《四ツ葉荘の管理人は知らない間にモテモテです》住人紹介

春休み終日の晝下がり、おれはようやく桃園以外の住人に會えた。全員、おれの一方的に見知った顔であったことに、おれが驚きを隠せなかったのは當然だろう。

ここで四ツ葉荘の建についてお話しよう。まず一階はセキュリティがしっかりとしたオートロックのエントランスホールになっていて、二階の管理人室と繋がっている。そして三階、四階、五階は住居になっており、それぞれ二部屋ずつという人數向けの賃貸だ。バス、トイレ、キッチンは各部屋についている。なので、春花のように毎食を管理人室で食べる必要はないのだが、春花曰く基本的に住人はみんなで集まってわいわい食事をとることが好きらしい。

そして、住民について取り敢えずおれがわかっていることをまとめておく。

まず三○一號室のぬいぐるみ部屋の住人、桃園ももぞの 春花はるか。花の神のようなしさで、花高の憧れの的になっている。趣味はぬいぐるみの収集(おれがデザインをしているパートナーシリーズを全種類集めることに熱を上げている、嬉しいことだ)、そのぬいぐるみの服を作ること。食事時以外は部屋にこもりっぱなしなことから、なにをしているか聞いたところ、趣味が高じてネットでぬいぐるみ専用の服を売っているらしい。しかし売上は家賃や趣味に消えていくことからいつも金欠に陥っているそうだ。

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次に三○二號室の住人は、立葵たちあおい 夏樹なつき。花高の教師で、おれが一年生の時は彼がクラス擔任で、運部の顧問ではないのにいつもジャージを著ていた。毎日ジャージだとだらしなく見えるはずなのに、暖かな人柄と丁寧な授業、そして綺麗に切り揃えたショートカットがよく似合うスタイルのいい人なことから全くそうには見えず、ジャージが完璧な先生のチャームポイントのように思えた。そんな立葵先生に、『なぜジャージをいつも著ているのか?』と、誰も突っ込むことができずに一年間を過ごした。なぜ先生はいつもジャージだったのだろうか、仲良くなれたらいつか聞いてみたい。

そして四○一號室の住人、竜膽りんどう 秋乃あきの。花高の先輩である。三年生とは全く思えないく(そう、例えるならまるで小學生のようだ)可らしい外見に、とてもよく似合う小さなおさげをしている。しかしその外見からは想像できないほどスポーツ萬能で、たくさんの部活に助っ人として參加しており、報酬は甘いものであることは有名な話だ。とても明るい格で、小さな八重歯が見える笑顔はみんなに人気で、學校ではいつも人に囲まれている。そんな彼に上目遣いで話しかけられて、先輩なのにおれの妹のような錯覚に陥り思わずでてしまったのも當然だろう。

最後に四○二號室の住人は、星原ほしはら 冬海ふゆみ。おれの馴染で小中高ずっと同じ學校に通っている。まさか四ツ葉荘の住民だとは思ってなかったので、春花に紹介された時にけない聲を出してしまったのは、顔合わせが済んだ後の今でもし恥ずかしい。彼は図書室の妖と言われているぐらい儚く綺麗な外見をしており、いつも綺麗にまとまっているポニーテールの先を揺らしながら歩く姿は同級生とは思えないほど大人びている。よろしく、とクールに挨拶をされ、馴染なのに男の距離をじてしまい、ちょっぴり寂しくなってしまったのは緒だ。

五階はまだ住人はいないが、姉ちゃんはいずれ住人を募集する予定だと言っていた。

なかなかの濃いメンツ、そして全員人という驚愕の事実に震える管理人のおれがまずできること、それはご飯を作ることだ。

今日の晩飯はどうしよう、パーティーのような料理がいいなと別冊を読みながら考える。春花以外の人に振舞う初めての食事だ、喜んでしい、にやけながらページをめくっていく。

あっ、これがいい! これならパーティーのような食事になるだろう!

ホワイトソースのグラタン、様々な種類のサンドウィッチ、シーザーサラダ、これなら食事をしながら話もできるだろう。早速買いに行こうと準備をしていると、管理人室の扉が開いた。

「蒼太、晩ご飯の買いに夏樹先生が車を出してくれるって」

そこには、人四人組がいた。春花だけでもとても人でおれはドキドキするというのに、人が四人も揃うと圧巻だ。開いた口が塞がらない。

「今日の獻立は決まったか? 管理人さん」

先生は休日でもジャージだった。しかし、そんな考えは先生のウインクで全てを持って行かれた。

「四ツ葉くん、秋乃、お腹すいちゃったよぉ」

竜膽先輩は大げさにお腹を抑えると、にこにこと駆け寄っておれの左手を抱きしめた。圧倒的な妹力におれはくらりとする。

「秋乃先輩、蒼太くんが驚いてるから離れてください……晩飯の準備、私も手伝うわよ」

冬海はおれにくっついている竜膽先輩を引っ張ると、おれの目をじっと見つめながらそう言った。馴染で見慣れた顔のはずなのに、その貌で見つめられると、どぎまぎしてしまう。

「こぉら、みんな落ち著いてよ! 蒼太がびっくりして固まちゃってるよ」

春花はむっとしながら、おれの右手をとった。なんだこれは! もしかしてこれがハーレムか! いやまさか夢なのか!

おれが焦って何も言えずにいると、春花と冬海が一瞬だが見つめ合った。一瞬だったのになぜか火花が飛び散った気がした。

「なに? ちょっと春休みの間、一緒にいたからって一くんのことを分かった気になってるの、春花?」

冬海が引きつった笑顔でそう言った。あれ、なんだか雲行きが怪しいぞ。

「冬海だって馴染らしいからって、急に知ったかぶっちゃってどうしたの? ちょっと落ち著こうって」

目が笑ってない春花が笑顔を作る。また二人が見つめ合ったと思えば、右手を春花に、左手を冬海に引っ張られ始めた。い、痛いです、二人共!

「四ツ葉が泣きそうになってるぞ、春花、冬海。離してやれ」

呆れたようにため息をつきながら、おれの救世主、先生はそう言ってくれた。先生の言葉は鶴の一聲だったようで、二人はすぐに手を離してくれた。

「ありがとうございます、先生。助かりました」

先生は大人のかっこよさで、片目をつむりながら手を降る。かっこいい!

「春花ちゃんも冬海ちゃんも子供だねぇ。四ツ葉くん、大丈夫?」

竜膽先輩がやれやれと頭を振りながらそう言う姿は年相応で、見た目とのギャップに驚くと同時にときめいてしまった。。

「ほら、行くぞ」

おれがドキドキしていると、先生が先にすっと部屋を出て行く。竜膽はさり気なくおれの頭を優しくでると先生の後について行った。春花と冬海はまた見つめ合い、ふんっと二人して鼻を鳴らし、またおれにくっついた。

近い、近いです。

おれの気持ちは無視され、二人に引っ張られるまま、一緒に部屋を出た。

買いは四人の人に囲まれた一般人のおれは世間の奇妙な視線に曬されたまま行われ、晩飯はみんなの笑顔と嬉しそうな聲で管理人室が満たされた。

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