺は津月の肩を持って、引きつけてから抱きしめた。

小さいだしもないけど、人の事を想ってくれる強い子の

津月は俺に抱きつかれると、「うっ……」とだけ言って、聲も出ないようだった。

「……お前が元気無いと、調子狂うんだよ。アイドルだろ、笑顔を振り撒け」

「で、でも……」

「でもは2回もいらん。お前が離れようとするなら俺は近付く、つーか住む。この街に戻って來たからにはお前を絶対逃さねぇ」

「…………」

かなり無理のあるやり取りだった。

津月が俺に不法侵といえば、青い帽子かぶった怖い人に俺は手錠を掛けられるだろう。

しかし、そんな事にはならない。

「……ほんと、利明はバカだよね」

津月は罵りながらも、その聲は嬉しそうだった。

俺のにも彼の細い腕が回る。

「そんな事言われたら、一緒に居るしかないじゃん……」

その暖かな言葉は優しく俺の耳に屆き、さらに抱きしめる力を強めた。

俺も抱きしめ返す。

懐かしい思いと共に、小さなを抱きしめ続けた。

○○○

「狹い」

「文句言わない! っていうか、一人暮らしが前提だったんだし、仕方ないじゃん」

津月の家にて、スピーカーやらパソコンやら、作業環境を整えるとそれだけで1畳埋まり、俺もいれて2畳。

1DKの洋室8畳に、俺と津月は居た。

既に2畳ほど津月ので埋まった部屋は、ベッドでさらに2畳埋まって、俺が布団を敷くスペースはギリギリ確保できる。

「ダイニングに移すね?」

「頼むわ……」

津月がぬいぐるみとかカバンとか、いつも使うわけじゃないを移させる。

いきなり押しかけるのは迷だな、みんなは絶対真似しないように。

「貯金2億ぐらいあるのに、居候までを落とすとは……人生何が起こるかわからんな」

「これからはとっしぃーが家賃払ってよね」

「それぐらい構わんけど」

「料理もするように」

「お安い用」

何かと押し付けられ、今晩の夕食を作ることに。

冷蔵庫の中は整理されており、野菜もも揃っていた。

ガサツななのに生活があるし、そもそも部屋が割と片付いていた事を思い出すと、以外に綺麗好きなことが伺えた。

とまぁ意外な一面を知りつつ、俺は料理を作り、2人で食べた。

味しい味しいと笑顔で言う彼を見て、俺も笑う。

顔が可いのは昔から知っていたが、改めて見ると可いとか、仕草もっぽかったり、私服で鎖骨が見えたり、なんというか……

「そそる……?」

「え?」

「いや、なんでもない」

自分で発した言葉を否定する。

合ってるかどうかわからないし、何より、こんなペタンコした暁には……。

しかし、一部の業界では貧もステータスと言う、巨は正義だという世間一般の認識は合ってるのか……?

「……どうしたの、難しい顔して?」

「難しい顔なんてしてねぇよ。こんなどうでもいい事で難しい顔したら死ぬわ」

「???」

津月は訳がわからないという顔で俺を見ていた。

俺も訳がわからなかったので、黙々とメシを喰らうのだった。

「初日から飛ばし過ぎじゃね?」

俺は風呂場に突撃してきた津月に向かってそう言った。

頭姫が風呂場に突撃してきた1ヶ月ほど前だと、俺はまだを洗う前で全だった。

しかし今は湯煎に浸かっているので、大事なところは見えていない。

津月もスク水なので、問題はなかった。

「飛ばすって何が?」

なんでもないように、ツーサイドアップを解しながら聞いてくる。

するりとリボン付きのヘアゴムを外し、腕にはめる彼

スク水なのに恥ずかしいのか、顔がし赤くなっていた。

「……一緒に風呂とか、そういう歳じゃないと思うんだけど」

「嫌なの?」

「嫌な男はいねぇ。でもな、お前はそれでいいのか……って言うのは失禮か。ずっと俺が好きなんだし……」

「ふふーん♪ じゃあイイね♪」

 シャワーヘッドを持ち、を洗い出す津月。

スレンダーなつきだが、目の前で生足とかを見せられるのは男にとっていろいろとやばいものがある。

急速にのぼせていくのをじるが、それに構わず津月は湯煎にってきた。

アパートの湯煎は狹く、津月が俺の足の上に座ると、ザザァッとお湯が出ていった。

「とっしぃー、當たってるんだけど……」

「お前が上に座ってんだし、當然だろ。つーかエロ漫畫みたいな事言うな」

「言いたかっただけでーす☆」

く高い聲で言うと、津月は甘えるように俺のに背中をくっつけて、頬と頬を合わせた。

「えへへっ、あったかーい……」

「お前は子供か……。マジでそろそろのぼせそうだからどけ」

「……とっしぃーのあそこ、さっきからのぼせてるよ?」

ちょっと黙ろうな。

「そんな事言ってると、襲うぞ?」

「……そのために泊まりにきたんじゃないの?」

「だーからっ、泊まりに來たのはお前を元気付けるためだって言ってんだろ。1日で元気になりやがって、もう帰っていいか?」

「……帰りたいの?」

「…………」

寂しそうな聲で言われると、何も言い返せなくなってしまう。

帰りたい――ではなく、帰ってもいい、ぐらいには思う。

俺の家は揚羽と頭姫が居て、楽しくないわけじゃないし、帰って損はしないだろう。

でも俺は津月のためにここまでしたし、それに、ここには俺の知らない津月が沢山あるような気がした。

見たことのないマイク機材とか裝とか、アイドル関連のものもあるだろう。

中學の思い出もあるだろう。

俺は――

「まだ帰るつもりはねぇ。もっと、お前の事を知りたい。そう思ったんだ」

「……。知りたい?」

くねくねといてり合わせてくる津月。

そんな事をされれば、普通の男子なら理を失うだろう。

俺も半分理が飛んでいたが、もう半分でなんとか堪えた。

今はまだ、キスだってしてやらない。

「お前の思い出を知って、俺の知らないお前の姿を知って、そしたら、誰も知らないお前を知りたいと思う。それまでそのは綺麗に洗ってとっとくことだな」

「……でも、時間が経てば抱いてくれるんだ?」

「いや、知らん」

「なーんだよーっ……」

不満そうにする津月だったが、俺はとうとう我慢の限界で風呂場から逃げ出すのだった。

もそうだが、が茹で上がって赤い。

俺はを拭くと、パンツだけ履いて部屋に戻るのだった。

「熱い……」

「お前のせいだ、お前の」

布団で仰向けになる俺に、パジャマに著替えた津月がうちわを仰いでいた。

エアコンもついてる筈だが、なかなか俺のは冷めない。

「ついでに、私にのぼせてくれればいいのに」

「お前ってそういうこと平気で言うよな」

「隠したってしょうがないもん。それとも、本當に伝えたい事は隠して隠して、照れながら思いを伝えるような乙が好み?」

「いや、そんな事はねーけどさ……」 

自分の理想の像なんて、本當に好きな人と被るかどうかってわからないもんだ。

それに、津月を見て育ったんだから、理想の像なんて……。

……怒ってもんだり泣いたりしない津月。

うん、これが理想だな。

「……今、何か失禮な事考えなかった?」

「理想のは、怒っても泣きんだりしない津月がいいと思った」

「……じゃあ、ばなかったら付き合ってくれる?」

「…………」

付き合えるならそうしたいが、頭姫も悲しませたくない心がある。

しかし、いつかは選ばないといけない事で、もう先延ばしにしたって仕方ないだろう。

そもそも、俺が津月を放っておけば、俺は頭姫たけを選ぶ事ができたんだ。

なのに何故、俺は津月の家にまで押し掛けた?

優しい、その一言で片付けて良いのだろうか?

俺は――。

「……好きなんだろうな、きっと」

「……?」

「なんでもねーよ。ウザい顔でこっち見んな」

「うわっ! ひどい!」

ベチベチと俺の頬を叩いてくる。

コイツ、俺が弱ってるのを良いことに……。

「ていうかさ、今2人っきりなんだし、俺の事洗脳すればいいじゃん。"津月を好きになれ"って言うだけで、お前は俺を惚れさせる事ができるだろ?」

「そんなのヤダ。自分の力で惚れさせなきゃ、負けた気がするじゃん」

「その聲も自分の力だろ?」

の子はワガママなんだよっ! もうっ、とっしぃーが私にメロメロだったら、こんな苦労してないよ……」

「でも俺が惚れないおかげで、お前はいろいろ苦労して頑張ったんだろ? よかったじゃねぇか」

「…………」

何故か耳を引っ張られる俺。

何故そうなるのか。

「……とっしぃー、一生私に振り向いてくれないの?」

ポツリと呟かれた悲痛な言葉に、俺はを刺されたような気がした。

コイツが俺を好きで居てくれて、もう何年経つのだろう。

何年頑張らせ続けたのだろう。

もう、終わらせてあげないと、さすがに可哀想だ。

「ぶっちゃけ、今日で半分振り向きそうになったんだけど」

「……え?」

「もうし泊まるからさ、そしたらきっと……」

俺の知らない津月を知って、しずつ好きになるんだろう。

そしたら俺は津月を好きになって、一緒になって、付き合うのはそれからだ。

「……利明」

熱を帯びた聲で呼び掛けられる。

はいつのまにかうちわを置いていて、その両手が俺の頬に添えられる。

顔を摑まれると俺は逃げ場がなく、そっと津月にキスをされた。

れ合うだけの優しいキス。

ただがくっついただけなのに、悸が激しくなった。

もとから暑かったはさらに暑く、俺はもうけなくなっていた。

「……ふふっ、もう利明は予約済みだからっ♪」

を離し、津月は嬉しそうに笑う。

どうやら今のキスは予約した意味らしい。

もう退路はない、このままコイツと添い遂げるしかないようだ。

まぁ――悪くはないだろう。

そうして俺は、宿泊1日目にして津月に心を奪われた。

いろいろと話すうちにもっと好きになり、夏休みが終わっても、俺は津月の家に住み続けた。

頭姫や揚羽には、俺達が付き合う事になったのを、わかっていたかのように素直におめでとうと言われ、やけにあっさりしていたおかげで俺も心が救われたんだ。

「……兄さん、ツッキーとの初夜はどうだった?」

「兄さんはそんな事を聞くような妹に育てた覚えはない」

「えー? いっつも私達3人一緒だったじゃん。報は共有しようよ」

「まだ持ってない報は共有できん」

何気ない帰り道、俺と津月、揚羽、頭姫の4人で帰るさなか、揚羽が卑猥な事を聞いて來たので俺は本當の事を言って返す。

まだ手を出してないと知るや、揚羽はため息を吐く。

「同棲してるくせに、手を出さないとか、兄さん、それはヤバいよ。男として死んでる」

「死んでねーよ。結婚するまで待つ事にしたんだ。どうせ俺はこの先、津月以外のと付き合う事もないし、のんびりやるっていうか、お互い初だし、プラトニックに行こうってノリ?」

「ノリ……?」

揚羽は疑問を浮かべてポニーテールをぶらぶらさせたが、俺もこのノリはよくわからん。

ぶっちゃけ毎晩襲いたくなるし、俺の息子も毎日のぼせるから苦労している。

せめて場所を構わず抱きついて來たりしなきゃあなぁ……。

「……って、後ろの利明が言ってるけど、ツッキーとしてはどうなの?」

「いつでもバッチコイだお☆」

「だってさ、利明。よかったね?」

前を歩く津月と頭姫が會話を聞いていたらしく、會話を繋げて來た。

いつでもと言われても、ここまで待ったんだし、もう18歳まで待つしかないだろう。

結婚してからって意味で。

まぁ、でも……。

俺はそれまで、この3人と過ごしていくのに変わりはないはずだ。

津月、俺の彼……。

一度は離れ離れになったけど、今は手をばせば屆く距離にいる。

これからは離さない、ずっと側にいる。

お前がずっと、そうんでいたように――。

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