《ぼっちの俺、居候の彼頭姫ルート/普通であること

揚羽、頭姫との生活も2週間が過ぎただろうか。

夏休みというものの、揚羽は部活で合宿に出かけてしまった。

合同の高校生が合宿とかヤバイ予もするが、揚羽に傷が付くことはないだろう。

ロシアが怖いからな、うん。

というわけで、1週間ばかりは俺と頭姫の2人で家に居る事になる。

俺は夏の音楽祭に向けた打ち合わせで家を出る事も多いのだが、準備は早めに終わって、あとは當日を待つのみとなっていた。

つまるところ暇なので、今日は學生らしく、夏休みの宿題を片付けることにする。

「おい、頭姫」

「んー?」

リビングのローテーブルにノートや問題集を広げた頭姫に聲を掛けると、すぐにこちらに笑顔を向けた。

今はヘッドホンもしておらず、暑いからか半袖と短パンだけで、男子の目に毒だ。

まぁ姿はなんでもいい、勉強を教わらなくては。

……いや待てよ? 俺が金出して宿題やって貰った方がよくないか?

頭姫よ、バイトしない?」

「え? なんのバイト?」

「俺の宿題をしてくれ。1科目5萬。どうだ?」

「宿題ぐらい自分でやりなよ……」

苦笑しながら斷られてしまった。

おのれ、勉強としか取り柄のないくせに、まるで使えん。

「じゃあ家庭教師やれよ。あれ? 家庭教師って日給? 時給?」

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「いつもお世話になってるんだから、お金はいらないって。……でも、一緒に勉強かぁ……。私、集中できないかも……」

顔を赤くさせ、むすっとした表で俺を見つめる頭姫。

そんな事を言われても困る。

一彌は急に呼んでも來ないだろうし、津月はアレからし疎遠に、揚羽も居ない……。

どうせ2人きりなのだし、気にされても困るのだ。

「お前しか居ねーんだよ。頼む」

「……もうっ。仕方ないなぁ」

頭姫は言葉とは裏腹に、嬉しそうにテーブルの端にズレる。

俺は空けてくれたスペースに――頭姫の隣に腰を下ろし、テーブルに教科書とワークの山を置いた。

この宿題はどの程度の期間をかけて終わらせる事を先生は見積もっているのだろう。

三日三晩寢ないでやっても終わらないんじゃないかという量だが、ちゃんと溶けるやつには3日で終わるんだろう。

俺はちゃんとできない方なので、終わらせる気はなかったが。

「……もうさ、やんなくてよくね?」

「やらなくても怒られるだけだし、好きにしたら?」

「素っ気ねぇなぁ……。いいよ、やるよ。頭姫大先生が俺の腕にを當てながら教えてくれるしな」

「…………」

ゴンッと、テーブルに載せた俺の手に頭姫の拳が落ちる。

やめろ、鉄拳なんて求めてない。

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「はぁ……利明っていつもマイペースだよね? こんなに可の子と2人っきりなのに」

「 俺別に、お前のこと好きじゃねーし」

「…………」

もう一発、手にげんこつを食らった。

めっちゃジンジンする。

「……利明、私を怒らせるの楽しい?」

「ちょっとからかっただけだろ。それに本當の事だしな」

「……酷い。私はこんなに好きなのに」

「そう言う割には、結構控えめだよな、お前」

「…………」

言ったことが當たったのか、頭姫は黙った。

揚羽も居て2人きりになる機會はそうそう無いのに、頭姫は俺に構わず勉強していたし、毎朝布団に潛り込んでは來るけど、一線を越えたりはしない。

結局コイツは何がしたいんだ、ってじなんだ。

「……私さぁ、利明と釣り合わないって、わかってるんだ」

ポツリと彼が呟く。

水面に広がる波紋のように、微かな悲しみを含む聲だった。

俺は黙って話を聞く。

「私さ、普通なんだよ。ツッキーのように歌が上手いわけでもないし、一彌さんみたいに多岐になんでもできるわけじゃない。照流さんみたいにパソコンに強くない。利明みたいに――作曲もできないし、お金もない……。ちょっと勉強ができて、し周りから見て可い、普通のの子。こんな私じゃ利明の側にいる資格はないって、心わかってるの」

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「だから俺からを引きたい、でも好きだから引きたくないって自己矛盾か」

「……そうだよ。って、なんで私、好きな人に相談してるんだろうね……」

「…………」

自嘲の笑みをこぼすと、頭姫の頬から雫もこぼれた。

ポタポタと涙が彼のノートに染み渡り、見ていられなくなって聲を掛ける。

「世の中さ、逆玉なんてよくある話だ。ヒモになりたいとか、家事もしないのに専業主婦になりたいとか、他人に寄生してラクに生きようって奴なんて山ほどいる。もともと釣り合う相手じゃないのに付き合い始めて、結婚して、相手との差は広がる一方。家でゴロゴロしてるだけの奴と働いて金稼いで來る奴が一緒に生活すれば當たり前だ。それでも差を気にしないのはクズだよ」

そこで一度言葉を區切り、俺は安心させるように頭 姫の肩へと手を置いた。

振り向く頭姫に向かって、優しく笑いかける。

「けどお前は、その差を気にした。俺に釣り合わないからとを引こうとしている。その優しさがあれば十分なんじゃねーの? 前にも言ったが、今から何かを始めてスキルを磨けばいい。どうせ夏休みヒマなんだろ? 新しい事始めろよ」

ハッキリと言ってやった。

立ち止まり、俯うつむく彼が前を向くように。

頭姫は涙を隠さずに、ただ俺の瞳を見つめる。

「…………」

「……なんだよ?」

「……諦めなくていい?」

「そんなの、お前の自由だ」

「でも私、処じゃないんだよ……?」

「だからなんだ。より気持ち重視だ」

「……そっか」

「…………」

2度は叩いた俺の手に、今度は優しく手を置いた。

頭姫は俺に寄り添い、頭を俺の肩に乗せてくる。

溫、鼓、息づかいが伝わって、こそばゆかった。

「……私、頑張るから。今は手が屆かなくても、絶対利明を振り向かせる」

「手ぇ摑みながら言うなよ。屆いてんじゃん」

「だって、離れたくないし」

「…………」

い事を言ってくれる。

このままで居たら惚れてしまいそうだ。

「さぁーて、宿題をするぞー」

「しなくていいから。ねぇ、今日どこか遊びに行かない?」

「勉強は大事だよな、頭姫先生?」

「いつもは勉強しないくせに、調子いいんだから……」

プーッと頬を膨らませて反抗するも、頭姫は俺から離れてペンを持った。

俺も筆箱からシャーペンを取り出し、數學から手をつけるのだった。

5分後

「…………」

ジーッ

「…………」

ジーッ

「……なんだよ?」

ずっと俺の顔を見ながらニヤニヤする頭姫に、とうとう聲を掛けた。

すると彼はクスリと笑い、テーブルに頭を乗せて、俺の方を見ながら言う。

「好きな人が隣に居て、ずっと顔を眺められるんだもん。嬉しいんだよ、ふふっ」

「…………」

急に顔が熱くなるのをじた。

そんな恥ずかしい事を言われたら、さすがの俺も照れてしまう。

「……利明、顔真っ赤だよ? 可い♪」

「うぜぇー、お前の余裕たっぷりな態度腹立つ」

「えーっ? いっつも利明は私の事イジるじゃん。たまには反撃しても、いいでしょ?」

「ダメダメ、完全にアウトだから。つーかさ、ついさっき吹っ切れたからって攻め過ぎだろ。もっとゆっくり攻略してこうぜ?」

「ゆっくりしてたら、利明はツッキーに取られちゃうもん。遠慮なんてしないんだからっ」

橫から俺の腕に抱きついて彼は花が咲くように笑う。

半袖だから俺の腕は丸出しなのだが、その白い腕は彼に挾まれて意識が腕に集中してしまう。

らかいが即座に脳へ伝達され、今すぐ押し倒したい求に駆られる。

しかし、それはダメだ。

こんな簡単に理が吹き飛ぶ俺ではない。

「――ねぇ、利明?」

ギュッと、抱きしめる力を強めて彼は問う。

俺は短く聞き返した。

「なんだ?」

「……処じゃなくてもいいって事、証明してみせて」

「は――?」

何を言ってるのか。

そう聞き返そうとして、俺はを塞がれた。

視界いっぱいに広がる頭姫の顔、れるらかい

俺は今、目の前のにキスされていた。

甘く溶けるようで、とは違うらかさに、俺のは金縛りにあったかのようにけなくなってしまった。

が離れると、オデコをこつんとぶつけられ、彼は笑いながら言う。

も太ふとももも……も……。これで、完全制覇だね……?」

それは彼が初めに俺のベッドに潛り込んで來た時に言った事と繋がっていた。

――とかいいつつも、る箇所を徐々に制覇してるじゃん――

……これで完全制覇らしい。

だから遠慮なくって、処じゃなくてもいいって証明しろって?

「……はぁ」

ため息がこぼれる。

2人っきりでこの狀況、この言葉、この想いにれて、俺の心は大きく揺れいていた。

それに、據え膳食わぬは男の恥とか言うらしい。

今食わなければ頭姫に恥をかかせる事になる、それは嫌だ。

俺は人を喜ばせたくて頑張って來た男、そこはプライドが許さないし、何よりも――

頭姫がどれだけ俺を想っているか、改めてわかったから。

想いに応えないわけにはいかない――。

「……リビングでやるのは気がひけるんだけどな」

「んっ……」

「仕方ねぇ。後悔してもしらねぇからな――」

そして俺は、頭姫を押し倒した――。

○△○△○

もう夕暮れ時なのか――そう思えるほど赤い空を見て驚いた。

頭姫との行為を終えて、気持ちが落ち著くと俺は外に出た。

勢いのままにやってしまい、今まで耐えてきたものを崩してしまったのだから、遣る瀬無いのだ。

しかし、いつかこうなる気はしていた。

仮にも若い男が2人で暮らしているのだ、仕方ないだろう。

気持ちを整理して考え直して、俺にも後悔がないとわかったし、このまま頭姫と添い遂げるのも悪くないと考えていた。

「利明くん」

不意に聲を掛けられる。

考えるよりも早く振り返ると、夕暮れからびた影が2つ、俺に向かって歩いていた。

聞きなれた聲、俺をくん付けで呼ぶ奴はアイツしかいない。

「照流――」

「やぁっ、利明くん。ちょっとお話ししようよ」

そこに居たのはスーツを著込んだ照流と、學生服姿のオリガだった。

オリガはおそらく、照流の監視役として付いていてくれてるんだろう。

コイツが話……?

「なんだよ、話って」

「……ボクが聞く事なんて、君の関連の事以外ないでしょ?」

「…………」

把握した。

コイツは、俺と頭姫の関係を知っている。

家の中にカメラが――?

いや、それはないだろう。

今日あの場には頭姫の攜帯もあったはず。

でもハッキングはロシアが妨害してくれるんじゃ――。

いや、考えるのはやめよう。

現実は現実としてそこにあるだけだから。

照流は儚く笑い、いつもの彼らしからぬ掠かすれた聲で言った。

「とりあえず……おめでとう、かな? 良かったね、やっと彼ができて」

「……お前に言われても、嬉しくねーけどな」

「冷たいこと言わないでほしいな。浜川戸頭姫を君の元に送ったのは、ボクなんだよ? 謝してほしいぐらいなんだけど?」

勝気な様子で、敬えと言わんばかりに腰に手を當てる照流。

そんな姿とびる影に、俺は違和しか覚えなかった。

コイツはお祝いの言葉を言うために、わざわざ俺の所に來るじゃない。

「用があるなら言えよ。なんだ?」

「せっかちだなぁ……。まぁいいけどね。じゃあ要件を言わせてもらうけど――」

そこで一旦言葉を區切り、彼は俺の瞳を覗いた。

視線が重なると、彼の瞳からは不安のが見える。

不安――それは何故なのか、理解できなかった。

照流は最後まで言葉を綴る。

の疑問は、はたから見て當たり前なものだった。

「――なんで彼なの? 君の周りには才能溢れる人がたくさんいるのに、どうして普通で平凡で、どこにでもいるようなと付き合うの?」

悲しげな聲だった。

きっと俺に、もっといい人と付き合うよう期待していたのだろう。

 そりゃあいいと付き合う可能は十分にある。

能力だけで考えれば、津月を速攻選んでてもおかしくはない。

でも、それって違うんだ。

「単純な事だけどさ、俺たちは早く大人になり過ぎたんだ。俺もお前も一彌も、津月でさえも。力を持って、若いのに社會に出て……。だけど、その時は誰にだって訪れる。大學を出て就職して、働いて一年目はみっちり勉強してさ、力を蓄えて社會に出る。そんなの誰だって一緒だ」

そう、俺たちは早く羽化して飛び立ったに過ぎない。

中學の時はサナギ達の中に居るのにウンザリしていたんだと、今ならわかる。

そして、頭姫もサナギの1つなんだ。

「今俺たちが言う優れてるとか優れてないとか、そんなの大した事ねーんだよ。ガキだから視野が狹くて、自分が有能とか小さい事考えちまうだけに過ぎない。つまりさ、俺達も普通なんだよ。俺だってどこにでもいるような作曲家になるし、お前もどこにでもいるようなシステムエンジニアになる。それが全てなんだよ。だから、俺が頭姫と付き合うのなんて、當たり前な事なんだ」

長い目で見ればそうなんだと、ハッキリそう言ってやった。

照流はキョトンとしてしまい、やがてニッコリと笑う。

「一彌はまだバイトだし、ボクは社長になるんだよ? そこ、間違えないでよね」

「そりゃ悪かったな、社長。よくもまぁアレだけの事をして、のこのこ俺の前に現れる」

「今更それ言う? いいじゃん、君に彼が出來たならボクも諦めるし、友達ぐらいにはしてよ」

「オリガ、ソイツのことよろしくな」

「了解〜♪」

「えっ!? ……はぁっ、仕方ないなぁ」

オリガが照流のを取り押さえ、彼は諦めてため息を吐くのだった。

……でも、こうして俺の將來とかを心配してくれるんだし、いつかは友達に戻れるかもしれない。

照流は未だ敵だがそのうちアイツにもパートナーができて、俺は祝うのだろう。

俺はそっと踵を返し、家路を辿るのだった。

後ろから聲をかけられることはなく、暮れゆく空だけが世界の全てのようで――。

○○○

「遅い」

家に帰ると、玄関先に頭姫が出迎えてきた。

プーッと頬を膨らませ、これでもかと顔を近づけてくる。

俺はそのにキスをして黙らせ、3秒で離すと玄関を上がる。

ただ散歩に行って頭の中を整理しただけで、荷とかは何もない。

俺はなんとなくローテーブルの前に座り、リモコンを取ってテレビをつける。

すると後ろからドタバタと頭姫がやってくる。

なにやら顔を赤くして口をパクパクしているが、お前は金魚か。

「とっ、利明ぃ〜っ!!!」

失禮な事を思っていると、金魚はやっと言葉がから出てきたようで、俺の耳に屆く。

そしてバカみたいにぶのだった。

「なんでナチュラルにキスするのっ!? バカバカッ! 卑怯だよぉっ!!」

「うるせぇな。いいだろ、キスぐらい」

「よくないから! あのねぇ、心の準備ってものが……」

「晝間あんだけいでた分際で何を――」

頭をブン毆られ、俺は口を閉ざす。

これ以上喋っても頭姫の逆鱗にれるだけだろう。

まったく、めんどくさい……。

「だってさ、まだ大事な事聞いてないんだよ?」

急に落ち著いた聲で同意を求めてくる。

俺なんか言ってないか?

まるでわかってない顔をすると、頭姫はため息を1つ吐き、俺の側に腰を下ろして見つめてくる。

「……私のこと……か、彼にしてくれる?」

頬を桃に染め、つっかえながらも尋ねてきた。

そんな事をいちいち気にするらしく、俺はどう言おうか悩む。

だが、今の関係から考えれば、この言い回しが適當だろう。

「お前、もう居候じゃねぇな」

「……え?」

「だってさ、これからは同棲どうせいになるんだし……な?」

「ッ……!」

俺の言葉を聞き、頭姫は目を見開いた。

同棲――それは際している男が同じ家に住む事。

だからもう、頭姫は居候じゃない。

俺の彼になったんだから、同棲って言わなきゃ変だもんな。

「――利明ぃいいいっ!!!」

ガバッと両手を広げて俺に抱きついてくる。

俺は彼の勢いのままに押し倒されるのだった。

こんな形で俺と頭姫は結ばれた。

ぼっちだった俺に彼が聲をかけてきたことから始まり、俺の問題も彼の問題も解決して、これからはずっと一緒だ。

自分が劣ってるとか、普通だとか、學生のうちは當たり前だし、気にしなくていい。

たとえ自分に合わないものだとしても、それに似合う自分になればいい。

まだサナギだというなら俺が蝶になるまで面倒を見てやるし、蝶になってからも、側にいてやる――。

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