《異世界に食事の文化が無かったので料理を作ってり上がる》5 食材とタブレット

「さて、では行きますか」

リーナが貯金を崩して買ってきた転移結晶を手に言うが……ちょっとその前に。

「あ、ちょっと待ってろ」

「忘れものですか?」

「いや、持ってく予定はなかったけど、こう……なんつーか、転移結晶を用意して貰った例がしたい」

「いいですよ。寧ろこれは私からのお禮の一部みたいなものですから」

「いいから」

そう言って俺は一旦荷を置くと再び部屋へと逆戻り。

……さて、持っていく予定はなかったというか忘れていたものだが、とりあえずちょっとした禮の品を用意しよう。

流石にリーナを外で待たせて何かを作るわけでは無い。

もう既に作っていて、簡単に食べられるがある。

「……気にいってくれるかな?」

実を言うと昨日晩飯を終えた後、暇だったのでお菓子を作っていた。

手作りクッキーだ。出來栄えは完璧。昨日作った分の半分ほど食べたけど、最高においしかった。

これと後は冷蔵庫にオレンジジュースが買ってある。それをコップに注いで、一応手摑みで食うだからウエットティッシュも用意し、リーナの元へと戻る。

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「お待たせ。良い持ってきた。とりあえずこれで手ぇ吹いとけ」

渡したウエットティッシュで手を吹きながらリーナが聞いてくる。

「なんですか、そのオレンジの水と……それは?」

「お菓子とジュースだよ」

「お菓子? ジュース?」

やはりリーナは首を傾げるので、頑張って説明してみる。

「まずお菓子の説明しとくか。例えばお前がさっき食った生姜焼き弁當みたいな奴は、まあ言ってしまえばお腹が空いた時にそれを満たす為に食う……なんというか、役割的にはお前らが食ってるタブレットみたいなものだ」

「なるほど。じゃあお菓子というのは?」

「その間に食べたかったら食べる……まあ嗜好品だな。食ってみれば分かるぞ」

「食べていいんですか!?」

「その為に持ってきたんだ」

「ありがとうございます!」

リーナは本當に嬉しそうに聲を上げる。

……クッキー一つで凄いな。

「それでそのオレンジの水は」

「文字通りオレンジの果実から絞り出した果でできた飲みだ。おいしいぞ」

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「それも飲んでいいんですか?」

「いいぞ」

「やった!」

そう言ってリーナが嬉しそうに言って、皿に出してきたクッキーを一つまみして口にいれた。

「んん~ッ!」

サクサクという音と共に、リーナが幸せそうな聲を上げる。

「ほんのりと口の中に広がるおいしさが……ああ、なんて表現したら……」

……なるほど。タブレットと恐らく水だけを飲んで生きているから甘いだとか辛いだとか、そういう味覚の事も全然分からないんだな。

「多分それは甘さだ。食べってカテゴリは同じでも、さっき食ったのとはまた全然違うだろ?」

「はい! そっか、これ甘さって言うんだ」

えへへ、と幸せそうに笑みを浮かべる。

そして次はコップに注がれたオレンジジュースに手をばした。

「これ、一どんな味がするんだろ」

「飲んでみ?」

言われてリーナはオレンジジュースを一飲みする。

「おいいしい……こ、これ……本當にオレンジからできてるんですか?」

幸せそうな表でそう俺に聞いてくる。

「そうだな。果100%だからオレンジそのものだな」

「そうですか………あれがこんなにおいしいだったなんて」

「というかオレンジとかは普通に分かるんだな」

「分かりますよ。それをこうしておいしく食べられるなんて事は知りませんでしたけど、普通に植図鑑にものってます」

その答えはし意外だった。

食べない以上、果の類の知識も欠落しているんじゃないかと思ったがそうではないらしい。

まあ食べないというだけで生學や植學としての知識は普通に広がっているかもしれないし。

リーナの言葉をそういう解釈で納得した俺だったが、流石に次の言葉をな流す事は出來なかった。

「あー、こんなに味しく食べられる食べられるをタブレットにしてたんですか。勿ない」

「……へ?」

タブレットに……してた?

「………ちょっと待て。あのタブレットの原材料ってオレンジなのか!?」

予想外の言葉にそう訪ねると、リーナは丁寧に教えてくれた。

「オレンジも原材料の一つになりますけど、それだけじゃないですよ。それだけで作れば栄養が偏りますから。だから牛とか豚とかや魚。野菜や果などを、食べる対象の人の調や格とかんな條件を考慮してバランスよく集めて、後は魔でどーんですよ」

「……なに、そんなマジカルなやり方で作ってんの?」

「そうですね。そうやって食べただけでお腹が膨れて栄養バランスが完璧なタブレットが出來上がりです」

「……マジでか」

ってことはなんだ。食料の収穫なんかはやってるのに、それが全部タブレットの材料になってるってわけなのか?

……だとすればなんて勿ない事をしているんだ。材料が普通の食材なら、もう食べる目の前まで來てるじゃないか。

いや、ちょっと待て。

……そうだ、目の前まで來てるんだ。

「……いいこと聞いた」

「どうしました?」

「一応聞くけど、そのとか魚、後は野菜か。一般の市場に流通してるか?」

していないと思うけど一応聞いてみると、やはり予想通りの答えが帰って來た。

「いえ、してないですね。一般の人が手にしても仕方がないですから。タブレットの製造業者に直接下ろしてるじですね。ギルドの簡単な依頼で野菜の収穫の手伝いとかもありますけど、収穫した野菜は全部業者に流れていまし……あ」

リーナがそこで何かに気付いた様に言う。

「もしかしてタブレットの材料って全部食べたら味しいで……それが流通していない。だったら私が料理を覚えても材料が手にらないんじゃ――」

俺が先程まで抱えていた不安要素と同じを覚えたらしい。

リーナは不安そうにそう言うが、その不安は多分払拭できる。

「俺もさっきからそれが心配だったんだけどさ、案外どうにかなるかもしれない」

だからこそ朗報なんだ。

「食材を生産していて、業者に流れるルートがある。それを知れただけで今は十分だ」

とにかくどんなルートであれ食材が出回っている。その事実があまりに大きい。

正直この世界で食材を調達しようと思えば、最悪自分達で作育てたり狩りとかしないといけないんじゃないかと思ったけれど……だけど生産者と流通ルートがあるなら話は別だ。

「後はなんとかして俺達にも卸してもらえるようにしてもらえればいい」

「でもそんなのどうやって……」

……そしてそのやり方は大雑把だけど思い付いた。

確かに意味もなく既に固まっている流通ルートを枝分かれさせる事は難しいんじゃないかと思う。

なくとも良く分からない連中がそんな申し出をしてきた所で事は進まないだろう。

そんな程度で新規事業者が參できるような社會ならきっと誰も苦労しない。ましてや既存の顧客とは180度用途が違う事業者なら尚更だ。

新卒二年目で偉そうな事は言えないけれど、社會は思った以上に甘くないんだ。

だとすればやるべき事は一つ。

「簡単じゃねえかもしれねえけど、俺達が食材を下ろしてもらえる様な存在になればいい」

「それってどういう……」

「その食材を使っておいしい料理って奴を作る、食材を下ろしてもいいような連中って認識を持たせるんだ」

「認識を持たせる……つまり食べてもらうって事ですか? その卸売業者や生産者の人に」

「まあそれでもいいけど、それは向こうからすれば得の知れない何かを持った良くわからん人間が飛び込み営業しに來たのと変わらない様にじる可能が高いんじゃないかと思う。食べてもらえりゃいいけど、下手すりゃ門前払いだ。そんで仮に飛び込み営業を仕掛けるにしても、まず先にもっと違う人達をターゲットにしたほうがいいと思う」

「違う人達というと?」

「一般の人だよ。そういう人達に食べてもらう。するとうまくすりゃ口コミが広がって、俺たちは無事タブレットを作るわけじゃないのに食材を卸してほしいなんて言うよくわからない人達じゃなく、ちょっとした実績のある料理人という、ある程度信頼できる取引先になるわけだ」

そうなってくれれば渉とかもやりやすくなると思う。

「でもそうやって実績を得るまでの食材はどうやって調達……あ」

リーナはそこまで言って勘づいたらしい。

そう。食材を分けてもらうために実績を得るには食材が必要で、本來そうなったら結局自分で調達するしかないというハードモードになってしまう訳だけれど、そもそも俺達は食材が今すぐ必要な訳ではない。將來的に必要になってくるから手を打たなければならなかっただけだ。

「當分は食材持ち込む予定だからな。なんの問題もねえよ」

今こうして持ち込んでいる様に、まずは俺の世界で食材を調達していけばいい。

「よかった、それなら問題なさそうですね」

「だな。やり方はこれから考えなきゃだけれど、これで多は先行きが明るくなったな」

「はい!」

もっとも行に移した後、早期に決著つけねえと俺の資産が無くなるんだけれど。もし不特定多數に振る舞うならそこそこの量を用意しないといけないわけだし。

……大丈夫かな? 貯金あんまりないんだけど。

「あ、師匠も食べます?」

「じゃあ一つだけ」

まあ一歩前進したんだ。

金の事はおいといて、今は素直に喜ぼう。

俺はクッキーをかじりながら、金の事は一旦忘れてポジティブに考える事にした。

うん、クッキーすっげえうめえや!

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