《四ツ葉荘の管理人は知らない間にモテモテです》秋乃先輩のライブ

毎週金曜日に行われるパーティーも、今日で三回目だ。

「そうたぁ、このおつまみ、おいしーぞー。あははは」

夏樹先生は完璧に酔っていた。まだビールの一本目なのに、気になりすぎだ。

「確かにこの豚しゃぶ豆腐、おいしいねぇ」

秋乃先輩も麥茶を片手にそう言う。前回のパーティーがあった時に、秋乃先輩から下の名前で呼ぶよう言われたのだ。呼び名が変わっただけで、結構親しくなれた気がする。

テーブルに並べられているのは豚しゃぶ豆腐、枝豆、塩キャベツ、だし巻き卵、豆腐ケーキだ。みんな話しながらつまむと、話題は冬海と春花が作ったケーキに変わった。

「冬海って本當に手際がいいんだよ、本當にすごかったぁ」

春花はニコニコと笑いながら、キャベツをとる。春花はキャベツを口に運んでいる。この塩キャベツがお気にりのようだ。

「春花も練習したらすぐにできるようになるよ。裁が得意だから、細かいことも苦にせずできそうだし……私も追い越されないように、の特訓を始めようかな」

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冬海は枝豆をつまみ、自分を肯定するように頷くと、それを口に運ぶ。

「味見なら秋乃に任せてよ、冬海ちゃん。だし巻き卵もおいしいね、蒼太くん」

「そうですね、秋乃先輩。もっと々アレンジできそうで可能じてます」

 おれはだし巻き卵に明太子や枝豆を混ぜた変わり種を作るのもありだなと思った。

「わたしはおまえたち、みぃんなにかのうせいをかんじてるぞー!」

夏樹先生が吠える。酒好きなのに酒にとても弱いだなんて、ちょっと気の毒だ。

「豆腐ケーキもおいしい! 春花ちゃんも冬海ちゃんも蒼太くんも、料理上手だねぇ」

秋乃先輩はずっと何かを食べている。そのすさまじい食いっぷりにみんな満足していて、笑顔になった。

「そういえば來週の金曜日に、軽音學部のライブがあるから、みんな來てよ」

「ぜひ行きます。うわぁ、楽しみです」

秋乃先輩はより笑顔を深める。その笑顔に、おれの心は秋の木れ日に包まれたように暖かくなった。

コンサートは花高の育館で行われている。秋乃先輩以外の四ツ葉荘の住人は、並んで座っていた。秋乃先輩はトリを務めるらしく、それは秋乃先輩が軽音學部の中でも上手なことを表している。

「秋乃の出番は次だな。みんな上手だったが、秋乃たちは別格だぞ」

「ライブって初めてだから、すごい興してる! 秋乃先輩頑張れー!」

「私も初めて! ライブってこんなにすごいんだね! 秋乃先輩、応援してます!」

夏樹先生は落ち著いているが、春花と冬海の興はすごかった。初めて參加すると周囲の高揚が相乗効果になり、興を高めているのだろう。

「みんな、今日は最後まで付き合ってくれてありがとー! でももうちょっと頑張ってついてきてね!」

秋乃先輩がステージに立つと、歓聲はより大きくなる。おれたちも聲を振り絞った。

秋乃先輩とメンバー全員が目線を合わせ頷くと、音楽は始まった。おれは音楽をよく知らないが、とても上手いことだけはわかる。

そこに秋乃先輩の力強い聲が加わると音楽はより一層盛り上がる! 周囲は熱気に包まれ、おれは圧倒された。そして帰ったら、絶対にノートに向かおうと決意する。秋乃先輩の歌は心をかす力があるのだ。

音楽が止んでも、熱気は収まることはなかった。アンコールを求める聲に、秋乃先輩はすぐに答えて、ステージに上がる。その曲もすぐに終わった気がした。

ライブが終わって、外の空気を吸うと、火照ったに春の空気はとても気持ちがよかった。

「すごかった……」

おれがそうらすと、春花と冬海も大きく首を縦に振る。

「みんな上手だったけど、夏樹先生が言う通り、秋乃先輩たちは特に上手だった……」

冬海はまだぼうっとしている。周囲に舞っていると揶揄される雪の結晶も、心なしか溶けている気がする。

「本當にすごかったね! イメージの泉だった!」

春花はいつもの上品さを忘れたように、階段に座り、ノートに服を書いている。おれはイメージが散しすぎて書けそうにないが、春花はインスピレーションに従うタイプのようだ。

「ジュース買ってきたぞ。秋乃たちはどんどん上手になるな」

夏樹先生はみんな分のジュースを買ってきてくれたようだ。禮を言ってけ取ると、各々顔にくっつけて涼を取っていた。しるし合わせたわけではないのに、同じ行をするのが面白くて、みんな笑ってしまう。

ジュースを飲んで休憩している間、みんなライブの余韻に浸っていた。

帰ったら秋乃先輩の謝を伝えたいと思った。夜空を見上げ、星を仰ぐ。いつもと同じ夜空だが、今日はもっと輝いて見えた。

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