《四ツ葉荘の管理人は知らない間にモテモテです》夏樹先生の

沈黙が流れる気まずい帰り道を進み、四ツ葉荘でエレベーターを待っていると立葵先生は神妙な顔をして言う。

「すまん、どう言えばとか何を言えばとか、全然思いつかなくて何も言えなかった。晩飯を食べ終わる頃には決心が著くと思うから、時間を作ってくれ」

その気まずそうな聲が、いつもかっこいい立葵先生から出たと思うと可くて、思わず笑ってしまう。

「はい、いつでも聞かせてください。なら言いにくくて當然ですから」

「いや、というほどじゃないんだが……まあ、買ってきたものを部屋に置いてくる」

ようやくきたエレベーターに乗り、おれは管理人室へ、立葵先生は部屋に戻った。

「ただいま、冬海。駅前のスーパーに味噌あったよ」

話しながら部屋に進む。

「おかえりなさい、蒼太くん。それはよかった。あったかいお茶を用意してるよ。外は寒かった?」

「パーカーのおかげで寒くなかったよ。ありがとう」

そこには立葵先生以外の全員が揃っていた。

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「準備任せて悪かったな」

「春花と秋乃先輩も手伝ってくれたから、気にしないで。あとはお味噌をとくことと、魚を焼くことだよ。先生が帰ってきたら、焼き始めるつもり」

「おかえりー。冬海ちゃん、秋乃のサラダはトマト抜きがいいな」

竜膽先輩はそう言うと、並べてある小鉢にったサラダからトマトを移させた。

「蒼太、おかえり。秋乃先輩、そのトマトは私にください。私、トマト好きなんですよねー」

そうやって嫌われたトマトは、トマトが好きな春花の元に屆いた。そんな些細な行も仲の良さを伺えて、優しい気分になる。

「立葵先生と一緒に帰ってきたんだ。だから、そろそろ魚を焼き始めるか。冬海は座っててくれ」

手を洗い、魚を焼きに並べるとタイマーをセットする。おれも定位置に座ると、三人の會話にる。魚が上手に焼きあがった頃に、立葵先生が管理人室にってきた。

どうやらお風呂にった後のようで髪のっていて、首からタオルをかけている。前を開けたジャージの下に著ているTシャツには英語で“君ならできる”と書いてある。気合がってる、とし驚いた。

「ちょうどご飯ができましたよ、ぴったりです。じゃあ、食べ始めましょうか」

そうやってご飯を食べ始めた。冬海が作ってくれてたおひたしは味しくて、みんなおかわりしていた。

みんながご飯を食べ終わり、用事があると立葵先生以外は部屋に帰っていった。

「立葵先生、コーヒーでもれましょうか?」

まだ言いにくそうな顔をしている立葵先生に、おれは落ち著かなくなって立ち上がる。

「いや、いい。あと夏樹でいい。あのな、言いにくいんだが、実は私は食費を多く出しているんだ。緑がいた頃はつまみを作ってもらっていたからな」

そうだったのか。たしかに食費を六等分できないと思っていたが、そういう取り決めがあったとは思わなかった。

「わかりました、夏樹先生。食費の分はすみません、多く頂いていた分はお返しします」

「いや、それはいいんだ。それより頼みがある。今度、緑のレシピ通りにつまみを作ってくれないか? どうしても緑の味が食べたいんだ」

夏樹先生は指を組んだり解いたりして、落ち著かないようだ。

「生徒に頼むことは悪いと思っているんだが……レシピを教えてもらっても、私は料理があまりに不得意だから作れない。レシピを教えてもらっても、なぜか壊滅的な味になるんだ。本當に頼む!」

顔を真っ赤にして頭を下げる姿に、おれも頭を下げる。料理、下手なんだ……

「夏樹先生、頭を上げてください。おつまみなら、おれに作らせてください」

こんなにお願いされたら、斷るわけにはいかない。おれが言った瞬間、夏樹先生はすごい勢いで頭を上げた。

「本當か! いや、生徒に頼むのは悪いと思ってたんだが、けてくれて助かるよ!」

おれの手を取り、顔と顔がくっつきそうなほど近づく。綺麗な顔が目の前にあるせいで、ドキドキする。夏樹先生の瞳はキラキラ輝いていて、本當に嬉しそうだ。

「蒼太、夏樹先生、なにしてるの……」

低い聲が聞こえた。二人して振り向くと、そこには春花がいた。目が笑っていない笑顔もしく、とても怖かった。

「これから蒼太がおつまみを作ってくれるんだ! 春花、これから緑がいた頃みたいに、私は味しく酒が飲める!」

夏樹先生は全く気にしていなかった。春花の元に進み抱きしめ、ぴょんぴょん飛び跳ねる。そんなに嬉しいんだ……

春花は毒気を抜かれたようで、それはよかったですね、と気を抜いた聲で頷いた。

夏樹先生の晩酌は、みんながお菓子を持ち寄る、一週間に一度の楽しいパーティーになり、みんなが參加するようになった。みんなの仲はもっと深まっていった。

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